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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
2章3部 魔法使いの少女

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世話の焼ける二人

 さっきまできれいな青空であったが、少しずつオレンジ色が混ざり始めてきた。

 暗くなった森の中は危ないため、そろそろ出発したいところである。


「――うぅ……、俺のコミュ障がもう少しマシだったら、レティシアちゃんにここまで迷惑をかけずに済んだかもしれないのになー」


 アドルフは酒瓶さかびん片手にうつむきながらひざを抱え、いじけだす。

 ちなみにイオは少し離れたところで、ボーっと雲をながめていた。


「まあ、人には得意不得意がありますからね。アドルフさんはその分を、戦闘面で活躍しておぎなっていけばいいんじゃないですか?」


 シンヤは彼の肩に手を置き、はげましの言葉を。


「確かに、その通りだ」

「ほら、いい機会だし、酒でも飲みながら悩みとか全部吐き出しちゃってください。オレでよければ、いくらでも話を聞くんで」

「シンヤくんといったか。キミはなんていい男なんだ。では、お言葉に甘えて」


 アドルフは感激しながら、シンヤが先ほど渡した酒瓶をグビグビと飲んでいく。

 実はこの酒瓶こそ、レティシアに渡された秘密兵器。レティシア抜きではきっとアドルフを説得しきれない。そこで彼の大好きなお酒を飲ませ、酔いとともに判断力が落ちたところをうまいこと誘導ゆうどうしてきてくれと、指示を受けていたのである。というのもアドルフは酔うとダルがらみしてきて、かなりめんどくさくなるそうだ。ただそこをうまく話を聞いてあげることで、だんだん心を開いてきてくれ従順になってくるとのこと。説得ならそこが狙い目だとか。なので降参したあと差し入れだと酒瓶を渡し、休息がてら一口どうぞと勧めて、どんどん飲ませていったのであった。


「ぷはー、うまい! やっぱこの酒だよなー。ひっく、あー、頭がボーとしてきた」


 酔いのせいか、ろれつが回らなくなりふらふらになりつつあるアドルフ。


(よし、だいぶ飲ませたし、そろそろ決めるか)

「でもアドルフさん。気まずいのはわかりますが、レティシアときっちり話しあった方がいいと思いますよ。もしこのまま避け続けていたら、今後の二人の関係性に深いみぞができるかもしれませんよ」

「――うぅ……、そんな……。レティシアちゃんに嫌われでもしたら、もう立ち直れない」


 アドルフががっくり肩を落とす。


「ならなおさら戻らないと。オレも一緒についていって、フォローしますから」


 そんな彼にやさしくほほえみかけ、うまいこと誘導していく。


「――覚悟を決めたよ、シンヤくん! 戻ろう!」


 するとアドルフが立ち上がり、意を決したようにこぶしをにぎりしめた。


「わかりました。イオを呼んでくるんで、少し待っててください」


 どうやらレティシアの作戦はうまくいったみたいだ。あとはこのまま酔っぱらってる彼を、アルスタリアへ連れていくだけである。

 いったんアドルフをその場に残し、ボーっと空を眺めているイオへと声をかけにいった。


「イオ、お持たせ。こっちの要件は全部終わったから、アルスタリアに戻ろうぜ」

「はーい」

「――と、その前に、イオ、手をつなぐぞ」


 シンヤについて来ようとする彼女に、手を差し出した。

 するとちょこんと小首をかしげてくるイオ。


「手ー?」

「目を離したら、イオはすぐどこかに行くからな。手をつないでいたら、離れ離れになることもないだろ?」


 気が付けば、いなくなっていたイオの行動を思い出す。きっと彼女のことなのでまた寄り道して、気づいたころにはどこかへ行っている可能性が高い。二人だけならしぶしぶ連れ戻しにいくが、今回は酔っている状態のアドルフさんもいる。そんな彼を介護かいごしつつ、迷子のイオを探している余裕などないだろう。ゆえに手をつないで、はぐれないようにする作戦であった。


「おぉー、しんや、頭いいー」

「ま、まあ、イヤなら、ムリにとは言わないけどな」


 とはいえ異性同士で手をつなぐのは、抵抗があるかもしれない。なので差し出した手を戻しながら、気をつかうことに。


「ううん、つなぐー」


 しかしイオはシンヤの戻そうとする手を、迷いなくつかんだ。


「しんやの手、大きいー。それにあたたかいー」


 そして彼女は目を爛々(らんらん)とさせながら、シンヤの手をぎゅーっとしてくる。


「ははは、イオの手は小さくて、かわいらしいな」

「くす、これでずっと一緒だねー」


 イオはルンルン気分でほほえんでくる。どうやらかなりお気に召したようだ。


「――お、おう……」


 対してシンヤは、女の子と手をつなぐということで内心どぎまぎしていたという。

 ただイオのほうは無邪気にはしゃいでいるといった感じなので、あまり深く考えないようにした。


「アドルフさん、行きましょう」

「でさ、シンヤくん、みんながさー」


 アドルフに声をかけにいくと、彼は大きな岩に親しげに話しかけていた。

 どうやらあまりに酔っぱらって、あれがシンヤに見えている様子。


「ちょっと待て……。もしかしてこのべろんべろん状態のアドルフさんを、介護しながら戻らないといけないのか?」

「しんや、がんばれー」


 イヤな予感にさいなまれていると、イオがのんきにエールを送ってくる。


「イオだけでも手を焼きそうなのに、そこにアドルフさんまで……。――ははは……、もういっそのこと、どちらかおいて帰ろうかな……」

「おじさんー、バイバーイ」


 頭を悩ませていると、イオがアドルフに手を振りお別れの言葉を。


「いや、置いて帰るのはイオの可能性もあるからな。一応、当初の目的はアドルフさんを連れて帰ることだったし」

「えー、しんや、いおを見捨てるのー?」


 上目遣いをしながら瞳をうるうるさせてくるイオ。


「くっ!? その顔、反則だぞ……。まあ、女の子を一人残して帰るのも気が引けるし、アドルフさんには自力でがんばってもらうとするか」

「シンヤくーん、そんなのあんまりだよー!?」


 イオの方を選んでいると、アドルフが手を伸ばしながらうったえてくる。


「いや、だっておじさんと美少女なら、誰だって美少女の方をとるでしょ」

「まったくもってその通りだっが、おじさんにもやさしくしてくれよー」


 アドルフがシンヤの空いた手をつかみ、泣きついてきた。


「あー、もー、わかりましたから! 暑苦しいんで離れてください!」

「シンヤくーん、そんなつれないこと言わないで、男同士仲よくしようよー」


 さっきのコミュ障とは思えない、ダル絡みっぷりである。


「しんや、なんだかねむくなってきたー。おんぶー」

「イオ、頼むから、街につくまでがまんしてくれ」


 シンヤの手をクイクイ引いてねだってくるイオへ、切実にお願いする。


「ぶー、ぶー」

「シンヤくん、聞いてくれよー」

(――はぁ……、まさかこんなことになるなんて……)


 世話のかかる二人にため息をつき、少しの間途方に暮れるしかない。

 それからイオとアドルフを連れ、なんとかアルスタリアへと戻るシンヤなのであった。



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