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勇者の力

 休息を終えてからシンヤたちは森の奥にある、邪神の眷属けんぞくが封印されている神殿へとたどり着いていた。広さはリザベルトの街の教会並みであり、立派なモノ。ただかなり古い建造物らしく、あちこちすたれていた。そんな神殿の空は不気味な赤黒い雲におおわれている。さらに建物の奥からは、思わずゾッとしてしまうほどの禍々(まがまが)しい気配がただよっていた。

 メンバーはフローラはもちろん、トワの姿も。彼女は街の方に戻らず、一緒に戦うことを選び同行していた。本当は教会の方にも知らせを入れておきたかったが、さすがに戻っている時間はない。それに教会の方も異変に気づき、きっと増援を送ってくれるはず。なのでまずはシンヤたちだけで先行し、いち早く事態の収拾をはかるつもりであった。


「ここが邪神の眷属が封印されてる神殿か」

「この神殿の奥に地下に続く階段があって、その一番下のフロアに封印されてるらしいわ」

「地下にか。にしてもこの感じなんだかヤバそうだな」


 本来この神殿は邪神の眷属を封印している光の結界の影響で、魔のモノが近づけない聖域と化している。だというのに神殿内部から湧き出る禍々しい気配。邪神の眷属の封印が解けかけているのは、目に見て明らかであった。


「ええ、だいぶ魔の気配が立ち込めてるわね。これは封印が解けかけているということなのかしら?」

「くっ、思ったより時間はなさそうだ」

「急いで中にと言いたいところだけど」

「まずは入口の障壁をどうにかしないとだな……、フローラ、解除できるか?」


 なんと神殿の入り口には、先ほどの戦闘でシンヤたちを分断した闇の障壁が張られていたのだ。そのせいですぐに侵入することができなかったのである。


「うーん、リアちゃんみたいに、結界に干渉して解除するのは難しそうね。攻撃魔法で無理やりこじ開けるぐらいしか……」

「わたしに任せて、シンヤ、フローラさん」


 どうするか考えていると、トワが障壁の前へと。手をかかげ、スキル心象武器で剣を召喚した。


極光きょっこうよ! はぁっ!」


 そしてトワは剣にまばゆい極光の光をまとわせ、思いっきり振りかざす。

 その直後、障壁が光の斬撃に飲まれ、またたく間に消滅していった。


「なっ!? 一撃でだと!?」

「すごい! あんなにも簡単に!?」


 先ほど苦戦させられた障壁を、難なく破壊するとは。その見事な芸当に二人して驚くしかない。


「これで道は開けたね。中に入ろう」


 トワはおくすることもなく、さっそうと神殿内へと入っていく。その後ろ姿は頼もしい限り。この封印の森に入ってすぐの、怖がりまくっていた彼女と同一人物とは到底思えないほどであった。


「ああ」

「ええ」


 シンヤたちもトワのあとを追い神殿の中へ。

 入り口付近はあちこちに荘厳そうごんな柱や銅像が立っている、広い空間であった。


「魔物!?」

「あれはゴーレムね。まさか魔物まで沸いてるなんて……」


 そして中央付近には敵の姿が。それは身体を岩石で構築された身長三メートル以上の巨人、ゴーレムである。全身が岩石でできているため防御力は高く、さらにその極太いうでから繰り出されるこぶしの威力はすさまじいパワーを誇るとのこと。


「くっ、あの図体のでかさ。銃じゃ少し火力不足か」

「頑丈だけじゃなく、パワーも強い厄介な魔物よ。物理耐性が高いから、高威力の攻撃魔法で吹き飛ばすのがセオリーね。私が魔法でやるから、二人は時間を稼いで、ってトワちゃん!?」


 フローラが魔法を生成しようとした、まさにそのとき。なんとトワがゴーレム目掛けて突っ込んでいったのだ。


「グオォォォォー!」


 対してゴーレムは破壊力抜群の拳を、トワへと放つ。しかもその拳は真正面から突撃する彼女を完全にとらえており。


「トワ!?」


 振り下ろされた拳が炸裂し、地面にクレーターが。

 一瞬トワがやられたのではと思ったが、そこに彼女の姿はなく。


「はぁぁぁぁっ!」


 声の方に視線を移すと、ゴーレムの頭上をとっているトワの姿が。どうやら彼女は跳躍することで、敵の攻撃をやり過ごしたらしい。そしてそのまま落下と同時に、まばゆい極光をまとった剣を振りかざして一閃した。


「やったか?」


 普通の斬撃なら岩石でできた身体のせいで、そこまで刃が通らなかっただろう。しかしトワの剣には極光をまとっていたためか、深々と敵の身体に傷をつけていた。あともう少しで真っ二つにできるほどにだ。そんな強烈な一撃を受けたため、ゴーレムは後ろによろめき倒れようと。


「いえ、まだよ!」


 倒したと思いきや、フローラの言う通りゴーレムは踏みとどまる。そしてもう一度拳をトワへと放った。


「トワ、回避しろ! なっ!?」


 シンヤのとっさの指示であったが、トワは回避するどころかそのまま前へ。一切の迷いなく、剣を振りかざしながらゴーレムの拳に突っ込んでいったのだ。


「これでとどめ!」


 そして攻撃が直撃する手前で、剣を横に一閃。きらめく光の斬撃がゴーレムの拳ごと身体を断ち斬った。


「~~~~~ッ!?」


 トワのとどめの一撃によってゴーレムの身体が崩れ、四散していく。


「――ま、マジか……」


 もはやその光景に唖然とするしかないシンヤたち。

 ただ最後の敵とのやり取り。トワは振り下ろされる超重量の拳に、真っ向から挑んだ。それはあまりにも危ない行為。一歩間違えばそのまま薙ぎ払われるのは明白だというのに、彼女は迷いなく飛び込んだ。その勇ましい行動からは、もはや恐怖心など一切感じなかったといっていい。だがそんなこと本当にできるのだろうか。歴戦の戦士ならまだしも、これまで戦ったことがない、しかも怖がりのトワがである。


「ちょっと、シンヤくん!? トワちゃんとさっきなに話したの!? あの見事なまでの戦いよう、もうさっきとは完全に別人じゃない!?」


 フローラがシンヤの上着のそでを揺さぶりながら、問うてくる。

 それもしかたのないことだろう。さっきまで意気消沈しまくってたトワが、ここまで迷いや恐怖がなくバリバリに戦えていたのだから。しかも一人で厄介な相手を、瞬殺してみせたのだからなおさらに。


「とくに特別なことはしてないはずなんだが……」

「本音をいうとまだ戦えないんじゃないかって思ってたけど、まったくの杞憂きゆうだったわね。

それにしてもまさかここまでトワちゃんが強いだなんて。さすがは勇者ね! ふふっ、これはうかうかしてられないわ。このままだと全部トワちゃんに出番をとられちゃうかも!」


 フローラはトワのあまりの強さに、羨望せんぼうのまなざしを向けながらも笑う。

 だがそれとは変わって、シンヤの表情には陰りが。


「――そうだな。でも……」

「どうしたのかしら?」

「なんかいつものトワじゃない気がしてな」

「確かにゆるふわだった雰囲気が、研ぎまされたナイフのように冷たくなってる気がするわね」


 そう、今のトワはまるで人が変わったかのよう。あのあふれんばかりのへっぽこ感がなくなり、敵を倒すだけの機械のような冷たい雰囲気をまとっているのだ。もはや今までのドジでほんわかした彼女は、どこに行ってしまったのだろうか。


「ああ、今のトワを見てると、イヤな予感がするんだな。あやういというか、このままだと取り返しのつかないことになる気がして……」

「まさかゴーレムが時間稼ぎにもならないとは」


 嫌な予感にさいなまれていると、神殿の奥からフードをかぶった男。魔人ガルディアスの姿が。彼は再びウルフの集団を引き連れ、悠々とシンヤたちの方へと歩いていた。


「ッ!? 来やがったか」


 強敵の出現に、フローラと一緒にトワの方へと駆け寄る。


「小娘のその変わりよう。女神がなにやら干渉しているようだな。どおりで忌々しいやつの気配を濃く感じるわけだ」


 ガルディアスがトワをにらみつけ、吐き捨てるかのように口にした。


(女神さまが干渉を? やっぱり今のトワは普通じゃないんだ)


 さすがにあの彼女の変わりようは、特別な力が働いていないと説明がつかない。そして問題はその力が、はたしていいベクトルのものかということであろう。今のトワを見ていると、あまりよくないものの気がして止まなかった。


「間もなくあのお方の封印が解かれる。その素晴らしき瞬間に、きさまのような目障りな光をこれ以上野放しにはしておけん。ここで引導を渡し、あのお方の手向たむけとしよう」

「ははは、あの魔人ともいよいよ決着のときってか。今はトワもいるし、三人がかりでやれば」

「ええ、それに相手は邪神の眷属を封印してる結界のすぐそばにいる関係で、弱体化はまのがれないはず。やるなら今が絶好のチャンスよ」


 全力のトワだけでなく、聖なる光の結界による弱体化まで。もはやこの機を逃すわけにはいかない。ここで倒しきるべきであろう。


「ワレをなめるなよ。かせがあろうとも、きさまらぐらい軽く八つ裂きにしてくれるわ!」


 腕を振りかざし、殺意に満ちあふれるガルディアス。完全にシンヤたちをヤルつもりのようだ。


「シンヤ、フローラさん、ここはわたしに任せて、先に行って」


 そして戦闘が始まると思いきや、トワがシンヤたちを制し先をうながした。


「なっ!? 一人でやつと戦う気か?」

「封印が解けかけてるのがわかるの。もうあの魔人にかまってるヒマはない。早く阻止しないと大変なことになる」

「確かに今は魔人より、邪神の眷属か。――だけど……、フローラ、向こうを頼めるか? オレはここでトワをサポートしたいんだが」


 今のトワなら一人でも大丈夫かもしれない。しかし彼女を一人で戦わすのは、よくない予感がするのだ。ゆえにフローラにはわるいが、邪神の眷属の方を任せることに。


「そうね。さすがにあの魔人相手に一人じゃ危険だわ。シンヤくんが残ってくれるなら安心できる」

「ここはわたし一人で大丈夫だから、シンヤはフローラさんと一緒に」

「そう言うなって。オレも付き合うさ」


 トワの頭にぽんっと手を置き、笑いかける。


「わかった。シンヤがそこまで言うなら」

「決まりだな」


「行かせると思うか?」


 方針が決まったところで、それを聞いていたガルディアスが立ちふさがった。


「邪魔しないで! はぁっ!」


 だがそこへすかさずトワが、ガルディアスへと突撃。またたく間に距離を詰め、極光をまとった剣による斬撃を放つ。


「くっ!? 黒雷の剣よ!」


 対してガルディアスはほとばしる黒い雷撃を圧縮して剣状に。彼女を迎え撃った。

 そして極光の剣と黒雷の剣が激突。高出力の力と力がぶつかり合い、大気を震わせる。


「行け、フローラ! 援護する!」

「お願いね!」


 トワがガルディアスを押さえた隙に、フローラが神殿の奥へと駆け抜ける。

 途中、ウルフが侵入を阻止しようと跳びかかるが、そこはシンヤの出番。心象武器であるリボルバーをぶっぱなし、彼女に攻撃が届く前にウルフたちを撃退していった。


「よし! フローラは行ったな。あとはあの魔人をやるだけだ!」


 こうしてフローラを神殿の奥へと進ますことに成功。シンヤたちはガルディアスとの戦闘に入るのであった。


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