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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
1章3部 勇者の初戦闘

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トワの決意

 シンヤとトワは、街はずれにある空地へと来ていた。周りには建築用や防衛用の資材が積まれており、ほかに人の姿は見当たらない。ここに来たのはリアと会うため。段取りはフローラが組んでくれており、もうすぐ待ち合わせの時間という。

 ちなみにトワはフローラが用意してくれたフードつきのマントをつけており、顔がばれにくいようにしていた。


「あぁ、フローラさんいい人だったなー」


 トワはどこかうっとりした様子でつぶやく。


「ビクつきっぱなしだったトワが、さっそくなつき出してるな」

「だってやさしいし、すごく気にかけてくれるもん! さっきも大変だけどがんばってねっていっぱいはげましてくれて、お菓子ももらったんだよ!」


 トワは胸元近くで両腕をブンブン振りながら、熱くかたりだす。


「しかも美人で、さらにりんとしていてかっこいい! ほんとあこがれる! やっぱり目指すはフローラさんのような、頼れるお姉さんキャラだね!」

「いや、トワにはあまりにかけ離れすぎてて、絶対無理だろ。わるいこと言わないから、考え直した方がいいぞ」


 こぶしをぐっとにぎり目を輝かせるトワに、残酷な現実を突き付ける。


「ちょっと、人がやる気を出してるのに、水を差さないでよ! というかシンヤ、フローラさんとやけに仲よさそうじゃなかった?」


 指をビシッと突き付け、ぷんすか文句を言ってくるトワ。そしてシンヤに詰め寄り、ジト目でうったえてきた。


「そうか?」

「あとけっこうデレデレしてたし」

「――き、気のせいだろ。――ははは……」


 頭をかきながら笑ってごまかすしかない。

 フローラはお世辞抜きで美人な女の子。そのためそういう感情を抱くのもしかたがないというものだろう。


「ほんとかなー? あやしい。ふん、わたしの目の黒いうちは、フローラさんにちょっかいなんてかけさせないんだから!」


 トワは疑いのまなざしを向けながら、首をかしげてくる。そして両腰に手を当て、なにやら宣言してきた。


「別にトワには関係ないんじゃ……」

「――そ、それは……。シンヤはわたしの補佐ほさ役でしょ! ほかの女の子にうつつを抜かしてる場合じゃないってこと!」


 なにやら意味ありげな視線を向けながら、シンヤの上着をギュッとつかんでくるトワ。


「――理不尽だ……」

「はっ、それより今はリアちゃんって子のことだよ! 彼女なんだかわたしにあこがれてくれてるんでしょ? ならその期待を裏切らないように、今度こそかっこよくきめないとね!」


 トワは両手で小さくガッツポーズしながら、気合を入れ始める。


「ビシッ! どうシンヤ! いい感じにきまってる?」


 そして身体を全体的に使い、戦隊モノのアレンジしたようなポーズをとるトワ。

 ただ正直いってダサく、残念さがにじみ出ていた。


「うーん、なんかみょうにダサい」

「じゃあ、これは?」


 次は顔を手でおおい中二病っぽいポーズを。


「なんだろう。トワがやるとなんかこれじゃない感が」

「えー、シンヤの美的センスがわるいんじゃないの?」


 トワはジト目で文句を言ってくる。


「わるいこと言わないから、普通にやった方がいいと思うぞ」

「わかってないなー、シンヤは。こういうのは始めのインパクトが大事なんだよ。えっへへ、待っててね! リアちゃん。」


 やれやれと肩をすくめ、首を横に振るトワ。そして再び珍妙なポーズをとって練習し始めた。


「だめだこりゃ」

「シンヤさん、お待たせしました!」


 残念な人を見る視線でながめていると、リアがタッタッタッと元気よく駆け寄ってきた。


「よお、リア、昨日は世話になったな」

「いえいえ、こちらこそ、付き添ってくれてありがとうございました!」


 リアはぺこりとお辞儀して、まぶしい笑顔を向けてくれる。


「それでこちらの方が!」


 そして目をキラキラさせ、トワの方を見た。


「ふっふっふっ! そうだよ! わたしこそが女神さまから、世界を救う役目をせられた勇者! 名をトワ!」


 トワは不敵な笑みを浮かべながら、くるりとリアの方を向く。そして少しダサい戦隊ふうのキメポーズをして、どこか芝居しばいがかったように自己紹介を。


「わー! 本物の勇者さまだー! かっこいいです!」


 リアはぴょんぴょん飛び跳ね、歳相応にはしゃぎだす。

 どうなることかと思いきや、わりと好評だったようだ。


握手あくしゅいいですか! あとサインも!」


 そしてリアは両腕を胸元むなもと近くでブンブン振りながら、トワの方へ詰め寄る。


「こ、これだよ! わたしが求めてたのは! 勇者といったらこんなふうにあこがれられ、ちやほやされないとだよね!」 


 こぶしをぐっとにぎりしめ、あふれんばかりの感動をかみしめるトワ。

 今まで散々な扱いの連続だったみたいなので、そうなるのもしかたがないのかもしれない。


「えっへへ、いいよ! いいよ! ドンッときなさい! リアちゃんのためなら、お姉さん、なんだってしてあげるんだから!」


 トワは胸をどんっとたたき、得意げに宣言を。

 するとリアが両手を上げて喜び、彼女の方へ抱き着きにいった。


「わーい! 勇者さま、やさしい!」

「な、なんていたいけでかわいい。これぞ天使? 逆にリアちゃんのファンになりそう……、はっ、じゃなくて、よしよし、リアちゃんはいい子だねー」


 トワは手をあわあわさせ、なにやらもだえはじめる。それから我に返り、リアの頭をやさしくなでた。


「どう? シンヤ! 今わたし勇者してるでしょ?」


 そしてシンヤに向けピースをして、なにやら自慢してくるトワ。


「あ、ああ、そうだなー」


 それでいいのかとツッコミを入れたいが、本人はご満悦まんえつみたいなのでだまっておくことに。


「トワさん、このたびは教会側の失礼な対応の数々、本当に申しわけありませんでした。まさか勇者さまを牢屋ろうやに入れるなんて……」


 そうこうしているとリアが深く頭を下げ謝罪を。


「リアちゃんが謝ることじゃないよ。誤解されるような行動をしてたわたしがわるいんだから」

「すみません、その分トワさんへの誤解が解けるようがんばって協力しますので」


 リアは胸に手を当て、うやうやしく頭を下げる。


「それじゃあ、リア。さっそくでわるいんだが、今後どう動くか決めるためにも話を聞いていいか」

「なんなりと聞いてください」

「この状況の元凶は邪神の眷属けんぞくの封印だと思う。だからそこらへんについてくわしく頼む」

「わかりました。まずイザベルトの街を抜けると、封印の森があります。ここは一般の人はもちろん、関係者の中でもある程度の地位を持つものでないと入れないようになってるんです。そしてその奥地に、邪神の眷属けんぞくが封印されている神殿があります」

「その封印を解こうと魔人が動いているわけだな」

「とはいえ魔人ではおそらく、あの封印を解くことはかなわないでしょう」

「そうなのか?」

「はい、あの封印は強力な光の力で構成されており、魔のものが近づきでもしたら浄化によるダメージを負うことになります。もし直接触れるとなれば、魔人といえどもたちまち消滅するでしょう。それゆえ神殿付近には魔物たちが存在しません。なので奥地にさえいけば、比較的安全になるんですよ」

「なるほど。魔人や魔物たちだと、完全に手出しはできないわけか。でも今回はやつらだけじゃなく」


 教会に侵入していた、黒いドレスを着た女性のことを思い出す。彼女は魔人と協力関係であるかのような会話をしていたり、なにかヤバげなことをたくらんでいるみたいだった。


「そこが気になってるところです。シンヤさんが目撃した謎の女性が魔人に協力していた場合、話が変わってきます。これまで150年間邪神側の追随ついずいを許さなかった封印ですが、そこに人の手が加わったら……。封印はよほどのことがないかぎり解かれることはないと思いますが、それでも……」


 リアの表情にかげりが。


「ってことはオレたちがもっとも優先すべきは、魔人じゃなくあの女だったのかよ。クソ、そういうことならもっと探りを入れとくべきだったぜ」

「邪神の眷属はかの邪神に匹敵するほどの、それはそれは恐ろしい相手だったと言い伝えられています。もしその封印が解かれれば、世界は再び混沌こんとんうずへと飲まれることに……。――うぅ……、そんなことになったら、いったいどうすれば……」


 リアは顔を青ざめ、自身の両肩を抱きしめる。そんな彼女の身体は、押し寄せる恐怖のあまりか震えていた。


「リアちゃん、安心して。いざとなったら勇者であるわたしがなんとかするから!」


 するとトワがリアの肩に手を置いて、ほほえみかけた。


「ですが邪神の眷属は、あまりに強大な人類の天敵。トワさんは怖くないんですか?」

「――あはは……、確かに怖い気持ちはあるよ。でもわたしは勇者だもん。そんな弱音言ってられないよ。そう、わたしがあこがれ夢見た勇者なら、どれだけ相手が強大だろうと怖気おじけづいたりしない。世界を守るため、人々の希望の光であるため、勇気を振り絞って戦い抜く。これこそが勇者の矜持きょうじ! 女神さまに世界を救う使命を与えられたとき、そうであろうと心に決めたんだ」


 トワははかなげに笑いながら、決意に満ちた瞳で自身の想いをつむいでいく。


「だからね、戦うよ。みんなの笑顔を守り、希望の光であれるよう。苦しんでいる人に手を差しのべてあげられる、そんな存在になりたいから……」

「――トワさん……」

「わたしは誓う、この想いに。そして……」


 トワは腕を天高くかかげた。次の瞬間、彼女の手からまばゆい光が辺り一面にきらめき。


「この剣に!」


 気づけばトワの手には、神々しいオーラをまとう剣がにぎられていた。


「わたしのエクストラスキル極光きょっこうは、魔を絶つ光。この力を前にすれば、いかなる闇も打ち払われる!」


 そして剣を振りかざし、堂々と宣言するトワ。

 その姿はまさに勇者といっても過言ではないほど。これまでのへっぽこそうな少女は、もはやどこにもいなかったといっていい。


「どうどう! 今のわたし、最高に勇者っぽいでしょ!」


 だがそんな威厳のある姿もつかの間。彼女は剣を持ったまま両腰に手を当て、えっへんとドヤ顔をしだす。


「ははは、その発言がなかったら、さすがのオレも感動に打ち震えてたかもな」

「えー!? そんなー!?」


 いつもの彼女だと笑ったら、トワは口元に手を当てショックを受けだす。


「トワさん、申しわけございませんでした!」


 二人でわいわいやっていると、リアが突然両膝ひざをつき祈るように手を組む。そしてなにやら懺悔ざんげを。


「え? どうしたのリアちゃん?」

「その崇高すうこうなる想いはもちろん、なによりその魔を払う光。その力こそ女神様の恩恵を与えられた者のあかし! あなたこそ本物の本物! まごうことなき勇者さまです!」


 リアは心酔しきったまなざしで、声高らかにトワへと告げた。


「これまでリアの認識があまく、ことの重要性を理解しきれていませんでした! 勇者に力を貸すのが我ら封印の一族。だというのにこれまでのリアのていたらくときたら、お恥ずかしいばかり!」


 瞳を閉じ、これまでの自身のふがいなさに打ち震えるリア。


「ですがやっと目が覚めました! これからは勇者であるトワさんにつかえ、役目を全力で果たす所存しょぞんです!」


 目をカッと見開きながら、胸にバッと手を当て心からの宣言を。

 ただそのあまりの熱烈っぷりに、トワは困惑するしかないようで。


「――り、リアちゃん……?」

「ささ、行きましょう、トワさん! 今一度教会の方へ! 封印の巫女として、あなたさまの来訪を心から歓迎させてもらいます!」


 そしてトワの腕をグイグイ引っ張り、有無を言わさない勢いで連れて行こうとするリアなのであった。



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