襲撃
その瞬間、このままではやばいという予知による直観がさけんでくる。
「ハッ、危ないフローラ!?」
なのでフローラを押し倒す形で横へと逃げた。もちろんケガをさせないように抱きしめながらだ。
その直後、先ほどまで二人でいた場所に、強力な衝撃波が地面をえぐりながら通り過ぎっていった。もしあのまま立っていたら、今ごろあの攻撃の餌食になっていたに違いなかった。
「シンヤくん!? ななな、なにを!? そういうのはもっとお互いのことを知ってからじゃないと!?」
顔を真っ赤にさせ、あわあわしているフローラ。
どうやら急に押し倒されたことで頭がいっぱいで、完全に周りの状況についていけてないみたいだ。
なので敵の方を指さし、うったえる。
「いやいや、状況を見てくれ!? ほらあれ!?」
「はっ!? ありがとうシンヤくん、助けてくれて。あとは任せて!」
フローラは敵の方を見て、察してくれたらしい。すぐさま立ち上がり前に。そして剣を引き抜き、かまえた。
「いきなり攻撃してくるなんて、なに者だあいつ?」
シンヤも彼女に続き立ち上がる。
「わからないわ。でも向こうは完全にこちらをヤル気みたいね」
「小僧、なにものだ? きさまからわずかだが感じるその力……。ああ、目障りだ」
男はいかにも不愉快そうに、シンヤへ殺意を向けてくる。
(もしかして女神さまからもらった力のことをいってるのか!?)
ここで驚くのは、男がシンヤの特異性に気づきかけているということ。一切ボロを出していないにも関わらず見抜かれるなんて、この男は何者なのだろうか。
「いったいなにが起こっているのだ。あの方の復活がもう間もなくというときに、先ほどあらわれた大きな光といい、この小僧といい。あの女の指示を仰ぐか? いや、さすがにあのお方に害をなすであろう者を、見過ごすわけにはいかない。ここで始末をするべきだな」
男は顔を手で覆いながら考えをめぐらせる。そして再び手を前へ突き出そうと。
「はっ!? させない!」
フローラは男が攻撃を仕掛けようとしていることに気づき、すぐさま前へ。敵との距離を詰めようとする。
「消え失せろ」
そこへ男は再び攻撃を。強力な衝撃波が地面をえぐりながら、前方の敵を薙ぎ払おうと咆哮をあげる。
しかし。
「氷雪の息吹よ!」
フローラは止まらず、左手を振りかざした。
その瞬間、凍てつく暴風が発生し、通過地点を次々に凍らせながら猛威を。
あれこそゲームやアニメでよく使われる、魔法という力。この世界にはマナと呼ばれる純粋なエネルギーが存在する。その無色のエネルギーであるマナに、属性や形といった方向性を与えることで様々な力を生み出すことができるのだ。これこそがこの世界の魔法という概念なのであった。
そしてフローラの魔法が敵の衝撃波にぶつかり、これを相殺。はじけおわる瞬間、冷気が周囲に吹き荒れ草木を凍らせていった。
「これでおわりよ!」
だがフローラの攻撃はまだおわらない。凍った地面を駆け抜け、勢いを殺さずそのまま突貫。間合いを詰め、敵の懐へと潜りこんだ。
「小癪な!?」
男は腕を振りかざし迎え撃とうとするが。
「ハァァァッ!」
それより先にフローラの放った剣の刺突が、彼の胸板に吸い込まれていき。
「ぐふっ!?」
見事男を貫いた。
「いろいろ聞きたいことはあるけど、あなたは危険すぎる。だから、ごめんなさい」
フローラは申しわけなさそうに目をふせ、剣を引き抜く。
それと同時に男は仰向けに倒れた。あれはどこからどう見ても致命傷。もはや助からないだろう。
「すごいな、フローラ。まさかあんなあざやかに倒してしまうなんて」
「ふふ、ありがとう。これも日ごろの鍛錬の成果よ」
髪を払い、優雅にほほえむフローラ。
「それよりもさっきの男のことで、聞きたいことが」
そしてフローラはシンヤの方へ歩みよってくる。
(ッ!? なんだ!? このいやな予感!?)
だがそこへシンヤの予知が警報を鳴らす。
「フローラ、まだおわっていない!?」
「え?」
フローラが後ろを振り向くと、そこにはさきほど倒れていた男が、いつのまにか立ち上がっていたのだ。しかも手を突き出し、身体には得体のしれない不気味さをただよわせながら。
(なんだあの禍々(まがまが)しさ? こいつもしかして人間じゃないのか!?)
男のあまりの異質さに、身震してしまう。
というのも目の前の男の身体からは、禍々しいなにかを感じるのだ。まとっているというより、もはや一体化しているレベル。始め奇襲をしかけてきたときもうすうす感じていたが、今の状態を見て核心に変わった。おそらくあれは人と呼べる範疇を逸脱している。魔の存在であり、普通の人間でないのはもはや明らかであった。
「我を脆弱な人間たちと一緒にするなよ、小娘! 黒雷よ」
次の瞬間、ほとばしる漆黒の雷撃がフローラを襲い。
「きゃっ!?」
「フローラ!?」
彼女は剣で受け止めるも、そのあまりの威力にシンヤの方へと吹き飛ばされてしまった。
なのですぐさま彼女の方へと駆け寄る。命に別状はなさそうだが、ダメージにより意識がもうろうとしているみたいだ。これではしばらく戦えそうになかった。
「その力量。小娘、きさまも計画の障害になる可能性がある。ここで小僧とともに消させてもらうぞ」
男はふらつきながらも、二撃目を放とうと。
さらに最悪なのは、フローラの与えた傷がほぼ塞がっていること。なんと致命傷だったはずなのに、もう回復していたのだ。
「あのやろう、完全にヤル気かよ」
「――シンヤくん……、あなただけでも逃げて……」
「ああ、さすがにあいつはやばいから、逃げさせてもらうさ。ただフローラ、お前も一緒にな。ほら、立てるか?」
彼女の剣をさやへと戻す。そしてフローラに肩をかし、なんとか立ち上がらせた。
残念ながら今のシンヤではあの男を倒せない。胴体にあれだけ風穴をあけられても、死なない相手なのだ。ちょっとやそっとの攻撃で殺せるとは思えない。そもそもの話、予知からくる直観がさけんでいるのだ。今すぐこの場から逃げるべきだと。
「――くっ、走れそうにない。やっぱりシンヤくん一人だけで逃げたほうが……」
「ははは、こんな美少女を見殺しにして逃げるなんて、できるわけないだろ。それに戦力にはあまりなれなさそうだし、これぐらいしとかないと勇者の補佐役としてかっこうがつかないってな。というわけで問答無用だ」
「きゃっ!?」
ウィンクしながらほほえみかける。そしてフラフラなフローラをお姫様抱っこした。
「しっかりつかまっといてくれよ、お姫様。さて、死に物狂いで逃げますか」
「逃がすと思っているのか?」
「ははは、あいにく逃げ足には自信があってね。たとえ雷撃の嵐であろうと、かれいにお姫様をエスコートしてみせるさ」
殺意を膨らませる男に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ宣言する。
「ほう、それは楽しみだ。ではせいぜい無様におどってみせるがいい」
「――シンヤくん……」
フローラはシンヤの上着をぎゅっとにぎり、不安げに見上げてくる。
(決して分がわるい話じゃない。オレの予知のスキルなら、なんとか致命傷は避けれるはず。あとはいくら被弾しても、根性で走り抜ければ……」
余裕な態度を見せてはいるが、額には冷や汗が。足が震えそうになるのを、気合で押し殺す。
(腹をくくれ! 美少女の手前、カッコわるいところなんて見せられないだろ!)
まだシンヤの物語はなにも始まっていないのだ。せっかく転生したのに、こんなところで即終わるなんて笑い話にもならない。ゆえになにがなんでも生き延びなければ。
「まあまあ、お待ちください」
そんな緊迫した場面で、突然別の声が聞こえてくる。なんと男の後ろに、妖艶な雰囲気をまとう漆黒のドレスを着た女性の姿が。
「なんだ。きさまか。まさか見逃せというのか」
(今だ!)
男の気が乱入者にそれた刹那、シンヤは全速力で駆けだす。
「ちっ、逃がすか!」
しかし後方から死の予感が。
もはや後ろを確認せず、胴体にダメージを受ける予感にしたがい、すぐさま横へ跳び引いた。すると背中すれすれに黒い雷撃が通り過ぎていく。もし振り返り目で確認していたら、回避に間に合っていなかっただろう。
「ははっ」
ちらっと後ろを振り返りながら、不敵な笑みを浮かべる。
どうしたこの程度かよと、挑発を込めてだ。ここで怒りを湧き上がらせ、狙いの制度をにぶらせる作戦であった。そしてそのまま再び全力疾走を。
「あれ?」
しかしいつまでたっても次の攻撃が飛んでこない。振り返って確認してみると、男が身をひるがえしているところであった。
(見逃してくれたのか。でもとりあえずはここから離れるべきだ!)
謎の女性の言葉を聞き入れたのか、たんに興がそがれたのか。なにはともあれいつ気が変わり、襲ってくるかわからない。なのでそのままひた走る。
こうしてシンヤはフローラとともに、この場を離脱するのであった。