フローラの杞憂
日が完全に沈み、夜空には星々が輝いている。街中は今だにぎわっており、夕食時のためかあちこちから料理のいいにおいがただよっていた。
あれから冒険者ギルドで少し話をし、フローラが明日改めてあいさつしにいく流れに。そしてシンヤ、トワ、リア、イオ、フローラは、建物を出て街中を歩いている真っ最中。人混みがニガテなトワのため、人通りが少ない裏通りを進んでいた。
ちなみにイオはさっきからウトウトして、おねむの様子。寝ぼけてどこにもいかないように、シンヤが手を引っ張っていたという。
「フローラさんがお姫さまだったなんて……。ほんとびっくりだったんだよ!」
「だよな。いいところの出のお嬢様なのかとは思ってたが、まさか予想のさらに上とはな」
トワと一緒に、フローラがユーリアナ王国の王女だったという驚愕の事実を改めて思い出す。
「リアは知ってたんだよな?」
「はい、自分の国のお姫さまですから!」
リアが誇らしげにうなずく。その様子から、フローラのことをどれだけ尊敬しているのかがよくわかった。
「実はリアちゃんには私からお願いしてたの。聞かれたりするまで、できるだけ内緒にしといてねって」
「フローラさん、どうしてそんなお願いを?」
「私のちょっとしたわがままかな。シンヤくんとトワちゃんがあまりにフランクに接してくれるのが、すごく居心地がよかったの。もし姫のこと知ったら萎縮してこれまで通りに接してもらえないかもしれないと思って、もう少しだまっていようかなって。でもさっそくバレちゃったわね」
フローラはテレくさそうにしながら、思いの丈を告白する。
「――えっと、身分的には姫だけど、普通に接してくれたらいいからね。私もそのほうがうれしいから。どう? できそう?」
そして彼女は不安そうにおずおずとたずねてきた。
「あー、フローラ、わるいけど……」
「――うん……」
「やっぱりちょっと難しいかな? あはは……」
申しわけなさそうにするレイジたちの反応に、さすがに特別扱いされると悲しげに目をふせるフローラ。
「いや、そうじゃない。オレたちがいた世界だと、そういう身分のことはかなり昔の話であまりピンとこないんだよな」
「すごい人っていうのはわかるんだけどね。それに本や漫画とかの娯楽媒体でよくお姫様がでてくるから、なじみがありすぎて親近感が湧いてくるほどというか」
「それだ! こういう旅の仲間には、お姫さまがいたら熱いとか思うよな! まさに王道展開だってさ!」
「だよね! わたしもいつもあこがれてたなー。勇者もいいけど、フローラさんみたいな強くて凛々しいお姫さまも捨てがたいって!」
二人してお姫さまについて熱くかたっていく。
「――えっと……、二人ともそれって?」
「フローラがいいなら、これまで通りになりそうだ」
「お姫さまだー! ってあこがれ成分強めになるかもだけど、それ以外はほとんど変わらないかな! わたしにとってフローラさんは、やさしくて頼りになるお姉さんだもん!」
戸惑うフローラへ、シンヤたちは素直な気持ちを伝える。
「シンヤくん、トワちゃん、ありがとう!」
すると彼女はシンヤとトワをがばっと抱き寄せ、はずんだ声でお礼を伝えてきた。
「フローラ!?」
「わわっ!? フローラさん!?」
「はっ!? ごめんね、ついうれしくて」
フローラはほおをそめながら、さっと離れる。そしてうれし涙をはらいながら、テレくさそうにほほえんだ。
思わず抱き着いてしまうほどうれしかったのだろう。
「まったくの杞憂だったみたいね。一人で勝手に思いつめてて、少しはずかしいな、――あはは……。でもこれで心おきなく、二人のパーティに入れるわ! もちろんシンヤくんたちがいいって言ってくれたらだけど」
「ははは、いいに決まってるさ。フローラの席はずっととってあったんだからな」
「フローラさんなら大歓迎だよ! もうずっと居てほしいぐらい!」
「ありがとう! 姫としての立場的に一緒に旅するのは難しいかなって思ってたんだけど、二人が邪神の眷属攻略チームに入ってくれて助かったわ。おかげでユーリアナ王国側の協力者という名目のもと、なんの問題もなく旅に同行できる! ふふふ、実はこっちで協力者の話がでたとき、これはチャンスと真っ先に志願したんだから!」
ウキウキで話すフローラ。
シンヤたちと一緒に旅することを、心から望んでくれていたみたいだ。
「そういうわけだから改めてよろしくね! シンヤくん、トワちゃん! リアちゃんも!」
「ああ、フローラよろしく! これからみんなでいっぱい冒険しようぜ!」
「フローラさん! たくさん迷惑かけちゃうかもだけど、よろしくお願いします!」
「またご一緒できて、リアとてもうれしいです!」
三人で快くフローラを迎え入れる。彼女同様にシンヤたちもまた、フローラとの旅を心待ちにしていたのだから。
「よし、フローラとの再会と、仲間になってくれた記念になにかうまいものでも食べにいって、パーっとしようぜ!」
「「「おーーー!」」」
「むにゃむにゃ、おー」
こうしてフローラの加入を祝うため、どこかへ食べに行くシンヤたちなのであった。
3章1部 アルスタリアの日常 完