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第43話 ゴーレム技師、S級ダンジョンの攻略を開始する

――翌日。


 街から馬車でおよそ1時間ほど離れた場所に、それはある。


 一見すると、単なる古い石製の門だ。


 だがその存在の影響力を示すように、周りは新しい壁で厳重に覆われ、両脇には武装した冒険者ギルド職員が経っている。


 こここそが、大陸に13存在するS級ダンジョンの1つだ。


「どうも、第13勇者のナットと、使い魔のアルカです」


「「お疲れ様です、どうぞお入りください」」


 ギルド職員に冒険者ライセンスを見せて挨拶すると、入場が許可される。


 勇者だった頃のハロンのパーティーメンバーとしては何度も来たことがある。


 だがついに僕は、”勇者として”S級ダンジョンに足を踏み入れた。


 ――勇者の最大の使命は、S級ダンジョンの番人。ダンジョンの中のモンスターを減らして、地上に来させないことだ。


 S級ダンジョン、ロマネクの迷宮。


 地上に露出しているのは、石作りの門の部分だけ。


 しかし門をくぐって長い長い石製の螺旋階段を降りると、地下に広大な樹海が広がっている。


 顔でさわやかな風を感じる。


 地下のはずなのだが、光がさしている。頭上遥か高くに見える天井が発光しているのだ。昼と夜もある。


 僕は遭遇したことはないが、なんと雨が降ることもあるらしい。


 その原理を突き止めようと壁を登ろうとした学者もいたらしいが、高すぎて不可能だったと聞いたことがある。


 樹海の中には石造りの道が走っている。もっとも、崩れたり樹に飲み込まれたりして行き止まりになっていたりすることが多いのだが。


 ゆえに、迷宮と呼ばれている。


 この迷宮は、明らかな人工物だ。


 いつの時代の人が、どんな技術を使い、どんな目的で立てたのか。それら一切は謎に包まれている。


 これは、他のS級迷宮も同じだ。


 迷宮は複数階層に分かれており、迷宮の最奥に到達した勇者はまだ誰もいない。迷宮が何階層まであるのかも不明なのだ。


 僕は勇者の称号という、その謎を解き明かす権利を手に入れた。そう考えただけでぞくそくする。


「僕が迷宮の謎を解き明かすんだ」


「頑張りましょう、マスター。私も少しワクワクしてきました」


 そのための一歩として。


「ダンジョン探索のために、まずダンジョンの中に一軒家を建てようと思うんだ」


 ダンジョン探索で一番苦しいのは、前回探索した地点まで進むことだ。


 前回の最高突立つ地点にたどり着くまでに、食料や水をかなり消耗する。


 最短ルートが分かるので前回より楽にたどり着けるはずだが、それでもかなりしんどい。


 前回の探索でモンスターの数を減らしたところで、ダンジョンの中の生息数からしたら誤差みたいなものだ。


 そこで僕は、ダンジョンの中に拠点を作り、そこで食料などを生産できるようにしようと考えたのだ。


 拠点づくりのために、ガレックには自分の体に近いサイズの荷物を背負ってもらっている。人間だったらまず運べない重さだが、ゴーレムにとってはたいした苦では無い。


 まずは、ハロンパーティー時代の最奥到達地点を目指す。


 地図はハロンパーティーを離脱するときに渡してしまったが、最短ルートはしっかり覚えている。なにせ地図作成と道案内を担当していたのは僕だったから。


 そして、早速僕らの行く手を阻むモンスターが現れる。


 キラースコーピオン。


 ハサミで人の胴を両断できるほど巨大なサソリだ。


 S級ダンジョンだけあって、スピードもパワーも毒性も1級品だ。守りも硬く、あの甲殻は鍛冶職人がハンマーで叩いても壊せない。


 C級程度のダンジョンのボス相手なら、余裕で勝つだろう。


「私が行きますね」


 だが、毒の効かないアルカなら負ける心配はない。


戦乙女形態(ヴァルキリーモード)


 近接戦闘形態に切り替えたアルカが、ハサミと尻尾の素早い攻撃を軽やかにかわす。


 繰り出される連撃。そのすべてを紙一重で見切る。そして、

 

「【ピンポイントスラスト】」


 ――一撃。


 素早く動くキラースコーピオンの、動作の際に発生するわずかな甲殻の隙間を縫って、急所を1刺し。


 一撃で仕留めた。


 モンスターの襲撃を警戒して、アルカが索敵形態(サーチモード)に移行する。


「マスター、気配を消していますが、あそこに大型のモンスターが潜んでいます」


 ウサ耳を揺らしながらアルカが大きな樹を指さす。


 この辺りで大型モンスター、気配を消している……とくれば。


「ペトリファイ・アナコンダか……」


 視線に石化効果がある危険な蛇モンスターだ。


 体長は10メートルを超え、もし締め付けられたらまず命はない。


 が、ゴーレムには石化の状態異常なんぞまるで意味がない。


「ガレック、まかせた。お前なら大丈夫だ」


 背負っていた荷物を一旦地面に置き、ガレックが樹の裏に突撃。


 飛び出してきたペトリファイ・アナコンダがガレックに巻きつく。そして、至近距離から睨みつけて石化させようとする。しかし、無駄だ。


 アナコンダは得意の石化が効かないことに気付いたのか、今度は締め付ける力を強くする。


 だがガレックの青銅の鎧は締め付けられてもビクともしない。


「ガレック、逆に締め付けてやるんだ!」


 太い腕を使ってガレックがアナコンダの首を捕まえる。


 最大出力で締め上げると、アナコンダはあっさり絶命した。


 こんな調子で、僕たちはモンスターを蹴散らして進んでいく。


――――


 夕方には、ハロンパーティー時代に3日かけていた道のりを進むことができた。


 明日には最奥到達点まで辿りつけるだろう。


「よし、今日はここで休もう」


 丁度良い具合に開けた場所を見つけたので、テントを張ることにする。


 アルカが探索モードで見張りをしてくれているので、モンスターに奇襲される心配はない。


 僕は安心して料理に集中する。持ち込んだ食材と、道中倒した食べられるモンスターの肉を調味料と一緒に煮込む。


「マスターの料理は美味しいです。お皿洗いはお任せ下さい」


 食後、僕は近くにあった倒木に腰掛ける。


 もう日は落ちていて、静かだ。


 ハロンパーティー時代には雑用を全部やらされていた上にみんなうるさかったからな。こうやって、ぼうっと静かさに身を委ねられる時間はなかった。


 アルカも横に座ってきた。


「私、マスターの話が聞きたいです。勇者パーティーに入る前は、どんな暮らしをしていたのですか?」


 そういえば、あんまり昔の話をしたことがなかったな。


 僕は星を眺めながら色々な話をした。


 ゴーレムを作ろうとしたきっかけだとか、


 近所の古代文字を解読できるお姉さんに文献を読んでもらった話だとか、


 作り始めのゴーレムの話だとか。


 そんな話をしているうちに、夜も更けてきた。


「僕はそろそろ寝るよ、おやすみ、アルカ」


「見張りはお任せください、マスター」


 そして翌日の昼、ついに最奥到達点に来た。


 ここからは完全に未踏の領域だ。


 見た目はこれまでの樹海とかわらない。だが、どんなモンスターや罠が潜んでいるかは分からない。


「よし。探索に挑む前に、ここに拠点を建てよう」


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