邪神の眷属攻略依頼
アルダの森から帰ってきた次の日、アドルフに呼ばれ冒険者ギルド本部の建物に来ていた。そして現在、シンヤとトワは冒険者ギルド代表の執務室に通されたという。中には代表の席に座っているアドルフと、そのそばにレティシア、サクリの姿が。
「――よ、よく来てくれたね……、改めて自己紹介を……。冒険者ギルドの代表をやらせてもらってる、アドルフだ……」
アドルフが、うつむきながら力なくあいさつしてくる。
そのぐったりしている様子から、昨日の夜レティシアたちによほど説教されたみたいだ。
「えっと、アドルフさん、大丈夫ですか? すごいげっそりしてますけど?」
「――ハハハ……、昨日、あれからレティシアちゃんとサクリちゃんに、散々絞られてね……」
「ふふっ、どうしたの父さん?」
「くす、アタシたちがなにかした?」
レティシアとサクリが怖い笑顔で、彼に圧をかけだす。
「――い、いえ、なんでもありません!? いやー、昨日は娘たちと夜遅くまで、家族水入らずで楽しい時間を過ごしてね。だから寝不足なんだよ、――ハハハ……」
彼女たちにビビってか、笑ってごまかすアドルフ。
「昨日まではちょっと遠出していたが、しばらくはアルスタリアにいるつもりだ……。なにか困ったことがあったら、なんでも言ってくれ……、力になろう……」
「「うんうん」」
アドルフの答えに、レティシアとサクリが満足げにうなづいている。
どうやら無事、彼の考えを改めることに成功したようだ。その方法についてはきっと怖い内容のはずゆえ、詮索しないほうがいいだろう。
「――き、今日はあいさつと、もう一つ。――き、キミたちに少し込み入った話があってね……。え、えっとだな……、そ、その……」
そしてアドルフが話を進めようとするが、とてもしどろもどろ。視線がさまよいまくり、口ごもってばかりだ。
この極度のコミュ症ぶり。人の上に立つのは、あまりに向いてないというしかない。
「アドルフさん、どうしたんだろう?」
「トワと同じで対人関係に、難がありまくりらしいからな」
「そうなんだ。なんだか親近感が湧いてきたよ」
トワがアドルフに対し、親しみのまなざしを向ける。同族同士のシンパシーを感じているみたいだ。
「――さ、サクリちゃん! お願い!」
「――はぁ……、どうせこうなることだと思った。父さんに任せてたらなかなか話が進まないし、あたしがやるね」
アドルフの必死のお願いに、サクリはあきれながらも引き受ける。
「今、冒険者ギルドにフォルスティア教会、さらに各国から緊急の依頼がきているの。それは復活した邪神の眷属の攻略依頼」
そしてサクリがきびきびと説明してくれる。
「攻略だって?」
「向こうの動向を探りながら、戦力を削っていく。そして可能であれば、邪神の眷属を倒せっていうね」
「とんだむちゃぶりだな」
「この依頼は最重要案件だから、拒否権はない。しかもずいじ進捗を報告しないといけないから、適当にやるわけにもいかないのよね。ちゃんとなにかしらの功績を立てていかないと」
「もちろんフォルスティア教会とか、各国側も手伝ってくれるんだよな?」
「サポートはしてくれると思う。でも基本は冒険者側に丸投げのはずよ。どこも防衛に力をいれないと行けないから、攻略に人員を割く余裕はない感じね。だから自由に動けて戦力をゆうする冒険者に、この大役が回ってきたわけ」
「――そ、そ、そういうわけなんだ……基本エンジョイ勢の我々だが、さすがに世界の危機となると本腰を上げないといけない……。冒険者の働きによって、世界の命運が決まるといってもいいのだから……」
アドルフは相変わらずボソボソとかたる。かっこいいセリフのはずなのだが、その口調のせいで台無しであった。
「でさー、その邪神の眷属攻略のリーダーが、アタシなのよねー。本来は父さんのはずだったけど、この性格じゃあまりに向いてないでしょ? だからしかたなく引き受けたの」
レティシアが肩をすくめ、やれやれといった感じに笑う。
対してアドルフは、さぞ申しわけなさそうに頭を下げた。
「ごめんね、レティシアちゃん……。俺がふがいないばかりに……」
「前にレティシアが憂鬱そうにしてたのは、このことだったんだな」
初めてアルスタリアに来た日、街はずれの高台で彼女が見せたあの憂鬱さ。この内容なら納得というものだ。
「ええ、あまりに責任重大な役回りに、ちょっとあれだったわけ。でも今はわりと気が楽になりつつあるかな! シンヤとトワが、邪神の眷属攻略に参加してくれるならだけど!」
レティシアがシンヤたちへ、意味ありげにウィンクを。
「勇者が加わってくれるとか、これほど心強い味方はいないよね。邪神の眷属討伐も夢じゃないほどだし」
両腕を組み、うんうんとうなづくサクリ。
「だってさトワ。どうするんだ?」
「わたしが決めていいの?」
トワが自身を指さし、小首をかしげてくる。
「オレは補佐役として、トワにどこまでもついていくだけさ」
「――わかった。――わたし勇者として、みんなに協力するよ!」
トワが目を閉じ少し考えだす。そして意を決したように瞳を開き、宣言した。
「いいの! ありがとう! トワ!」
これにはレティシアがトワの手をつかんで、大喜びを。
「これで姉さんの肩の荷が少しは軽くなりそう。よかったよ」
「――ぼ、俺からもお礼をいわせてくれ、ありがとう」
そしてほっとするサクリとアドルフ。
「じゃあ、その攻略は、もう本格的に行動を開始する感じなのか?」
「――い、いいや、まだ準備期間というところだ……。情報も集まってないし、サポート要員も到着していないからね……」
「サポート用員?」
「――実はアルマティナ側が、冒険者側のために凄ウデの魔法使いを派遣してくれたみたいなんだ……。ただとっくにアルスタリアへ着いているころ合いとのことなんだが、まったく姿を見せてくれていない……」
「え? それってもしかして……」
ふとイオのことを思い浮かべる。彼女はアルマティナの方から、とあるお使いでアルスタリアに向かっていた。あとアドルフと戦おうとしたとき見せた、彼女の力の片鱗。凄ウデ魔法使いという言葉にも、当てはまっていたのだから。
「――ああ、昨日、シンヤくんと一緒にいた、イオという女の子のことだと思う……」
「そういえばアルマティナの魔女とかいう、すごい人のお使いで来てるとか言ってた気が……」
「――やっぱりか……」
「まだ冒険者ギルドのほうに来てないんですよね」
昨日の夜についていたはずなので、本来ならもうここへ訪れていてもおかしくない。だというのに来る気配がないのは、どこかでのんびりでもしているのだろう。
「――ああ……、向こうの言い分だと、サボって道草をくってる可能性が高いそうだ……。だから彼女を見つけて、引っ張ってきたほうがいいかもしれないと助言をいただいた……」
「確かにあの性格だと、すぐに仕事にとりかからなそうだ。じゃあ、迎えにいかないといけないってことですね」
「――シンヤくん、頼めるかな……? 彼女とは仲がよさそうだったし、キミが適任だと思うんだが……」
「わかりました。昨日の今日なのでまだアルスタリアにいるはず。どこかにフラフラと出ていく前に、連れてきますよ」
「――うぅ……、アルスタリアの街で人探し……。シンヤ、わたしはパスで……」
トワがおずおずと辞退しだす。
人混みが苦手な彼女ゆえ、街中を探し回るのはキツイだろう。ここはお留守番しといてもらうのがよさそうだ。
「ははは、トワには向いてないよな。オレ一人で行ってくるよ」
トワの頭をポンポンしながら、気にするなと笑いかける。
「じゃあ、アタシが代わりにシンヤを手伝おうかな! この街にくわしい人間がいたほうが、効率いいだろうしね!」
レティシアがシンヤの肩に手を置き、力になってくれようと。
「助かるよ、レティシア」
「それじゃあ、あたしがトワを借りるね。たまってる仕事を手伝ってもらうよ」
「――さ、サクリちゃんの!? ――う、うん、がんばるね!」
トワは一瞬たじろぐも、両手で小さくガッツポーズしながらやる気をあらわに。
トワのことは心配だが、しっかり者でめんどう見がいいサクリのことだ。きっとうまく彼女のことを扱ってくれるだろう。
こうしてシンヤたちは役割を分担し、行動を開始するのであった。




