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補佐役として転生したら、ダメダメ美少女勇者さまのお世話をするはめに!?  作者: 有永 ナギサ
1章2部 勇者の少女との出会い
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謎の女性

1章2部 勇者の少女との出会い

 シンヤはあれからすぐ、リザベルトの街奥にある大型の教会の前に来ていた。

 街中はどこも普通の石造りの建物であったが、この場所は違う。まるで王都などの中心地にあるような、立派な建造物なのだ。もはやその規模は大聖堂といっていいレベル。見るからに荘厳そうごんな雰囲気を出しており、圧巻の一言であった。


「あのー、少し聞いていいですか?」


 そして入口前を警備していた兵士に、とりあえず探りを入れてみる。


「なにかね?」

「今朝つかまった、少女についてなんですけど」

「そのことか。朝方に結界の方で異変が発生し、封印の森に様子を見に行くと一人の少女を発見したらしいんだ。本来あの場所は関係者以外立ち入り禁止の場所。そこに不法侵入していたことと、さらには結界の異変。このことから教会側は彼女がなにかしでかしたんではないかと、とらえたというわけさ。今は教会内にある牢屋ろうやに入れて、事情聴取ちょうしゅしているところだね」


 兵士は親切に、これまで起きたことを説明してくれる。


「その子って銀髪の、どこかはかなげな雰囲気の子じゃなかったですか?」

「あー、そんな感じだ。名前はトワって言ってたっけ」

「おいおい、マジかよ……」


 ため息交じりに頭をかかえるしかない。

 出来れば人違いを期待していたが、名前まで同じとなるともはや確定だろう。つまり世界を救う勇者様の現在は、牢屋でつかまっているという残念な形に。


「この辺りでは見かけないだけではなく、なんか自分のことを女神さまに使わされた勇者とかいってる怪しい少女らしい。最近危ない教団が現れたって話だし、彼女もその一員か。今のところ教会側は、彼女が黒だと踏んでいるみたいだ。だからたとえ無実であったとしても、しばらくは牢屋の中だろうね」

(な、なにをやってるんだ……、勇者さまは……)


 ただでさえ怪しまれているというのに、そこで突拍子とっぴょうしのないことをバカ正直に言うのはあまり得策とはいえないだろう。実際立場をかなり悪くしているため、目も当てられない状態であった。


「ちなみにその子に面会とかは……」

「さすがに無理だろう。というかキミ、何者だね? もしかして彼女のことをしっているとか?」


 兵士はいぶかしげな視線を向けてくる。


「いえいえ、ただの興味本位なだけですよ。自分のことを勇者とか言ってるから、どんな子なんだろうなって、ははは」


 このままではシンヤもつかまる恐れがあるため、すぐさま笑ってごまかした。


「ちなみに教会って、一般人でも入っていいんですよね?」

「ああ、礼拝堂の部分はね」

「ありがとうございます。せっかくなので少し祈ってきますね」


 そして逃げるように教会の中へと向かう。

 とりあえず建物の中を確認し、できればもう少し情報を集めておきたいところであった。


「おー、立派な教会だな」


 教会の中は解放感あふれる広々とした空間に、色とりどりのステンドガラスや神秘的な内装がほどこされ圧巻そのもの。あまりの神々しさに思わず息を()んでしまうほどである。中には神父やシスター、さらには祈りをささげている一般人の姿もあった。


「さて、どうしたものか。牢屋の中ってさすがに予想外だぞ。味方しようにも、この状況だと怪しまれるのがオチだろうし」


 一般人にまぎれて歩きながら、頭を悩ませる。

 そこでふと気になることが。


「え? あれは……、あのとき魔人といた!?」


 明らかに関係者以外立ち入り禁止の扉に入っていく、黒いドレスを着た女性の姿を目撃したのだ。

 ここで驚くのはその女性が、魔人に襲われていたとき乱入してきた人物だったことである。


(どうする!? でももし魔人の仲間だったら、放っておくわけにはいかないよな)


 見たところ教会側の人間とは思えない。むしろこっそり忍び込んだみたいな感じだったので、怪しさが半端はんぱない。もし敵だった場合、大変なことになりそうゆえここは追うことに。彼女に続いて扉を進み、通路を歩いていく。


「あの女、どこに行った? はっ!? あれは!?」


 すると少し先で倒れている警備の兵士の姿を発見。あわてて駆け寄った。

 見た感じとくに傷もなく、気絶しているだけのようだ。


「やっぱり敵だったか。クソ! これは緊急事態だぞ」 

「クスクス、どうしたのかしら? ボウヤ……」

(ッ!? この女、いつの間に!?)


 声の方に振り向くと、すぐ後ろに先ほどの黒いドレスを着た女性の姿が。


「――あんたも魔人なのか?」


 冷や汗をかきながらも、なんとかたずねる。


「安心してちょうだい。確かに魔の力は使うけど、私たちは人間よ。あの魔人とはちょっとわけあって協力関係を結んでいるだけ」

 

 確かに言われてみれば、彼女から魔人の男のような禍々しさは感じられない。どうやら本当のようだ。


「――そんなことよりあなた……」


 ふと女性はシンヤのほおに手を当て、興味深そうに見つめてきた。

 彼女は妖艶ようえんな雰囲気がすごい、二十代前半ぐらいのきれいな女性。ただ心なしか瞳に、あわい狂気の色がびているのは気のせいだろうか。


(どうする!? 逃げるか、それとも戦うか……)


 もはやこの状況に動揺するしかない。

 敵なのは間違いないため、早く行動に移らなければやられる可能性が。ただ下手に動いて相手を刺激するのも、マズイ気がしてやまなかった。

 されるがままで固まっていると、謎の女性がくすくすと意味ありげに笑ってくる。


「クスクス、この感じやはり姫さまと同じ転生者……」

(この女!? もしかしてオレが転生者だということを知っているのか!? それにその姫様って……)


 シンヤが転生者だということを見抜いた謎の女性に、驚愕きょうがくを覚えずにはいられない。何故その言葉、事実を知っているのだろうか。しかも彼女の口ぶりだと、ほかの転生者が彼女の仲間にいるということになるのではないか。


「どうやら向こうも、我々と同じ手段を用い出したというのね……。うーん、これは少し面倒なことになりそうかもー」


 謎の女性は瞳を閉じ、思考をめぐらせる。


「あんた、なにを言って……」

「こちらの話だから気にしないで、ボウヤ。さてさて、どうしようかしら。一度は興味本位で逃がしてあげたけど、こうもお姉さんの前にノコノコ姿を現してくるだなんて。いかにも本命そうな少女を刈るのは、この盛り上がってきた展開的にしらけてしまいそうだし止めておいて。となればこっちの付き添いクンぐらいなら、もう……」


 シンヤの胸板むないたを指でなぞってくる謎の女性。

 そうしている間にも冷や汗が止まらない。直観がこの女は危険だとさけんでいるのだ。


「クスクス、ボウヤはどうされたい? ここで一思いにやられるか、それとも連れ帰られ研究の材料にでもされるか。あとは主君を裏切って、こちら側に鞍替くらがえするという手もあるわね」


 謎の女性は残虐ざんぎゃくな笑みを浮かべ、ちょこんと首をかしげてきた。


「――ははは……、オレ的にはこっちに来たばっかだし、見逃してもらえると助かるんだが……」


 もはや冗談を言っている雰囲気ではないため、恐る恐る頼み込んでみる。


「クスクス、いいわよ。お姉さんは優しいから、その望み叶えてあげましょう。ボウヤはなかなか好みのタイプだし、連れ帰っていろいろかわいがってあげたいところなんだけど……。クスクス、ここは自重しておいてあげるわ」


 シンヤの両ほおに手を当て、妖艶ようえんにほほえんでくる謎の女性。

 よくわからないが気に入られたらしい。おかげで見逃してもらえたため、とりあえずはよしとしておこう。


「――ははは……、それはどうも」

「じゃあ、もうしばらくその余生を楽しんだらいいわ。ちょうどここからどんどん盛り上がっていくもの」


 彼女はシンヤから離れ、楽しげにウィンクしてくる。


「盛り上がる?」

「ええ、姫さまにより世界は混沌こんとんうずに巻き込まれることになる。すべては深淵しんえんの闇のもとに……。破壊による創造を……。もはやこの運命の歯車は誰も止められはしないわ」


 祈るように手を組みながら、うっとりと宣言する謎の女性。その瞳には思わず寒気がするほどの狂気の色が。


「いくらボウヤたちや女神があがこうとも……、ね……」


 最後に意味ありげな言葉を残し、女性はきびすを返す。

 次の瞬間闇のオーラのようなものが、彼女にまとわりついていき。


「クスクス、それではまたお会いしましょう、かわいいボウヤ」

「ま、待ちやがれ!」


 つかもうと手を伸ばすも、空振りにおわってしまう。

 というのも彼女は信じられないことに、姿を消したのだ。


「もしかしてこのことが、女神さまの言ってた世界の危機ってやつなのか」


 邪神の眷属けんぞくの封印、魔人の出現。そして今の謎の女性と、彼女がつかえているであろう転生者。もはや底知れぬ胸騒ぎがしてやまない。この先いったいなにが待ち受けているのか。もしかすると事態はシンヤが思っている以上に、深刻なのかもしれない。


「あなたはなにを?」

「え?」


 ふと声の方に振り返ると、十才ぐらいの修道服を着た少女の姿が。

 彼女は口元を押さえ、目を丸くしていた。


「なんだ今のおぞましい気配は!? こっちだ!」


 さらに通路の奥の方から、異変に気付いた兵士たちの声と足音が聞こえてくる。

 ここで今の置かれている状況を理解した。シンヤのすぐ近くには倒れている兵士。そして犯人のあの謎の女性は、この場所から去っていってしまった。となると取り残されたシンヤが、犯人と勘違いされてもおかしくはない。


「はっ、この状況ヤバくないか!? くっ、このままだとオレまでつかまってしまう!? かくなるうえは!」


 ただでさえ不法侵入している怪しい人間なのに、そこに容疑までかけられると牢屋行きは確定だろう。そうなるとこの大変なときに、最悪トワと一緒に牢屋の中で指をくわえたままになってしまう。それだけはなんとしてでも阻止しなくては。ゆえにシンヤは行動に移る。


「ちょっとキミ、こっちに来てくれ」

「え? なんですか!?」


 すぐさま目撃者の少女を引っ張り、近くの部屋へと逃げこんだ。


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