第36話 ゴーレム技師、勇者の資格を勝ち取る
「全員、集まったみたいだな」
森の中に、20人以上の勇者候補が集結していた。
意地の悪い笑みを浮かべた男が仕切っている。
「俺は勇者の称号には興味がない。だが、あのゴーレム使いには用がある。あの男には勇者になってもらっては困るのさ。だからこうして、1人金貨50枚なんて大金を渡してお前たちを抱きこんだわけだ」
集まった勇者候補は全員、ずっしりと重い袋を抱えている。
『個人ではこんな金額は出せない。この男の背後には、巨大な組織がある』
金を受け取った勇者候補達は全員そのことに気付いているが、誰も口には出さない。
「さぁ行くぞ。あのゴーレム使いを完膚なきまでに、冒険者としての自信をなくすほどに叩きのめしてくれ!」
「「「おおおおおぉー!」」」
勇者候補達は、ナットの砦へ向かって侵攻し始めた。
――――
砦の中は、複雑に壁が入り組む迷宮になっていた
1人の勇者候補が迷宮の壁を登る。すると、砦の中心からゴーレムたちが一斉に矢を射かけてきた。
勇者候補が慌てて壁から降りる。
「壁は登れないな。壊すのも時間がかかる。2手に分かれて迷宮を攻略するぞ」
金で勇者候補達を雇った男の指示で、勇者候補達が迷宮を進んでいく。
「うわ!?」
1人の勇者候補が悲鳴を上げる。
勇者候補は、落とし穴にはまっていた。それもかなり深い
「クリスタルは無事だ! こんな穴程度でケガする俺たちじゃねぇ。這い上がりさえすればすぐ復帰できる!」
”バキン!”
「……え?」
落とし穴に落ちた勇者候補が自分の胸元を見ると、小型のゴーレムがクリスタルを破壊していた。
落とし穴にあらかじめ潜んでいたのだ。
こうして落とし穴に落ちた勇者候補は脱落した。
「やられた、落とし穴の中にも使い魔がいる!」
1人の勇者候補が叫ぶと、呼ばれたかのように迷宮の奥から巨体のゴーレムが現れる。そして、別の通路からも。
「ヤバい! 巨大使い魔だ、挟み撃ちにされる前に逃げろ!」
勇者候補たちがパニックになって逃げる。そして、落とし穴に落ちていく。
迷宮の奥から、今度は赤いミニゴーレムが現れた。
「なんだ? こんなちっこい使い魔ごときで俺たちを止められ――」
爆発。
赤いミニゴーレムの中の火薬がさく裂し、近くにいた勇者候補を吹き飛ばす。
壁に叩きつけられる勇者候補。衝撃でクリスタルは壊れていた。
「やばい、中に火薬が入ってる! この赤い小さい使い魔が一番危険だ!」
迷宮の奥から、わらわらと赤いミニゴーレムが出てくる。
「「うわあああああァ! いっぱい出てきた!!」」
パニックになった勇者候補達が迷宮の中を逃げ惑う。
本当は火薬入りゴーレムを作るには時間がかかるので、本物の火薬入りゴーレムは1体だけで残りはただ赤く塗っただけのミニゴーレムなのだ。だが、勇者候補達がそんなことを知るはずもない。
勇者候補達はもう、無様に逃げ惑うことしかできなかった。
あるものはミニゴーレムの爆発でクリスタルを破壊され、
あるものは落とし穴に落ち、
あるものは大型ゴーレムに叩きのめされ、
砦に突入した勇者候補は全滅した。
『勇者候補が最後の1人となった! 試験終了だ!』
魔法で拡大された試験監督マキオスの声が、山中に響く。
『ナット=ソイルレット君。おめでとう、君が新しい勇者だ!』
――――――
辺境の冒険者ギルド支部。
応接間にて。
僕は今、生きる英雄マキオスから、新しい冒険者ライセンスを受け取る。そこには確かに、【階級:第13号勇者】と記されていた。
いまだに、手が震えている。
「夢みたいだ……」
「やりましたね、マスター。これで夢がかないました!」
アルカが僕の手を掴んで何度も上下に振る。目の奥から、熱いものがこみあげてくる。
「おめでとう、ナット君。実力も人格も、君なら問題ない。試験中少しやりすぎなところもあったが……君には期待している!」
「ありがとうございます!」
生きる伝説マキオスから褒めてもらえた。
さぁ、今日から勇者として、新しい生活の始まりだ。
「おめでとうございます、ナットさん」
僕の後ろに、いつの間にかホクホク顔のリエルさんが立っていた。
「今回私、試験補佐官をしていたんですけど、『誰が次の勇者になるか』他の補佐官と賭けをしていまして。私は金貨100枚ナットさんに賭けたので、大儲けしちゃいました☆ 信じていましたよ、ナットさん」
金貨100枚!? 凄い額だ……。
それほど僕の実力を信じてくれていたのか。
マキオスが呆れてため息をつく。
「まぁお金が欲しかったというより、他の調子に乗った試験補佐官から大金をむしり取って絶望する顔が見たかったのですけれど」
本当に、危険な人だ。
「遊び程度で小銭を賭けるならともかく、そんな額の賭け事をするでない」
マキオスが口を軽くリエルさんを叱る。
「はーい、反省します☆ ところでナットさん、また新しく決闘を申し込まれていますよ? どうします? 受けますか?」
「誰からですか? ハロンパーティーのメンバーとは全員決着をつけましたし、申し込んで来るような相手なんて……」
「冒険者ギルドで身辺情報を洗ったところ、どうも元勇者ハロンに『ゴーレムのメンテナンスなんて簡単だ』と吹き込んだ男みたいですねぇ」
!!
「マスターを、勇者パーティーから追放するように仕向けた男ですか……!」
アルカが拳を強く握りしめた。
「あと、私好みにイイ感じに調子に乗っている男ですね」
その情報はあまり重要ではないのですが。
「そして、勝負の内容ですが『ゴーレム対決』を提案してきています。『どちらが人の役に立つゴーレムを作れるか』で勝敗を決めたいと」
「ゴ、ゴーレム対決!?」
まさか、僕以外にゴーレムを作れる人間が現れるなんて。
一体、どんなゴーレムを作ってくるんだろう?
僕を勇者パーティから追放指せるように仕組んだとか、そんなことは吹っ飛んだ。なんて楽しみなんだ。
「もちろん受けます!」