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魔人レネ

 レネという魔人の女性に案内されたのは、廃坑内に作られた会議室のような場所。部屋の中心には、長テーブルと複数のイスが設置されている。周りには雰囲気を出すためか、それっぽい家具や装飾がほどこされていた。

 そして現在、長テーブルの席にシンヤとトワ、レネが座っている状況だ。ちなみにトワはシンヤの背に隠れるようにして、ビクビクしっぱなしという。


「別に取って食おうとは思っておらんよ。そちらが手を出して来ないかぎりな。だから楽にするといい」


 レネは足を組みながら、酒の入ったグラスを片手に伝えてくる。

 彼女のテーブルの方には、いかにも高そうな酒のビンがいくつも置かれていた。


「この戦力。今ならオレたちをヤルのも難しくないはずだ。一体なにをたくらんでいるんだ?」

「なーに、興が乗っただけよ。まさか敵アジトのど真ん中に、二人だけで乗り込んでこようとは。大胆にもほどがあるだろ。くくく、実に愉快だ」


 レネはおかしそうに笑いだす。


「それに今日はミルゼ教にとって、とても重要な祭典があってな。多少のことなど無礼講よ。せっかくの機会ゆえ、おぬしらも参加していくといい。さぞおもしろいものが見えるぞ」

「オレたちからしたら有益な情報が入りそうだし、ありがたい話だがほんとにいいのか、それ?」

「もちろんだとも。ワレらが怨敵おんてきである勇者がゲストとして来てくれているとならば、より舞台が盛り上がるというもの。こちらとしてもありがたい。ミルゼさまも気合が入ろう。くくく」


 レネはシンヤたちへ手のひらを向け、愉快げに笑った。もはや今の状況を完全におもしろがっている様子。


(――くっ、ミルゼもその祭典とやらに、参加するということか……)


 話の流れから察するに、邪神の眷属であるミルゼもこの廃坑に来るということ。戦力的にみると、絶望どころの話ではない。魔人のレネだけでもどうなるかわからないのに、そこへミルゼまで来たら、今のシンヤたちでは手も足もでないであろう。


「にしてもおぬしらを最初に見つけたのがワレで、本当によかったな。もしこれがガルディアス、ミルゼさまだったら、あの場で容赦ようしゃなく消されていたかもしれないぞ? ワレが酔狂な魔人だったことに感謝せねばな」


 もしあの場で戦うことになっていたら、確実に未来はなかっただろう。レネをなんとか切り抜けられたとしても、すぐにラスボスクラスのミルゼと戦うことになるのだ。彼女が客人としてあつかってくれていなければ、どうなっていたことやら。


「その件については確かに感謝してもしきれないな」

「ほう、ものわかりのいい小僧だな。気に入ったぞ」


 素直に感謝の意を伝えると、レネが満足げにうなずく。


「ところでさっきからそこの勇者の小娘は、どうしたんだ? 小僧の背に隠れてビクビクしっぱなしだが?」

「――あ、あはは……」


 レネにツッコミを入れられ、トワはごまかすように笑った。

 彼女は今だずっとシンヤの背に隠れるようにしながら、レネの顔色をうかがっていたという。


「これはいつものことだから気にしないでくれ」

「そうなのか? なかなか変わり者の勇者なのだな。くくく、それにしても勇者をさかなに飲む酒も、なかなか乙なものだな」


 レネはトワを意味ありげに見つめ、酒の入ったグラスをゆらす。なにやらご満悦の様子だ。


「ねー、シンヤ、この人、話が通じそうな感じじゃない? うまく友好関係とか結べないかな?」


 そこへトワがひそひそと耳元でたずねてきた。


「まあ、ダメ元でやってみる価値はあるか」

「変な期待を持たせて悪いが、ワレはおぬしたちと馴れ合うつもりはないぞ。ここで仕留めようとしないのは、たんにおもしろくないからだ。ワレらはこれから本格的に行動を開始しようとしているのに、その手前で退場されてしまっては拍子抜けもいいところだ。張り合いがない。ゆえにおぬしらと雌雄しゆうを決するのは、もっとあと。いづれふさわしい舞台を用意してやるから、楽しみに待っているがよいぞ」


 すると聞こえていたのか、不敵な笑みを浮かべキッパリと断言してくるレネ。


「――うぅ……、やっぱりだめかー」

「とはいえすべてはミルゼさま次第。ワレらは彼女の意向にしたがうまでだからな」

「じゃあ、ミルゼちゃんをなんとか説得できればいいんだね!」


 落ち込んでいたトワであったが、希望が見えてやる気をあらわに。


「レネ様、祭典の件で少しご相談が」


 そうこうしていると信者が来て、レネに伝える。


「わかった、すぐに行く」

「はっ」

「というわけだ。ワレは祭典の準備で忙しくてな。そろそろ失礼させてもらうぞ」


 レネは立ち上がり、この部屋から出ていこうとする。


「オレたちはどうしてたらいいんだ?」

「祭典が始まるまでここでくつろいでいてもいいし、廃坑内をブラブラしてきてもいい。好きにするがいい。くくく、そうだ」


 レネはシンヤたちの方を振り返り、いいことを思いついたと愉快げに笑う。


「実はこの通路の奥の立ち入り禁止の場所に、人間にとってそれはそれは恐ろしい魔の存在。ワレらにとって唯一無二の至宝が眠っている。もし興味があるのならのぞいてみるといい。もしかするとおぬしらにとって、なにかしらの成果が得られるかもしれないぞ。くくく、まあ、命の保証はせんがな」


 そして意味深な言葉を残し、今度こそ部屋をあとにするレネなのであった。


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