騎士の少女
「ぐすん、あんなあられもない姿を見られて、もうお嫁にいけない」
少女は顔を両手でおおいながら、はずかしさのあまりかうつむいてしまう。
ちなみに服を着た彼女は、軽装の鎧を身にまとい剣を装備していた。
「まあなんだ、元気をだしてくれ。そのうちきっといいことがあるさ」
そんな落ち込む少女の肩に手を置き、はげましの言葉をなげかける。
「もとはといえばあなたのせいでしょ!」
すると少女はむーと、恨みがましい視線を向けてきた。
「いや、あれは事故でしかたなくだったし」
「もちろんウルフから逃げてきたという事情については、納得してるわ。でも問題はそのあとのあなたの態度よ!」
指をビシッと突き付け抗議してくる少女。
一応すでに弁解済み。ウルフに追われて滝からダイブしたことはすでに説明していた。
「普通あそこはいさぎよくビンタされて、謝罪するところでしょ。なのにあなたはさらに恥をかかせて……。そもそもの話、なんですぐに後ろを向いてくれなかったのよ!」
「いやいや、キミみたいな美少女の水浴び姿だぞ! むしろ男として見ない方が失礼ってもんだ」
対してシンヤはグッとガッツポーズしながら、熱くかたる。
「――ちょっと、なにを……」
「大丈夫、はずかしがることないさ。水にぬれた色っぽさといい、あのタオルごしからでもわかる抜群のプロポーションといい、もう最高だった! あまりのきれいすぎる光景に、女神と崇めたくなるほどだったよ。だから誇っていいぞ!」
「――あ、ありがとう……」
シンヤの絶賛の嵐に、少女は手をもじもじさせながら視線を逸らした。
だがすぐさまハッと我に返り、納得がいかなさそうにうったえてくる。
「って、そんな調子のいいこと言っても、だまされないわよ!」
「いや、まぎれもない本心だぞ! もう、脳裏に一生焼き付けたいほどだった! なんならもっと熱くかたろうか?」
「いいわよ! というかさっさと忘れて! おねがいー!」
少女は涙目になりながら、シンヤの胸板をポカポカたたいてきた。
「ははは、まあ、善処するよ」
そんな彼女の頭に手をポンポン置きながら、笑いかける。
「もういいわよ。それより自己紹介をしましょう。私はフローラよ」
ふてくされたようにそっぽを向く少女。それから胸に手を当て、自己紹介を。
「オレはシンヤっていうんだ。よろしくな」
「ええ、よろしく。ところでシンヤくんは冒険者なの?」
「え? なんでそう思ったんだ?」
「だって私の攻撃を軽くかわしてみせたでしょ。それに雰囲気がなんだか、ユーリアナの人っぽくないというか」
少女はほおに手を当てながら、首をかしげる。
ちなみに与えられていた知識によると、今シンヤがいるのはフォルスティア大陸に位置する大国のひとつらしい。
「じ、実はそうなんだ。かなり遠くの方から、このユーリアナ王国にやってきたんだよな」
頭の後ろに手を当て、適当に答えた。
今のシンヤの素性はあまりに異質。なのでここはごまかすためにも、彼女の話に合わせることにしたのだ。
「やっぱりそうなのね。ここにはなにしに来たの? 依頼で?」
「いや、私情で人を探してるんだ。それよりフローラの方は? 冒険者というよりは、騎士?」
「――えっと、そんな感じね……」
話題を変えるため質問すると、フローラが少し困惑気味に答えてきた。
「しかもあれだろ。その気品あふれる雰囲気的に、きっと名の知れた名家のお嬢様とかに違いない」
「あら、わかるものなのかしら?」
「ははは、もう可憐なお姫様って感じのオーラがすごいからな。しかもとびっきりの美人で、見るからにやさしそうで、もう女神様っていわれたら信じてしまいそうになるぐらいだし。ああ、フローラみたいな美少女につかえてもらったら、もう毎日が潤うんだろうな」
「もぉ、シンヤくんたら……」
恥ずかしそうにうつむきながら、スカートの裾をぎゅっとにぎるフローラ。
そのテレるあまりのかわいい姿に心の中で感動していると、異変が。
「うん? あれは……」
なんとフローラの後方に、フードをかぶった不気味な男がいたという。そしてフードをかぶった男は手を前へ突き出して。