休息
1章4部 トワの答え
「くそ! リアが連れて行かれるなんて!」
「敵の狙いはリアちゃんだったのね。してやられたわ」
二人してリアが連れ去られたことに、ショックを受けるしかない。
ガルディアスの方に意識を集中しすぎて、後ろの方の注意が散漫になっていたのだ。そのせいでクラウディアの接近に気付かず、リアをああも簡単に敵の手に渡してしまった。
「――ごめんなさい、わたしも戦えていれば、こんなことにならずに済んだかもしれないのに……」
トワがうつむきながら、悲痛げに謝ってくる。
「――トワ……」
「トワちゃん。そんなに自分を責めないで」
フローラが落ち込むトワに駆けより、励まそうと。
「――でも……」
「フローラ、トワはこれまで戦いとは無縁の日々を送っていて、それで今回が初めての戦闘だったんだ」
「そうだったのね。それなら戦えなくても無理はないわ。いくら頭で考えていても、イメージと実戦は全然違うものだもの。それにこれは私の失態でもあるわ。勇者だからって勝手に戦力に入れて、トワちゃんの事情とかまったく考慮してなかったもの。それなのにいきなり無茶な作戦に付きあわせて、ごめんなさい」
申しわけなさそうに目をふせ、トワの頭をやさしくなでるフローラ。
「そんなフローラさんは全然わるくないよ!」
「ありがとう。でも事実だから」
「反省会はそこまでにして、今はリアを助けることが先決だ」
場の空気があまりに悲観的になってしまったため、話を別の方向へと持っていく。
「そうね。トワちゃん、まだ戦えそうにないわよね?」
「――それは……」
トワは視線をそらし、表情を曇らせる。
さすがにまだ心の整理はついていない様子。戦いたいが、実際戦闘になったとき動けるかどうかわからないみたいだ。
「気にしないで。人々を守るのは私の務め。トワちゃんが無理して戦う必要なんてないわ。ふふっ、お姉さんにどんっと任せなさい」
フローラは胸をとんっとたたき、頼もしげにウィンクする。
「――うぅ……、フローラさん!」
あまりの優しさに感極まってか、ウルウルした瞳でフローラへ抱き着くトワ。
「よしよし」
そんな彼女を、フローラは頭をなでながら慈愛に満ちたほほえみを。
「それでフローラ、これからどうする?」
「すぐにでも敵を追いたいところだけど、少しだけ休息しましょう。今のうちに体勢を整え、どう乗り込むか考えないとね」
「そうだな。さすがに一息つかないと、身体が持ちそうにないもんな。リアにはわるいが、もう少しだけ我慢してもらおう」
リアをすぐにでも助けに行きたいのは山々だが、この先の戦闘を踏まえ体勢を整える時間は必要だろう。実際あれほどまでに激しい戦闘を繰り広げたため、肉体的にはもちろん精神的にもかなり疲労していたという。
「じゃあ、ちょっと一人になりたい気分だから、あっちの方で休んでおくね。休憩タイムが終わったら、また呼んで」
トワが無理した笑みを浮かべながら、そっとシンヤたちから離れていく。
慰められたが、まだまだ自身のふがいなさを責めているようだ。その悲痛げな様子は見ていられないほどだった。
「トワのやつ大丈夫か?」
「かなり堪えちゃってるみたいね」
これには二人で心配せずにはいられない。
シンヤたちはそこまで気にしていないのだが、トワはあまりに重く受け止めているらしい。
「それにしても本当に驚いたわ。シンヤくんが魔人と、一人であそこまでの戦闘を繰り広げたんだもの。ただ者じゃないと思ってたけど、まさかあんなにも強いだなんて」
フローラがシンヤの顔を下からのぞき込み、感嘆の声を。
「ははは、オレも伊達に勇者の補佐役をやってないってな」
「あの魔導銃は召喚魔法かなにかなのかしら?」
「ああ、実は女神さまから力をもらっててさ。それがやっと使えるようになったってわけだ。こいつがあればオレも戦えるぜ!」
ガッツポーズしながら、自信満々に宣言する。
「ふふ、頼もしいわね。でも少し残念かも。シンヤくんに魔導銃を用意してあげられたら、お願いをきいてもらえたのになー」
フローラはほおに手を当て、少し残念そうにつぶやく。
「確かにそういう手筈になっていたな。よし、フローラにはいっぱい世話になってるし、なんでもいうことをきいてやるぞ。ほら、前に言いかけてた。フローラの趣向に走ったやつとかでも全然いいからさ」
「――そ、それは……、か、考えておくわね、――あはは……」
シンヤの提案に、ほおを赤く染め視線をそらすフローラ。そしてどこかもじもじしながら、ごまかすように笑った。
「――とりあえず今のシンヤくんが力を貸してくれるなら、まだ勝機はある。あとは」
それからフローラは気を取り直し、アゴに手を当て思考をめぐらせる。
「トワか」
「ええ、トワちゃんが戦えるなら、こちらの戦力は一気に跳ね上がる。うまくいけば楽にことを終わらせられるかもしれないわ。でも今の様子じゃ……」
「そうだよな」
二人で表情を曇らせるしかない。
今のトワの落ち込みようをみるに、とてもといえないが戦えそうになかった。
「もし戦えないなら、彼女を安全な場所に送らないといけない。でもここから教会の方に戻るのはちょっと時間が。トワちゃんをシンヤくんに任せるのも手だけど、私一人でリアちゃんを取り返せるのかって話だし……。とにかくトワちゃんが持ち直せるかどうかで、私たちの命運が大きく左右されるといっていいわ。だからシンヤくん」
「わかってるさ。そこで補佐役の出番だろ。なんとかトワの中でうまいこと折り合いが付けられるように、相談に乗ってくるよ」
胸板をどんっとたたき、フローラの期待に応えようと。
自分がどれだけトワの力になれるかわからないが、やれることは全部やっておくべきだろう。それにもしダメでも、彼女の気を少しぐらい軽くはできるはずだ。
「お願いね。シンヤくんなら、きっとトワちゃんの力になってあげられるわ」
「おう、任せとけ」
フローラに見送られ、シンヤはトワの方へと向かった。




