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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
1章2部 勇者の少女との出会い
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勇者トワ

 トワが牢屋ろうやから脱走してすぐ、シンヤはリアと別れ夜の街中を駆け回っていた。

 まだ陽が沈んで割と間もないため、街中は人々でにぎわっている。そんな人々をかき分け、トワを探すがまったく見当たらなかった。


「はぁ、はぁ、さすがに街中は見つかる可能性が高いし、逃げるなら外だよな。となると厄介だぞ。暗くて見つけにくいだろうし、魔物やあの魔人と遭遇そうぐうする可能性だってある。ここで出会っておかないと、ユーリアナ王国中を探し回るはめになりそうだし、なんとか今のうちに合流しとかないと」


 街の入り口付近まで来て、肩で息をしながら現状をかえりみる。

 できれば街のどこかにいてほしいところ。しかし現在警備の兵士たちも探しているため、街中は危険だと外に出た可能性が高い気が。ただそうなると朝方シンヤがいた森にいることに。暗い夜道や敵との遭遇もあるが、なによりの問題は彼女が森を抜け遠くに行ってしまうことだろう。


「とはいっても闇雲に探したところで……。こうなったら予知の力に賭けるしかないよな。一応、危機的状況だし、頼んだぞ」


 今朝方フローラから、リザベルトの街に続く森林はかなり広いと聞いていた。ただでさえ暗いのに、そんな森で人を見つけるのは難易度が高すぎる。ゆえに探しにいくなら、なにか手を。そう、シンヤの強みであるエクストラスキル予知に頼るしかなかった。

 よってシンヤは予知の直観にしたがい、森の中へ捜索そうさくに向かうのであった。





「――で、直観にしたがい、必死に探し回ったわけだけど」


 シンヤがいるのは森に入って少し歩いたところにあった、リザベルトの街を見下ろせる高所地帯。本来なら森の奥へと向かいたかったが、予知の直観にしたがいこんな近場に来てしまっていた。

 そしてそこにはなんと。


「まさか本当に見つかるとは……、オレの予知の力ってマジすごいな……」


 がけの方では一人の銀髪の少女が、ひざかかえながらしょんぼり街をながめていたという。


「――はぁ……、わたしなにしてるんだろ……。せっかくあこがれの勇者として転生させてもらったのに、このていたらく。変な容疑をかけられ、牢屋に。そしてためしに力を使ったら、建物を破壊してしまってそのまま脱走を。さっきはテンパって逃げてきちゃったけど、これ絶対まずいよね。もう印象は最悪。このままじゃ勇者じゃなく、逃亡犯として有名になりそう……。――はぁ……、わたしのばか、ばかぁ……」


 頭をポカポカたたき、大きなため息をこぼすトワ。


「――あぁ……、やっぱりわたしみたいな人間に勇者なんて大役、初めから無理だったんだ……。女神さま、ごめんなさい。わたしの冒険はここまでみたいです……」


 そして彼女はうつむき、意気消沈しだす。

 どうやら今の状況に、かなりこたえているみたいだ。


「そうだ。ここまできたらもういっそのこと、悪に染まろうかな。それはそれで少しかっこいいかも……。わるいのはわたしを裏切ったこの世界だしね、――あはは……」


 声をかけようとしたそのとき、トワはハッと顔を上げる。それからうつろな瞳で、投げやりな笑みを浮かべだした。

 さすがにこれにはツッコミを入れるしかなく。 


「ちょっと待ったー! さすがに闇落ちはダメだろ!」

「ひぃぃ!? だよね!? ごめんなさい! あまりの散々な事態に、気が動転してて、つい……」


 するとビクッとしながら頭を抱え、謝りだすトワ。


「っ!? それよりあなた誰……?」


 そしてトワはバッと立ち上がり、不安げにたずねてきた。

 彼女はき通るような銀髪の髪で、はかなげな雰囲気をまとう白いドレス風の旅人の服を着た少女。そんな勇者である彼女だが、見た感じあまり勇者っぽくないといっていい。というのも勇者といえば勇敢ゆうかんで、リーダーシップ性あふれる人物を思い浮かべる。だがトワは気が弱そうで、誰かが守ってあげなければと思わせる可憐かれんな女の子であった。


「オレはシンヤっていうんだ。よろしくな」

「――そ、そう、わ。わたしは……」


 トワは手をもじもじさせながら、言いよどむ。その間、視線も合わしてくれず、もはやきょどっていたといっていい。


「少し待ってて!? 落ち着けわたし。そうだ人の字を書いて飲み込んで。よ、よし、勇者らしく、威厳を出して」


 トワはシンヤに背を向け、手のひらに人の字を書いて飲み込み始めた。それから小さくガッツポーズし、気合を入れだす。


「わ、わたしは女神さまに選ばれた、ゆ、勇者!? 名を、と、トワ! え、えっと……、ど、どやぁ……、あはは……」


 再びシンヤの方へと振り返り、両腰りょうこしに手を当てむねを張りながら宣言するトワ。しかし声が上ずっていたり、震えていたり。最後の方にはひきつったドヤ顔を。


「うーん、かっこよく決めようとしてるのはわかるんだが、クオリティが残念すぎて……。威厳のかけらもないな」

「うわーん、ダメ出しされた!? もう、なにもうまくいかないし、おしまいだ。わたしやっぱり勇者にむいてなかったんだー」


 シンヤの正直な感想に、トワは涙目になりながらうずくまってしまう。

 そのあまりの落ち込みようにいたたまれなくなり、彼女の肩に手を置きながらはげましの言葉を投げかけた。


「まあ、なんだ。元気をだせって。威厳にみちた完璧勇者さまよりも、少しヌケてるところがある方が、かわいげがあって親しみやすいってもんだ」

「ほんと……? こんなわたしでも、みんなついてきてくれる?」


 トワはすがるようなまなざしを向けてたずねてくる。

 ここで首を縦に振りたいが、どうしてもこれまでの彼女のことが脳裏によぎってしまい。


「うーん、これまでのキミを見てたら、正直どうだろうか……」

「がーん、やっぱりわたしじゃ……」

「ははは、でも安心しろ。ほかの人は知らないが、少なくともオレはキミについていくよ。勇者であるトワにさ」


 ショックを受けるトワの頭をなでながら、やさしくほほえみかける。


「うぅ、シンヤー!」


 するとトワは感きわまってか、泣きついてくるのであった。

 





「よしよし」


 それからしばらく彼女の頭をナデナデしながら、落ち着かせていると。


「えっへへ」


 どこか満ち足りたようにほほえむトワ。それから彼女はシンヤに背を向け、タッタッタッとはずむ足取りで離れていく。


「シンヤはわたしを勇者だって、初めて信じてくれた人! だから特別にわたしの仲間に入れてあげてもいいよ!」 


 そしてくるりとシンヤの方へと振り返り、とびっきりの笑顔で手を差し出してくれた。

 どうやらさっきのシンヤの言葉が、彼女の胸に響いたらしい。もはやうれしくてうれしくて、しかたがないといった感じであった。

 そんな勘違いしている彼女にだんだん心苦しくなってきたため、ネタバラシすることに。


「感激してるところわるいが、キミが勇者なのは女神さまから聞いてたからなんだ」

「え? 女神さまから? じゃあ、信じてくれたのは、その事実を知ってたからってこと?」

「そういうことだな」

「――なんだ……、喜んで損した……。そうだよね。こんなわたしを勇者だと認めてくれる人なんて、いないよね……、あはは……」


 トワはがっくり肩を落とし、自嘲気味に笑う。


「しまった、また落ち込ませてしまった!? とにかくオレも実は転生者で、女神さまにキミの補佐役を頼まれてきたんだ」

「補佐役? いいよ別に……。今思ったらわたし人付き合いとか苦手だし、一人の方が気楽だもん。そうだ、もう仲間をつくらず、いっそのこと一人で世界を救いに行こうかな……」

(うわー、めっちゃ、やさぐれてる……)


 完全に投げやり状態になってしまっているトワ。


「そうつれないことを言わないでくれよ。仲間がいた方が、絶対にぎやかになっていいって。せっかく異世界に転生したんだから、いろいろ楽しまないとさ」

「楽しみたいけど、ショックなことが多すぎてそれどころじゃないもん。もう、立ち直れそうにないよ」


 なんとかはげまそうとするも、トワは頭を抱えながらヘナヘナとその場に崩れ落ちそうに。

 気持ちはわからなくもない。勇者としての華々しい異世界ライフが始まったと思いきや、いきなり出鼻をくじかれっぱなしなのだ。このままではさすがにかわいそうなので、一肌脱いであげることに。


「わかった。じゃあ、まずオレがトワの身の潔白を証明して、落ち込んだ評判を取り戻してやるよ。そしたらトワが思い描いた勇者ライフを、再び始められるだろ?」


 シンヤは自身の胸板をトンっとたたき、頼もしげに笑いかける。


「そんなことできるの?」

「そこは補佐役としてのウデの見せ所ってな。だからそう気落ちせず、気楽にいこうぜ」


 彼女の背中をポンッとたたき、ウィンクを。


「わかった。シンヤがそこまで言うなら、期待して待っててあげる」


 するとシンヤの上着をつかんで、どこかテレくさそうに視線をそらすトワ。


「おう、任せとけ!」

「ありがとう、シンヤ。おかげで少し元気が出てきた。よーし、勇者としていつまでもへこたれていられないよね! わたしを選んでくれた女神さまのためにも、がんばらないと!」


 トワは両腕でガッツポーズして、メラメラと闘志を燃やす。


「ははは、その意気だ」

「そうと決まればさっそく行動開始だね! わたしの旅路はまだまだ始まったばかり! ここからどんどん挽回ばんかいして、立派な勇者になってみせるんだから! いっくぞー! おー!」


 彼女は目を輝かせながら、右手を高くかかげる。そしてはずむ足取りで駆けて行った。


「ふう、なんとか持ち直してくれたみたいだな。あとは適度にサポートしてれば、全部彼女がなんとかしてくれることだろう」


 期待のまなざしを向けながら、トワについて行こうとする。

 しかし。


「わっ!? あわわ!?」


 トワは走り出してすぐ、小石につまずき盛大にこけてしまった。


「――うぅ……、イタイよー、シンヤ……」


 そして顔をシンヤの方へ向け、涙目でうったえてくる。


「ははは、やれやれ、世話のかかる勇者さまだ」


 そんな彼女をほほえましげに笑いながら、助け起こしに行くシンヤなのであった。


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