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スキルなしの落ちこぼれ次男である俺がスキルもちになりました

作者: アナグラム

 朝、起きると違和感を感じた。

 自らの中で不思議と力が湧いてくるような、理由の無い万能感。

 たしか・・と、以前聞いた話を思い出した俺は期待感に胸を高鳴らせながらスキルボードを開く。


「ボードオープン」


 目の前に緑色の半透明の板の様なものが映し出される。

 もう何万回も見たそれを上から順に見ていく。


 アレン・ステアート

 年齢:14

 才覚:なし

 魔力値:15万


 ここまで特に変わりは無い。いつも通りのものだった。

 だがボードの一番下。スキルの欄にはいつも見る「なし」と言う文言とはちがうものが書かれていた。

 「なし」では無いと言うことに喜び、思わずガッツポーズと叫び声を上げる。

 

 さあ! なんのスキルだ! 魔法か! 巫女はないから絶技系統か!


 いいスキルであることに期待感をふくらませながらわくわくしてスキル欄の文字を読む。


スキル:餅


 なんだこれ。ふざけてんのか。



***

 


 さて、時は俺の生まれまで遡る。

 俺はいわゆる転生者でこれは異世界転生だということだ。転生ということは俺は死んだのだが死因はいまいち思い出せない。最後の記憶はガ○使を見ていたという記憶だ。

 そんな俺が転生したこの世界は「スキル」と言うものが存在している世界だった。ゲームで聞いたことがあるだろう。そう、あれだ。

 この世界の「スキル」は魔力を元にしながら力を発揮する。スキルは魔力の大きさとスキル自体の強さによってその威力や有用性が変わってくる。

 中でも有用性と威力、効果が高い系統が三つある。一つは魔法系統。魔法もスキルに含まれ、回復、火や水など様々なものがある。戦闘、生活、インフラ整備など様々な場面で活躍している。二つ目は巫女系統。これは女性特有のもので天候を操ったり、作物の状態を良くしたりと主に食糧不足や飢餓を防ぐことに大きな効果を持つ。三つ目は絶技系統。これは戦闘に特化したもので剣や槍に雷や炎をまとわせて戦ったり、筋力や敏捷性の向上が出来る。

 また、この世界には他にもそのスキルを持つだけで国の重要人物になるスキルがある。それが「賢者」と「血操術」だ。賢者は通常一人一属性しか使えない魔法を一人で複数属性使うことが出来るスキルのことだ。また、最大の利点はそこでは無く、賢者と言うスキルの恐ろしいところは死後1年居ないなら死者をよみがえらせることが出来ると言うところだ。血操術は文字の通り血を操る。これの何がすごいかと言うととにかく強く、万能なのだ。血の形態を液体、固体自由に変換でき、戦闘においては前衛、中衛、後衛、どこでも戦うことが出来る。さらには切り傷や大きな出血を伴う怪我を負ったとしても血を操作して出血を止め、さらには血を糸の様にして傷ついた内臓などもつなぎ合わせてしまう。

 

 さて、そんなスキルだが、お約束と言った感じで魔法や巫女、絶技は貴族に多く現われる。それも爵位が上の人物に表れやすい。その理由はこのようなスキルを発現した者を貴族が囲い、嫁や婿にして子供を産むからだ。スキルの発現率とその内容は90%が遺伝で持っているかどうかは5歳の時の儀式で分かる。つまりは親のスキルによって子のスキルもある程度決まってくるのだ。そして貴族の中ではどのスキルを持つか、どの程度操れるかは重要な事であり、家の尊厳や名誉に関わってくる。

 

 そんななか俺は侯爵家の次男として生を受けた。父は絶技スキル持ちで母は魔法スキル、兄は絶技という家系だった。俺はスキルの元となる魔力が成人のスキル持ちが1万程度のところ0歳時点で5万という破格の魔力値だった。家族は神の子が生まれた、偉大な人物になるとはしゃぎまくっていた。俺はその時はその様子を見てただ戸惑っていただけだったが、後になって理解すると俺も同じようにはしゃいだ。



 そして迎えた運命の日。スキルが何か分かる儀式の日。領地内の神殿に俺たち家族は訪れていた。この時すでに俺の噂は王都にまで広がり、王から父に、スキルが発覚次第知らせるようにと伝令が来ていた。王、家族、そして領民からの期待を一身に背負って迎えた儀式。

 俺は心を躍らせ、教会の人物の指示に従い水晶に手を触れる。すると強く、目が開けられないほどの光を放ち、水晶は粉々に砕け散った。場は騒然とするがかつて無い事態を特別なことだと解釈した神父と父が水晶とセットになっている板のような魔法具に目をやる。


『スキル:無し』


 板にはその文字が浮かび上がり、父は目を剥く。そして徐々に光が失われていく。

 結果、多くの人の期待を背負った俺のスキルは無し。スキルがない貴族も時折いるがここまで期待させておいて、無しというのは俺だけだったろう。



 その日から俺に対する扱いは一変した。ひどく冷たい目で見られるようになり、父からは罵詈雑言を吐かれ、母からは無視される日々。兄は王都の学院に通っているため家には居なかったが帰ってきたときはネチネチと嫌みを言われる。俺の儀式が終わってから生まれた妹は巫女のスキルを発現させ、ますます俺の居心地は悪くなった。


 父も母も俺の存在が邪魔になってきたのだろうある日、父に呼び出されてこう言われた。


「王都の学院には行かせてやる。そこで勉学に励み、貴族らしく独り立ち出来るようになれ」


 学院をでたら家を出ろ。おそらく、いや確実にそういうことだ。



 学院は12歳から16歳までの5年間通う制度になっている。貴族は王都にある学院に入学する者が大半を占める。俺も12歳になると同時に家を追い出されるように学院に入学した。

 寝床は王都にある王都滞在用の家に住まわせてもらうことは出来ず、寮に入れと言われ、学院にある寮に入ることになった。

 

 学院に入った俺は入学時点から有名人で嘲笑や侮蔑の目線が飛んで来ているのが分かった。初めはクスクスと笑うだけだったが、俺の家以上の者。つまりは公爵の息子や娘、さらには皇子らが俺にあだ名をつけ、馬鹿にして笑うようになって俺の家より下の者達もそれを行うようになった。不敬罪で訴えようと父に言ったものの、無視された。さらに父に無視されたことが露呈した結果どうなったか。

 暴力を振るう者が現われたのだ。暴力を伴ういじめが始まり俺は首謀者が公爵の息子、娘や皇子である事が分かっていたので反抗も出来ずされるがままになっていた。




***



 さて、スキルが無いことでいじめられていた俺だが今になってスキルが発現した。スキル「餅」。

 意味が分からないがとりあえずスキルを使ってみる。




 スキルを発動させると手のひらにぽんっと餅が現われた。前世でよく食べた餅だ。ほどよく暖かく、しっかりと手にくっついている。 手の平を下にしても落ちないほどしっかりとくっついている。

 試しにその餅に魔力を込めるイメージをしてみる。スキルには発現したものに魔力を送り、効果を発揮させるものもあるからだ。

 魔力を込めると餅がウニョウニョとうごめき出した。

 

 ・・気持ち悪っ。


 そう思いながらも魔力を徐々に込めていくと餅が徐々に大きくなり始める。込めた魔力の分だけ大きくなり、終いには俺の体より大きな餅が出来上がった。

 ・・ほんとになんだこれ。これがあれば飢えることはありませんってか? と言うか食べられるのか?

 半分やさぐれていた俺は俺より大きくなっている餅をちぎって口に入れる。


「・・うまい」


 餅にはほのかな甘みがあり、あれほど手に強力にくっついていたのに粘り気はそこまで強くなく、もちもちとちょうどいい感じだ。


「少し焼いたものもほしいな。・・・・作れるか・・?」


 スキル「餅」がどういうものか全容を把握できないため色々試す。

 まずは空いている手で餅をちぎり、魔力を送りながら焼けろ、焼けろと念じていると徐々にぷくーっと膨らんでくる。香ばしい匂いと、膨らんだ餅の皮が破けてぷす~という音がなる。


「おお・・。すげぇ」


 口に含むと先ほどの甘みともちもちと食感のなかに焼いた事によるパリッとした食感と香ばしい香りが鼻に抜ける。

 これはすごいスキルを獲得したのかもしれないと思い、その日から俺は毎日、学院には行かず、部屋で餅のスキルを練習し始めた。

 学院の先生方は授業に出ろと催促してきたが調子が悪いと言って休み続けた。




***




 3ヶ月ほど休んで研究した結果、このスキルはとんでもないものであることが分かった。出来ることは餅を操ること、その温度を操ること、固めること、粘り気の強さを操ることだ。たったそれだけだがとてつもなく使える。盾にしたり、食料にしたり、建設物の一時的な補強に使えたりととにかく汎用性が高いことが分かった。



 さて、俺はスキルの研究が終わったため今日から学院に通うことになる。しかし、学院に着き、一時限目がスキルを使った授業だったので演習場に行くと誰も俺に話しかけてこないと言う事態が起こっていた。いつもなら皇子の取り巻きか上級貴族をいじめることに愉悦を覚える下級貴族が話しかけて嫌がらせをしてくるのだが、今日は誰もこない。皆、一心不乱にスキルを発動させて練習したり、剣を振るっている。戦闘系のスキルを所持していなかったと記憶している者も剣を振るっていたり槍を振るっていたりしている。


 おかしい。スキルの授業は戦闘訓練ではなく、純粋にスキルへの魔力の込め具合や微細な調節を行うものだ。

 見てみれば普段俺をいじめている奴らも一心不乱に戦闘訓練の様なことを行っている。

 皇子の取り巻き1が火の魔法を打ち出し、取り巻き2が水の魔法で応戦する。

 その様子をぽかーんとしながら見ていると演習場のドアが勢いよく開いた。


「おはよう! 諸君! 訓練に励んでいるかな?」

「・・おや? 先生。最近学院を休んでいた無能が来ていますよ?」


 入ってきたのはいつもスキルの講義を担当している中年の男性教員と皇子だった。

 俺は咄嗟にそばに行き、片膝をついて挨拶を述べる。こんな事はしたくないが相手は皇族。不敬罪にならないよう細心の注意が必要となる。 


「ご無沙汰しております、エルクハルト殿下」

「ああ、久しぶりだね? 君はこの間、何をやっていたのかな?」

「スキルの研究です」

「・・へえ。 聞いたかい、みんな! スキル無しがスキルの研究だってさ!!」


 皇子の声によって笑いが起きる。けらけらと声を出して笑っている。教師もそれを見て止めることはせず、一緒になって笑う。

 ひどく不愉快で居心地が悪いが皇族の前ではどうすることもできない。


「ああ、そうだ。君、交流戦のこと知ってる?」

「・・交流戦ですか・・?」


 いきなり今までの会話とは関係無いような話を始めて俺はオウムのように皇子の言葉を繰り返し、名前からしてどこかの学院と何かやるのだろうと思いながら皇子の答えを待つ。


「そう。この度、隣国のスチュワールト学院と戦闘試合を行うことになったのだよ」

「はい・・」

「それでね、我が校の代表を決めるためにトーナメントを行うことになった。全校生徒強制参加のトーナメント」

「それは・・初耳ですね」

「うん、君にだけは言わない様にしていたからね。君も学院来てなかったし」


 言わない様にしていたということはおそらく俺を呼びに来ていた先生の口から出ることの無いように釘をさしておいたとかそこらだろう。まあ、これはいい。俺も学院に行っていなかったのだから仕方ない。


「そしてね・・トーナメントは抽選で相手が決まるんだけど・・」


 そこまで言った皇子は俺の耳に口を近づけ周りには聞こえない様な小さな声で呟く。


「僕が操作して初日の第一試合目は僕と君にしておいたよ」

「は・・?」


 俺が皇子の顔を見ると実に愉快そうに口を三日月状に裂く。

 皇子は顔を元の場所に戻し、再び声を元に戻して続ける。


「本気で来ておくれよ? 無能君。僕が皇子だからって遠慮せず、勝ちに来給え」


 おそらくは俺に鮮烈に勝ち、自分の力を誇示するとともに俺を痛めつけるといったところだろう。

 

「・・日にちはいつ頃でございましょうか」

「ふふふっ。明日だよ、明日。あ、これ説明の紙ね」


 皇子は楽しそうに笑いながら僕に対する話は終わったとばかりに目線を外し、てくてくと演習場の奥へと歩いていく。教師も周りの生徒も皇子が歩いていくのを見て、訓練を再開した。

 

 俺は皇子が投げ捨てる様に地面に投げた二つ折りの紙を手に取る。

 表面には『学院交流親善試合 要項』とあった。

 中を開くと様々な事が書かれていた。学内トーナメントには全校生徒参加することや勝った方の学院には相手国から莫大な支援金がもらえることなど。特に目を引くのは対戦相手の怪我について責任を一切負わないでいいと言うことだった。つまりは万が一一生寝たきりになるような傷を負わせても良いと言うことだ。そして最後には親善試合優勝者は各国王と直々に話せること、願いを叶えられること、将来は約束される事などが書かれていた。

 

 今日、誰も俺に話しかけて来なかったのは皆、優勝を狙っているからだろう。それに、本戦に出るだけでも国の上層部からの覚えは良くなる。何せ、この学院の生徒数は1学年300人の学院だ。つまり総勢1500人。その中で本戦にいけるのはわずか16人だからだ。

 

 それにしても明日からで一発目が皇子か。あの皇子は学院でも戦闘面においてはトップクラス。俺のスキルを試すにはちょうどいい感じだ。

 これまでの鬱憤やいじめられたことに対する苛立ちをぶつけるつもりで行こう。


 俺は皇子相手に遠慮などせずに得たスキルで勝つつもりで、どう勝つか考えながらその日を過ごした。ちなみにスキルの講義では一切スキルは使っていない。スキルを使えないと思われていた方が明日が楽だと考えたからだ。




***




 迎えた翌日。

 学院は朝早くから賑わっており、トーナメントが行われる各演習場は観戦席が設けられ、多くの生徒が第1試合目を見ようと集まっていた。

 俺は寮から演習場に直行し、選手控え室に入る。一人部屋が用意されており、試合時間まで自由に過ごすことが出来る場所だ。餅を出して食べながら待っているとドアがノックされる。


「アレン・ステアートくん。時間だ。会場に出なさい」

「はい」


 俺を呼びに来た教員の言葉に従って部屋を出て、会場へと向かう。

 途中ですれ違う人がチラチラと見てはクスクスと嘲笑を向けてくるがいつもの様に反応を示さず、会場へと進んだ。


 会場に着くと、すでに皇子は会場に居て、嘲笑を浮かべながら俺に向き合う。


「逃げずに来たのかい。てっきり逃げると思っていたのだがね」

「・・これはお人が悪い。逃げれば腰抜けというあだ名で呼び始めるでしょう」

「ふふふっ。相変わらず察しはいいな」


 皇族とは思えない下品な笑みを浮かべて皇子はクツクツと肩をふるわせて笑う。


「今日は本気で行きます。殿下」

「ああ、来給え。どうせ僕には勝てないのだから」

「はい。胸を貸して貰います」


 俺と皇子の会話がそれで止まり、皇子は構えを取る。皇子のスキルは火魔法。皇子は多くの魔力を持っているため、その威力は高く、技量も高い。

 俺も構えを取ると間にいた審判役の教師から開始の合図が入る。

 皇子は合図と同時に火魔法を発動。

 大きな獅子を2匹と全長5メートルはあるわしを炎で象ったものを発現させた。獅子たちを走らせ、俺に攻撃を仕掛けると同時に皇子はわしに飛び乗り、少し上昇する。

 

「ふっ!」


 獅子2匹に対して動きを止めるために手から餅を出して地面に向ける。魔力を込め、餅を流すように広げていく。餅の粘り気を最大にして獅子が餅を踏み抜いた瞬間、獅子の体に巻き付くように餅を這わせていく。獅子に実体は無く、炎で象っただけなので餅の量をどんどん増やし、鎮火させていく。やがて、炎は消え、獅子は居なくなった。


 俺は視界の端に捉えていた皇子に目線を向けるため、顔を斜め上に向けた。


「へえ。今のそれはスキルかな?」

「ええ。つい昨日、手に入れまぁした」

「見たことないスキルだ。でもだからといって僕に勝てるなんて思わないことだねっ!!」


 皇子が手を振るうとそこには先ほどと同じ大きさの獅子が5匹。ただし翼をつけて空を飛んでいる。獅子たちは上空から降下を始め、襲いかかってくる。先ほどと同じ要領で俺は獅子たちを消していく。餅を飛ばし、それが獅子にあたる前に急速に広げる。風呂敷で包むように獅子を封じ込めて鎮火させていく。


「ちっ! ならば!」


 皇子は再度スキルを発動させる。すると次は無数の炎で出来た槍が出現していた。それを俺の全方位から飛来させる。

 瞬時に餅でかまくらの様に自分を包む。堅さを最大にしたものを一番外。二層目に粘り気最大のもの。というふうに交互に覆い、合計8層にして槍の貫通力を消す。槍が全て刺さったと感じたところでそれを解いた。

 皇子の方を見ると驚愕の顔を浮かべていた。すぐに勝てると思った相手に粘られているからだろう。


「殿下。攻撃は終わりですか?」

「っ! 貴様! 三度の攻撃を防いだくらいで調子に乗るな!」

「それもそうですね。では、次はこちらから行きます」

「はっ! 来てみよ!」


 鼻で笑った皇子は俺の攻撃が届かないようにさらに上空に飛び上がる。

 俺は手を地面に付き、餅を一気に吹き出すように発射する。地面につくと同時に最大の堅さにして固める。それを瞬時に繰り返して、空へと上がっていく。

 それを見た皇子は俺を落とそうと炎の槍を無数に飛ばす。先ほどと同じようにかまくらのようにそれらをガードしながら上昇していく。

 皇子の高さを超し、遙か上空に。


「馬鹿め! 高く上がりすぎたな! 誘いだとも知らずに!」


 皇子はそう叫びながら両の手を俺に向ける。


「殲滅の炎!!」


 皇子がそう言うと先ほどまでの火魔法とは段違いの高温の炎が放たれる。俺たちがいるのはもはや会場の遙か上空。もし、会場内でこれをやっていたら会場の施設が溶け、観客にも被害が及んだだろう。

 この技は皇子の奥の手と言ったところか。だが。


「はあ!!」


 餅をその炎に向かって一気に噴出する。温度を最大限まで下げて。現実の日本ならあり得ない、氷点下の温度で固まっていない粘り気のある餅を放つ。俺のこのスキルの最大の特徴である餅の温度操作。それはとどまるところを知らず、どこまでも低く、どこまでも高く操作できる。

 故にどれだけ高温の炎だろうと関係無いのだ。

 炎は餅にあたった瞬間、雲と見間違う程の蒸気を放ちながら消えていく。そして餅はそのまま皇子に覆い被さるように襲いかかり、降下していく。俺も同じように降下し、地面に着地する数メートル前で餅を噴出して勢いを殺して着地した。

 

 皇子は餅の弾力で衝撃を最大限吸収したようだがダメージは0とはいかず、うめき声を上げている。


「殿下。私の勝ちのようですね」

「図に・・乗るな! 私はまだ負けていない!」

「ご自分の状態をよく見てください」


 皇子の体は餅に包まれ、身動きのとれない状態だった。


「私はそれの温度を下げることも上げることもできます」

「ぐっ! 貴様ぁ・・」

「殿下。負けです」


 このままでは皇子は認めそうに無かったので餅の温度を徐々に下げていく。


「おのれ・・私の舞台を・・」

「殿下が言ったのです。本気で来い・・と」


 餅の温度が氷点下となり、皇子の体温をどんどん奪っていき、やがて皇子は気を失った。

 それと同時に審判役の教師から試合終了の合図が入る。

 皇子の体温を餅で温めたあと、俺は会場を後にした。








***




 これ以降、アレン・ステアラートはスキルの力を発揮し、本戦まで駒を進め、見事本戦でも優勝することになる。それにより、アレン・ステアラートはスキルなしの期待外れの者という評判を塗り替え、一躍若者世代では最強の者として評判を集めることとなった。

 後に起こった隣国との戦争でその名を世界中に知らしめるほどの活躍をし、自国からは英雄と慕われる一方、他国からは「白い悪魔」と称せられ、彼と戦おうとする者は居なかったという。

 



 




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[気になる点] 何故に餅……? [一言] 餅は美味いです だけど戦闘で餅を用いるとか理解が出来ん(戦慄)
[一言] 餅食いてぇ⋯⋯
[一言] 店員 「あなたのスキルはお餅でしょうか」 ぼく 「えっ」 店員 「あなたのスキルはお餅ですか」 ぼく 「いえしりません」 店員 「えっ」 ぼく 「えっ」 店員 「まだお餅になってないというこ…
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