おさわり!?
シンヤとトワはミルゼ教の祭典を途中退場させられ、廃坑内のミルゼが使っていたVIPの部屋へ通されていた。というのもここから彼らはなにかやるらしく、自由にさせておけないとのこと。なのでこの部屋で、しばらく隔離しておくことになったらしい。ちなみにミルゼはアジトを離れるらしく、アルスタリアへ送ってもらうまで好きに使っていいらしい。
「それにしもとんでもないことになったな」
シンヤたちは大きなふかふかの高級ベッドへ腰掛け、祭典での出来事を思い返す。
「あれって本当にミルゼ教の信者さんたちが、魔物を使役できるようになったの?」
「たぶん間違いないだろうな。実はここに乗り込む前、追ってた信者が魔物を使役してきたんだ」
アルスタリアの旧市街地で出会ったミルゼ教の信者。彼は逃走するため闇の魔法を行使し、さらには魔物を使役して戦わせていたのを思い出す。あの力もミルゼの眷属化のスキルに違いない。
「じゃあ、あそこにいるみんなは」
「――ははは……、そう考えたら、すごい戦力増強だよな。しかもミルゼたちはまだまだ信者を増やし、眷属化しようとしてたし。これは早めに手を打たないと、大変なことになるぞ」
もはやあまりのでたらめさに笑うしかない。
ここで恐ろしいのは魔物を使役して戦わせるため、その当人に戦闘力が必要ないということ。なのでただ一般人であろうと、ミルゼ教の戦力になってしまうのだ。ゆえに信者が増えれば増えるほど、こちらは劣勢に立たされてしまうという。
「帰ったら、さっそく冒険者ギルドやフォルスティア教会に報告しないとだな。まあ、それはそれとして、直近の問題として絶対レティシアたちに心配かけてるよな、これ」
シンヤはミルゼ教の信者を追って。トワに関しては急に行方不明になったのだ。今ごろなにかトラブルに巻き込まれたのかもしれないと、レティシアたちが心配しているに違いなかった。
「そうだよね。わたしたち無事だけど、今の状態をみんな知らないわけだし」
「早くアルスタリアへ戻って安心させてやりたいけど」
「解放してくれるの明日だもんね」
トワとシンヤは肩を落とす。
今ミルゼ教は忙しいため、アルスタリアへ送るのは明日になるとのこと。なので今日はこの廃坑内で過ごさないといけないのだ。
「その分、牢屋とかじゃなく、ミルゼの部屋で明日までもてなしてくれるらしいからな。身の安全に帰りの手配までしてもらってるし、わがままいうのもな」
「あれ、じゃあ、今日はこの部屋でシンヤと一晩過ごすってこと!?」
トワが口をあんぐり開けて、確認してくる。
「まあ、そうなるな」
「お、同じベッドで?」
「どうしてもイヤっていうなら、床で寝るけど?」
ベッドは大きいため、二人で寝ても全然余裕だろう。しかし年ごろの女の子としては、男と一緒のベッドに入るのは抵抗があるかもしれない。身の危険も当然感じることだろう。
「それはさすがに悪いよ……、ベッドがこんなにも大きいわけだし……。でも変なことしちゃだめだからね!」
胸元近くで両手をブンブンしながら、必死に釘をさしてくるトワ。
その姿があまりにもかわいかったため、少しからかいたくなってしまう。
「変なことってなにをだよ?」
「――そ、そ、それはあれだよ!? シンヤがわたしに……、ごにょごにょ……」
トワが顔を真っ赤にさせて、手をもじもじしながら口ごもる。
「オレがトワになんだって?」
「もー! シンヤのいじわる! わかってるくせにー!」
彼女はシンヤの腕をポカポカたたきながら、抗議を。
「ははは、悪い、悪い。絶対手は出さないから、安心してくれ」
「ほんとにー? そうは言っても実際同じベッドで寝たら、わたしの身体にムラムラしちゃたりするかもよー?」
トワは意味ありげに胸元を押さえ、なにやら上目遣いをしてきた。
どうやら仕返しに、彼女もからかってこようとしているみたいだ。
「ははは、そういうことはもう少し出るところが出てから言おうな」
「なっ!? シンヤ! もしかしてわたしの胸が、つつましいとか思ってない!?」
トワの頭をポンポンしてさとしていると、彼女は聞き捨てならないと詰め寄ってくる。
「まあ、ちょっと思ってる」
ちなみに彼女の胸は普通のサイズより、少し小さい感じ。とはいえちゃんとある方だろう。ただ同じ年ぐらいのイオの立派なものを見ていたため、どうしても比べてしまっていたという。
「ぐっ!? そう見えるだけでちゃんとあるもん! なんならさわって確かめてみてよ!」
「って、おい、トワ!? 自分でなに言ってるのかわかってるのか!?」
「だってこのままじゃ、わたしのプライドが! ほら、早く!?」
彼女は胸を強調するように前へ出し、催促を。
もはややけくそになっている様子。ムキになって、完全に引っ込みがつかなくなっているようだ。
「早くって言われてもだな、――ごく……」
許可を得たため、合法的に女の子の胸を触れることに。男としてはあまりに魅力的な提案だ。頭ではやめておいた方がいいとわかっていても、その誘惑に抗えそうにない。気づけば手を、彼女の胸へと。
「――うぅ……」
ちなみに当の彼女ははずかしさのあまりかゆでだこのように顔を赤くし、瞳をウルウルさせていた。そして触られると覚悟して、目をぎゅっと閉じる。
「てい」
「きゃっ!? イタイ!?」
対してシンヤはあと一歩のところで踏みとどまり、トワへデコピンを。
「――はぁ……、オレだったからよかったものの。そういう軽率な行動はやめとけよ。本当に危ないから」
「うん、わかった」
ほっと心から安堵しながら、素直にうなずくトワ。
「――い、今はこんなんだけど、わたし転生前はそれはそれはナイスバディですごかったんだから。む、胸なんか、こ、こんなにもあって! し、シンヤにも見せたかったなー、あははー」
しかしこのままただでは引き下がれないと、目を泳がせながらも懸命に虚勢を張りだす。
転生前なら、確かにその可能性があったかもしれない。しかしシンヤは彼女と元の世界で実際に会っているのだ。髪がきれいな銀色になっていること以外、転生前とまったく変わっていないその容姿。ウソだとわかってしまい、その虚勢ぶりに痛々しく見えてしまう。
なので思わず頭をなでて、なぐさめていた。
「よしよし、心配しなくても、きっとここから成長するさ」
「な、なに!? その憐みの目は!?」
そんなふうにわいわいやっていると、扉が開いた。
そして入ってきた人物は。
「しんや」
「イオ!? おまえどこ行ってたんだよ!?」
なんとイオがやってきたという。
彼女は廃坑内でミルゼ教のことについて調べていた途中、別れたきりだった。あのあとどうしていたのだろうか。
「それはいおのセリフ。しんやこそさっきから、ミルゼ教の大司教とかとなにしてるのー? あれ敵でしょ?」
「まあ、いろいろあったんだよ。いろいろとな」
イオからしてみれば、なんで敵側のミルゼたちと仲良くやっているのかと不思議に思っても仕方がないだろう。
「シンヤ、この子は?」
「ほら、オレとレティシアが探しにいってた、アルマティナ側の凄ウデ魔法使い、イオだ。そしてこっちはトワ。一応勇者なんだぜ」
「勇者ー?」
イオは小首をかしげ、トワをじっと見つめる。
「――そ、そう、わたし、じ、じつは勇者なんだ!?」
対してトワは気おくれしながらも、少しダサい戦隊ふうのキメポーズをしてアピールしだす。
「おぉー」
するとイオがパチパチと拍手を。
ただどこまで感銘を受けているのか、よくわからなかったという。
「――あはは……」
「そこらへんのくわしい話はおいおい話すよ。それよりもしかして助けに来てくれたのか?」
「というより知らせにきたー。なんか大変なことになりそうだからー」
「いったいどうしたんだ?」
「今夜、アルスタリアがミルゼ教によって襲われるらしい」
「なんだって!? くわしく教えてくれ!」
祭典を途中で退出させられ、このミルゼの部屋に隔離されていること。さらに退出時の、レネの意味深な言葉。あのときのイヤな予感はどうやら当たっていたようだ。
「わるいけど、それ以上のことは知らない。その作戦に参加した信者だけ、現地で説明を受けるんだってー」
「イオはそこへまぎれ込めなかったのか?」
「邪神の眷属に力を与えられた者だけしか、参加できなかったー」
「――そうか……。さすがにこのまま見過ごしてはおけないな。レティシアたちに知らせないと大変なことになるぞ」
「うん、なんかすごい大掛かりなことをするみたいー。大人数でなにかしらの儀式をするとかー」
「じゃあ、なおさらここでおとなしくしてるわけにはいかないな。ここから勝手に出たら敵と見なし、容赦しないと言われてるけどさ」
実はこの部屋に入れられたとき、釘をさされていたという。おとなしくしている限りは客人として扱うが、勝手に出たら敵対行動とみなし容赦しないと。
「うん、わたしも賛成」
トワも迷いなく同意してくれる。
「よし。イオ、ちなみに今、ミルゼやほかの魔人たちがどうしてるとかわからないよな?」
「なんか全員出払ってるみたいー」
「ははは、じゃあ、今が絶好のチャンスってわけだ」
一番厄介なミルゼ。さらにレネやガルディアスまでいないのは、シンヤたちにとって願ってもない状況。なにかしらの対策はされてそうだが、彼女たちとやり合うよりははるかにマシだろう。
「でも問題はアルスタリアへ帰る方法ー」
「イオじゃ、あれを起動したりできないのか?」
「あれはあっちの力がないとムリっぽいー」
ミルゼ教信者たちが使っていた、あの便利な移動手段。イオでもダメなら、シンヤたちではもはやなすすべがない。なんとか使えるようにして、アルスタリアへ戻らなければ。
「そううまくことは運ばないか。まあ、そこは信者たちを脅して、無理やり開けさせたらいいか。行くぞ、二人とも」
とにかく考えていてもしかたない。今は一刻を争うため、シンヤたちは行動を開始した。




