封印の巫女
シンヤたちはあれからリアに連れられて、教会の方へと来ていた。
ただトワは追われている身。なので当然警備の兵士たちにつかまりそうになるのだが、これをリアが封印の巫女の権限をフルに使って制し、なんとか建物内を歩けていたという。そして現在、教会の奥の方にある、重役がいそうな扉にたどりつき。
「おじいさま!」
リアは警護の兵士を下がらせ、扉を勢いよく開ける。それから中へと駆けこんでいった。
そこは重々しい雰囲気がにじみ出る、執務室。家具や装飾品どれもが高級品であり、いかにもお偉いさんが使ってそうな部屋であった。
「リア、どうしたんだ? そんなに声を荒げて!?」
席に座り作業をしていたであろう年配の男性が、そんなリアの突然の訪問に目を丸くする。
この厳格な雰囲気をまとう年配の男性はこの教会の代表ともいえる神官であり、リアの祖父とのこと。実は昨日彼女を護衛しているとき、何度か会っていたのだ。
「お話があってまいりました!」
「話? なっ、その子は昨日逃げ出した!? 兵士たちなにをやっている、この者をつかまえろ!」
「ハッ!」
リアの祖父はトワを指さし、シンヤたちの様子をうかがっていた警護の兵士たちに命令を。
それにより二人の兵士たちが武器をかまえ、トワに詰め寄ろうとするが。
「このお方に無礼を働くのなら、封印の巫女であるリアが許しません! それが教会の方々、たとえおじいさまであろうとも!」
リアは腕をバッと横にふりかざし、声高らかに宣言する。しかもなにやらヤバげな力の余波を出しながらだ。もしトワに危害を加えようとするなら、力づくで止めると言いたげに。
もはやその姿は今までの愛らしい小さな女の子ではない。封印の巫女としての威厳で満ちていたといっていい。
「リア、本気なのか?」
「はい、トワさんこそ女神さまに遣わされた、まごうことなき勇者さま! リアが仕えるべきお方なのですから!」
トワに手を向け、一切の迷いなく断言するリア。
「まさかあの温厚なリアが、ここまで我を通すとは……。もしや本当に……。いや、だが彼女には罪過がある。そう簡単に信じるわけには……」
一瞬信じてくれそうになるも、首を横に振るリアの祖父。
「それは我々の誤解なのです。ですのでトワさんに掛けられた容疑を、今すぐ晴らしてください!」
するとリアは彼が座っている席の机をドンっとたたき、うったえた。
「――そうは言ってもだな……」
「リアちゃんがここまで言ってるのなら、いいのではないでしょうか?」
そこへ扉の方から声がする。振り向くとそこにはフローラの姿が。
「フローラ様!? で、ですが……」
「それなら私がお目付け役として、彼女と行動をともにするというのはどうでしょう? もしなにかあった場合は、私が責任を持って対処しますので」
胸に手を当て、凛としたおもむきで告げるフローラ。
「もしやフローラ様も、彼女のことを信じておいでなのですか?」
「ふふふ、安心してください、こう見えて人を見る目はあるつもりですから」
フローラはトワの後ろに立ち、彼女の両肩に手を置いてにっこりほほえんだ。
「――フローラ様まで……。リアよ。本当に彼女が勇者なのだな?」
「はい、おじいさま。リアはそう確信しています」
リアは祈るように手を組み、力強くうなずく。
「ふっ、その純粋なまっすぐな瞳。まるで初代の巫女様のようだ。やはりリアは我ら一族の血を濃く受け継いでいるようだな。そんな当代の封印の巫女がそう宣言するなら、本当なのだろう。よろしい。トワさんといったかな。これまでの無礼、大変失礼した。あなたの容疑を全部晴らそう」
リアの祖父は目を静かに閉じ、どこかうれしげに笑う。そして立ち上がり、トワに向かってうやうやしく頭を下げた。
「やった! これでわたし、晴れて自由の身だよね!」
これまでことの次第を見守っていたトワであったが、信じてもらえたことにバンザイしながら喜びをあらわに。
「ははは、よかったな、トワ」
「二人ともありがとう!」
彼女は満面の笑顔で、リアとフローラにお礼を。
「ふふふ、どういたしまして」
「えへへ、お役にたてて光栄です!」
「それでは改めてトワさん、あなたは勇者としてこれからどうするつもりですか?」
「は、はい!? え、えっと……、わたしは……」
リアの祖父の問いに、トワはうつむきながら口ごもりだす。
「シンヤ、お願い」
そしてシンヤの背中にサッと隠れ、こちらの上着をクイクイ引っ張りながら頼み込んでくるトワ。
「おい、今、大事なところだぞ!? ここでキメないで、どうするんだよ?」
これには小声でツッコミを入れるしかない。
「――だって……」
「リアのときは普通にできてただろ?」
「あれはリアちゃんがまだ子供だったから……。大人相手だと、どうしても萎縮しちゃうんだよー」
少し涙目になってうったえてくるトワ。
「それでよく勇者でやっていこうと思ったな。――はぁ……、しかたない。すみません。その問いには、彼女の補佐役のオレが答えさせてもらいます」
このままではらちが明かないため、シンヤが代わりを務めることに。
「キミは確か、昨日リアを護衛してくれていた少年だったね。まさか勇者殿の補佐役だったとは。続けてくれたまえ」
「トワは勇者として、邪神の眷属の件をどうにかしたいと考えています」
「ということは、我らに力を貸してくれるということでいいのかね?」
「はい、協力し合えるなら、その方が効率がいいはずですし」
「それはありがたい。勇者殿の力量については、期待しても大丈夫かな?」
「そこのところは任せてもらっていいですよ。うちの勇者さまは魔を滅する極光の力を使えるので。なっ、トワ」
トワの頭にポンと手を置き、彼女に目くばせする。
「そ、そこはもう!」
声を少しうわぜらせながらも、胸をとんっとたたくトワ。
「おぉ、あの伝説の力を! さすがは勇者殿! ふむ、これなら戦力は万全か……。勇者殿、さっそくでわるいのだが、一つ頼まれてもらえないだろうか?」
こうして罪が免除となったトワは、教会側から正式に依頼を受けるのであった。




