レティシアと買い出し
シンヤとトワはレティシアの買い出しに付き合い、お店をめぐっていた。
相変わらず街中は多くの人々が行き交いにぎやか。活気に満ちあふれていたといっていい。ちなみに人混みが苦手なトワは、シンヤの上着をちょこんとつかみながら歩いていた。
「レティシアちゃん、これおまけよ!」
果物屋のおばさんがレティシアの買い物袋に、おまけの商品をいれてくれた。
その好意に、ぱぁーっと顔をほころばせるレティシア。
「わー! ありがとう! おばちゃん!」
「おおっ、レティシアちゃん、ぜひ見て行ってくれよ! 安くしとくぜ!」
そこへとなりの肉屋の店主の気前のよさそうなおじさんが、レティシアへ声をかけてくる。
「ほんとに!」
「いや、そんなしけた店より、ウチの方で買っていきな! 今なら出血大サービスだ!」
しかしそこへ真向いの魚屋の店主のおじさんが割り込み、アピールしてきた。
「てめぇ、レティシアちゃんを横取りする気か?」
「はっ、これもレティシアちゃんのためだから、おとなしくしとけ」
そして二人の店主が至近距離でガンのつけ合いを。
「こらこら、ケンカしない。ちゃんと両方寄っていくから」
対してレティシアは、やれやれと両腰に手を当てながら仲裁に。
そのまたかといった感じから見るに、この二人のレティシアの取り合いは日常茶飯事らしい。
「まったくおじさん連中ときたら。はい、これレティシアちゃん、サクリちゃんと一緒に食べてねー」
そんな中近くのお惣菜屋さんのおばさんが、彼らにあきれながらも包み紙をレティシアへ渡す。
「いいの!」
「レティシアちゃんにはいつもお世話になってるからねー」
「ありがとう! サクリも喜ぶよ!」
レティシアははじけんばかりの笑顔でお礼を言う。
そして彼女はたまった買い物袋を、シンヤの方へ渡してきた。
「シンヤ、これも持ってくれる?」
「ああ、それにしてもどんどん増えてくるな」
シンヤの両手にはいくつもの買い物袋が。店へ寄っていくたびに、どんどん荷物が増えていっているのだ。
「フフッ、みんないい人だから、いっぱいおまけしてくれてどんどんたまっていっちゃうのよねー! 人の好意を無下にするのはあまりよくないし、ありがたく受け取らせてもらってるの!」
レティシアはウキウキ気分で答えてくれる。
なんと店主たちは彼女を見るや否や、親しげに接し値下げのサービスやおまけの品をプレゼントしてくれるという。これも彼女の人徳のなせる技なのだろうか。
「でもその分、冒険者として、みんなが困ってるときは全力で助けるよ! たとえどんな些細なことでもね!」
彼女はドンっと胸をたたき、力強く宣言を。
「ははは、持ちつ持たれつのとてもいい関係だな」
「レティシアお姉ちゃんだー! 遊んで! 遊んで!」
「おっ! あんたたち、今日も元気ねー!」
話していると、小さな子供たちがレティシアに駆け寄ってきた。
すると彼女は子供たちに目線を合わせながら、気さくにおしゃべりを。
「レティシアの人気っぷりはすごいな」
「うん、見てて、ほほえましい気持ちになるよね」
そして次々にレティシアに話しかけにいく人たち。明るい天真爛漫な彼女を中心に、みんな笑顔であった。
ただレティシアはまたいろいろもらっていて、持たされる荷物が多くなっていき。
「まさかここまで増えるとは」
両手に抱えきれないぐらいの荷物に、苦戦するシンヤ。
「フフッ、今回荷物を持ってくれる人がいるということで、みんないつもより多く持たせてくれてるみたいね」
「なるほど、いつもセーブしてる分、この機会に解放してきたわけか」
「さすがに重いでしょ。アタシも持つよ」
「荷物持ちを買って出たのはオレだ。ここで引き下がるわけには……」
彼女の提案に断りを入れる。
この荷物は持たされているのではなく、シンヤが持つと言い出したのだ。買い出しに付き合っている以上、男手として荷物持ちをするべきだと。 ただ当初、ここまで量が増えるとは思ってもいなかったのだが。
「そう? じゃあ、がんばってね! 男の子! あとでなにかおごってあげるから!」
レティシアはシンヤの背中をポンとたたき、ウィンクしながらエールを送ってくれる。
「おう」
「レティシアじゃねーか!」
そこへ見るからに腕っぷしが強そうな30代の男が、シンヤたちに声をかけてきた。
「ランドさん、今帰ったの?」
「ああ、あの若造たちと一緒にな。例の山道の魔物が大量発生した件は、無事収束したからほかの連中もぞろぞろ戻ってくるだろ」
話の流れからして彼も冒険者のようだ。
しかもかなり強そうであり、ベテランなのがうかがえる。
「おつかれさま! そうだ、この二人が新しく冒険者になってくれたシンヤとトワよ!」
レティシアがシンヤとトワに手を向け、紹介してくれる。
「おー、それはありがてー。となると今日の夜はアレか?」
ランドは満足げにうなづき、なにやらレティシアに目くばせを。
「ええ、そのつもりよ」
「ハハハ、そいつは早く帰った甲斐があったぜ。さっそく他の連中にも声をかけて、予定をあけさせとかないとな」
「レティシア、あれって?」
「秘密よ! 夜になってからのお楽しみってね!」
レティシアは人差し指を口に当て、かわいらしくウィンクしてきた。
「おまえら買い出しか? 今からギルドのほうへ戻るから、その荷物を持って行ってやるよ。ここまでご苦労だったな、シンヤ」
「ははは、すごく助かります」
ランドはひょいっと荷物を受け取ってくれる。
「そうだ、ランドさん、戻ってきたあの二人に、あとで北門を出た近くにくるよう言っといてくれる?」
「ははん、あっちの方もやりにいくのか。わかった、俺もあとで顔を出すぜ。ということでがんばれよ、シンヤにトワ」
そしてランドは意味ありげにうなずき、シンヤたちを応援して去っていくのであった。
「へー、ってことはトワってサクリと同い年ね」
「そうだったんですね」
シンヤたちはレティシアに案内され、アルスタリアの北門を抜けた平原に来ていた。ちなみに場所は北門を出てすぐの、街道から少し離れた地点。ここなら人の通りの邪魔にもならないとのこと。
「ちょっと気難しい子だけど、根はやさしいから仲よくしてあげてね」
「うん、でもわたしさっきの件で怒らせちゃったから……」
トワはほおをポリポリ掻きながら、肩を落とす。
先ほど彼女がコーヒーを床にぶちまけ、さらに花瓶も割ってしまった光景を思い出す。
「ふふっ、あんなハプニング日常茶飯事だから気にしなくていいよ。冒険者のみんながいろいろやらかしたのを、やれやれまたかって感じで対処してくれるのがサクリだから!」
レティシアはトワの肩に手を置き、笑い飛ばした。
「サクリって苦労人なんだな」
「あの子すごくしっかりしていて頭もいいからね。みんなついつい頼っちゃうのよ。後処理はサクリに任せておけば大丈夫って」
自慢の妹なんだからと、胸を張り得意げにかたるレティシア。
「あの、レティシアさん」
「それそれ、トワ、アタシに敬語なんていらないから。同じ冒険者の仲間として、そういう堅苦しいのはなしにしよう!」
レティシアはトワの手をとり、にっこりほほえんだ。
「う、うん、わかった、そうする」
するとトワは少しはずかしそうにしながらも、素直にうなづく。
「トワ、さっきから見てたけど、レティシアに対してあまり人見知りしてないよな」
極度の人見知りであるトワのことだから、レティシアに対してもキョドると思っていた。しかし見ていると少し遠慮がちではあるものの、案外普通にやりとりしていたという。どこかなついている感じにだ。
「そうだね。レティシアさんすごく気さくで、明るくてとっても話しやすい」
「ははは、その気持ちわかるよ。天真爛漫さというか、人懐っこさというか。レティシアが笑顔だとこっちまで楽しくなるというか」
「だよね! だよね!」
シンヤの意見に、トワは心から賛同する。
「――そ、そんなにおだててもなにもでないからね……」
これにはテレくさそうに視線をそらすレティシア。
ただまんざらでもなさそうだ。
「だからできればレティシアさんと、もっと仲よくなりたい」
「うれしいこといってくれるね! もちろん大歓迎よ! フフッ、まさかトワみたいな可憐で清純派な女の子が、冒険者になってくれるだなんて! もう感動が止まらないよ!」
トワの思いに、レティシアは両腕を広げて満面の笑顔を。
「それってトワみたいな子は、あまりいないってことか?」
「冒険者になる人って、だいたいクセが強いのよね。だからトワみたいな素直でかわいい子、すごくめずらしいよ! いっぱいかわいがろっと!」
レティシアはトワの頭をなでなでして愛で始める。
「え、えへへー」
対して気持ちよさそうに目を細めるトワ。
「さて、いい感じにトワとも打ち解けたところで、そろそろ冒険者についていろいろレクチャーしていこっか!」




