少女の水浴び
(くっ、あちこち痛いが、大したダメージはなさそうだ)
シンヤは滝から落下し、そのまま水辺にダイブ。現在は水辺の深いところに沈んでいる状態だ。目を開けると水面にそそぐ太陽の輝きで、上側はキラキラと輝いている。さらにここらの水はかなりきれいらしく、とても澄んでいた。
とくにケガはなさそうであり、落下による衝撃で少しクラクラする程度。身体の方も動きそうである。なのでそのまま泳いで水辺の浅瀬の方へと向かう。
「ぷはっ」
地上に出て大きく息を吸い込む。そしてそのまま岸へと上がった。
「はぁ、はぁ、まったく、ひどい目にあったぜ……。まさかあんな高いところからダイブさせられるなんてな」
両膝に手を当て息を整える。
「まあ、奴らから逃げ切れたみたいだし、よしとするか。とりあえず危機は去ったということで、ゆっくりと……。って、言ってるそばからイヤな予感が!? 今度はなんだっていうんだ?」
ふと予知による直観が湧き上がってくる。なにやらマズイ状況だと。なのであたりを見渡してみることに。今のところ滝の音が響くだけで周囲は静かであり、とくに危険はなさそうではあるが。
「――あっ……」
ふと隣に視線を移した瞬間、固まってしまう。それもそのはずシンヤの視線の先には。
「あ、あ、あわわ」
顔を真っ赤にしながら口を開け、固まっている十七才ぐらいの少女が。彼女は輝くきれいな金髪に、整った顔立ち。さらに見事なスタイルを持つ、凛とした雰囲気の少女である。
ここでの問題はその恰好であろう。なんと彼女は水浴びをしていたらしく、ほぼ裸状態だったのだ。ただ唯一の救いはちょうど水辺から出ようとしていたのか、タオルで身体を拭こうとしていた真っ最中だったこと。そのおかげで少女の大事なところはギリギリ見えなかったが、それ以外のところは。豊満な胸のふくらみであったり、きれいなくびれだったり。さらにまだあちこち濡れているせいか、よけいに色っぽく見えてしまっていた。
もはやいつまでも見ていたい光景だが、このままではさすがにマズイ。なので両手で制しながら、弁解しようと。本来ならここで背を向けるべきなのだろうが、シンヤも男。もう少し眼福気分を味わいたいという煩悩が働き、今だ視線は彼女の方を向いたままで。
「待ってくれ、これは事故で!?」
「い、いつまで見てるのよーーー!」
少女はびながらシンヤの方へとまたたく間に詰め寄り、右手を思いっきり振りかぶった。その間左手でタオルを胸元で押さえており、見えないようにしながらだ。
このあとの展開はあまりにお約束すぎて、簡単に予想できてしまう。彼女のビンタを思いっきり受け、制裁を受けるのだろう。そうなれば少しは彼女の気も晴れ、弁解がしやすくなるはず。実際見続けている自分もわるいので、おとなしくたたかれるべきなのだが。
「うわっ!?」
今のシンヤには予知のスキルが。それによりさっきのウルフ同様、とっさに攻撃をかわしてしまった。
「え?」
ビンタを空振りした少女は唖然とする。
シンヤは完全に無防備だったため、くらわすのは簡単な状態だったのだ。しかも彼女のビンタのキレはそうとうなもの。詰め寄る速度も尋常じゃなく、荒事になれているといった感じの動作。ゆえに完全にシンヤをとらえており、まさかかわされるとは夢にも思わなかっただろう。
「っ!? このっ!」
しかしすぐさま少女は体勢をととのえ、二撃目を放つ。しかも今度はマジの目つき。動きもさらに鋭く、本気で打ち込んでくるみたいにだ。
常人なら認識する間もなくやられるほどのビンタ。しかしシンヤの予知の前ではそれもむなしく。
「ひっ!?」
またもやかわしてしまう。
「むっ! なんであたらないのよ!」
これには少女のプライドに火がついたみたいで、ムキになってビンタの連打を。
それらを紙一重にかわしながら、切実にうったえる。
「とりあえず落ち着いてくれ!」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ! おとなしくくらいなさい!」
「いやいや、その本気の威力、下手したら大ケガどころじゃすまないぞ!?」
「これも報いよ! 乙女のあられもない姿をいつまでも見て!」
なんとかなだめようとするも、正論で返されてしまう。
「ご、ごもっとも! というかそろそろやめといたほうがいいぞ。そのタオルで一応隠してるけど、動いてるせいでたまにすごいきわどくなってるから!」
善意で気になっていたことを教えてあげる。実は彼女がビンタしようとするたびに、タオルがめくれかけるのだ。そのためたまに大事なところがみえそうになったりで、非常に心臓にわるかったといっていい。
「きゃっ!?」
少女はシンヤの気にしていることを理解したのか、かわいらしい声を上げながらその場にうずくまる。もはや顔をこれでもかと赤くしながらだ。
(ふう、とりあえず落ち着いてくれたか。それにしても、異世界ライフサイコーーー!)
青空を見上げ、いいものが見れたと心の中でガッツポーズするシンヤ。
「ほら、後ろ向いとくから、着替えてきてくれ。話はそれからにしよう」
だがさすがにこのままだとかわいそうなので、そろそろ自重することに。後ろを向きながら、提案する。
「くっ、振り向いたら、魔法でそこら一帯を吹き飛ばすから。そのつもりでいてね」
すると少女は少し殺意がこもった口調で、釘をさしてきた。
「あ、はい……」
ビンタ程度の物理攻撃ならいくらでもかわす自信がある。だが魔法というヤバげな力だとさすがのシンヤでも分がわるい気が。なのでここはおとなしくしておこうと、心に誓うシンヤなのであった。