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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
2章3部 魔法使いの少女

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安眠の責任

 現在シンヤたちは食堂をあとにし、宿屋へと戻っている真っ最中。夜ではあるがメイン通りはまだまだ人が多いため、人通りが少ない脇道わきみちを進んでいるという。


「本当においしかったですね! また近々あの店に行きたいです!」

「ははは、だな」

「はわわ、お腹いっぱいになって、眠くなってきたよ……」


 トワが目をこすりながら、大きなあくびを一つ。


「宿屋まではもってくれよ。さすがにトワをおんぶして運ぶ体力はないからな。――え? あれって?」


 そこでふと気づく。なんと少し離れた場所に設置されているベンチに、見知った人物を発見したのだ。


「――トワ、リア、少し野暮用が出来たから、先に宿屋に戻っててくれるか?」

「はーい」

「わかりました」


 トワとリアには先に帰ってもらい、シンヤはベンチの方へと歩いていく。

 そこにはイオの姿が。しかもここで驚くのは、彼女がベンチに寝転がり熟睡しているということだろう。


「――すやすや……」

「おーい、イオ、起きろー」


 相変わらず気持ちよさそうに寝ているため、アルダの森のときみたいにこのままにしときたい気持ちもある。しかしさすがに夜ゆえ、起こしたほうがいいだろうと判断。彼女の身体をさすりながら、起こすことに。


「うにゃ? あ、しんやだー。どうしたのー?」


 するとイオが起き、瞳をこすりながらまだ眠そうにたずねてきた。


「どうしたもなにも、こんな日が暮れた中寝てたら、カゼひくぞ。休むなら宿屋にしろ」

「うゆ? 今日はここで一晩過ごす予定だけどー」

「は? こんななにもないところでどうして?」

「こういういい天気のときは、外で野宿するのがいおのライフスタイルだからー。自然を全身で感じられるこの解放感。満天の星々がいろどる夜空をながめながら、眠りに落ちていくのはまた格別ー」


 イオは目を輝かせながら熱くかたってくる。


「たしかに気持ちよさそうではあるけど、かわいい女の子が一人野宿するのはいろんな意味で危ないだろ」

「でもアルマティナにいたときは、全然大丈夫だったよー。あっちではわりと普通のことー。それに自然を感じることはマナとの親和性が上がり、魔法の修行にもなるしねー」

「なるほど、そういう国がらなのか。でもここはアルスタリアだし、いろんなところから人が来てるからな。きっとよからぬことをたくらむ人間もひそんでるはずだ。だから安全面を考慮こうりょして、宿屋を利用したほうがいいぞ」

「そこまでそういうならー。じゃあ、しんやのところで寝るー」


 しぶしぶうなずくイオ。そしてシンヤの上着のそでをつかみ、上目づかいでうったえてきた。


「うーん、オレの泊ってる宿、まだ部屋空いてるだろうか?」

「違うー。しんやと同じ部屋って意味ー」

「いやいや!? それはそれでマズイだろ!」

「しんやがいおの安眠を奪ったんだよー。だから責任とってもらわないとー」


 イオがジト目で主張してくる。


「オレと同じ部屋で寝ることが、なんで安眠の責任につながるんだよ?」

「しんやといると、なんだか心が安らぐのー。だから添い寝してくれたら、きっと安眠待ったなしー」


 彼女はキラキラとしたまなざしを向け、つかんだシンヤのそでをクイクイ引っ張ってきた。


「同じ部屋だけじゃなく、同じベッドも狙ってたのかよ!? よけいに却下だ!」

「えー、どうしてー」

「同じベッドで寝るとか、間違いを起こしかねないんだぞ! 耐えるオレの精神面を考えてくれ!」


 もはや必死に説得するしかない。

 イオの童顔と小柄こがらさから、まだ小さな女の子と割り切ることができるかもしれない。しかし彼女は見た目に反して、出るところは出ていて立派なものをお持ち。そこがイヤでも女性さを認識させてきて、手を出してしまう可能性が。


「うゆ?」


 しかしイオは不思議そうに、ちょこんと小首をかしげるだけ。


「イオ、頼むから、もう少し警戒心を持ってくれ。無防備にもほどがある……」


 まったく理解してくれてなさそうなので、頭を悩ますしかない。


「とにかく! まずは宿屋を探すぞ! オレも手伝うからさ」

「はーい」


 イオは立ち上がり、アルダの森の帰り道のときのようにシンヤと手をつないでくる。


(こうもさらっと手をつかんでくるとは……)


 そのあまりにも自然な動作。よほど信頼されているのだろうか。彼女とつないだ手を見ながら、少しどぎまぎしてしまう。


「どうしたのー?」

「いや、なんでも。――そ、そういえばイオがアルスタリアに来た目的って、なんだったんだ? ――うん? イオ?」


 気恥ずかしさを隠すためにも、話をマジメな方向へ持っていこうとする。

 しかし返事がないため、視線を彼女の方へ。するとイオが路地裏の方を注意深く見つめていたという。

 彼女の視線を追うと、路地裏の奥に消えていくフードをかぶった男の後ろ姿が見えた。


「しんや、今からちょっとお仕事してくるー。だから、ばいばーい」


 ふとイオは手を離し、先ほどのフードをかぶった男を追おうと。


「仕事って?」

「説明するとちょっと長くなるー。それに巻き込んでしまうかもしれないからー」

「もしかして結構厄介な案件なのか? それならなおさら手伝うぞ」

「一人でだいじょうぶー。いおは優秀な魔法使いだからー、むふん」


 えっへんと胸を張るイオ。


「うーん、これまでのイオを見てると、ちょっと不安感がぬぐいきれないんだが……」

「じゃあねー」


 首をひねっていると、イオがタッタッタッと路地裏へと走っていってしまった。


「イオ、待っ……、行っちゃったか……。まあ、あの子もやるときはやるだろうし、ここは信じとくか」


 追いかけたほうがいいのではと思うのだが、今日の依頼でけっこう疲れているのも事実。なのでイオには悪いが、ここは休ませてもらうことにするシンヤなのであった。


2章3部 魔法使いの少女 完

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