第34話 ゴーレム技師、勇者選抜試験に挑む
ついに、この時が来た。
僕とアルカは、普段活動している街から大分離れた田舎の山に来ていた。
ここにある小さな冒険者ギルドの支部で、いよいよ勇者選抜試験が行われる。
「凄いな、みんな迫力がある」
「街で見かける冒険者とは明らかにレベルが違いますね、マスター」
会場に集まっているのは猛者達。この中の誰もが勇者たりえる実力を持っているのだ。
装備、体格、感じる圧。どれをとっても、普段見ている冒険者とは格が違う。
「時間だな。では、これより選抜試験のルールを説明する」
貫禄ある声が響く。僕たち受験者の前に、鋭い雰囲気をまとった老人が現れた。
「私の名は冒険者ギルド本部所属、マキオス。今回の選抜試験の監督をつとめさせてもらう」
マキオスだって!?
元第1位の勇者じゃないか!!
勇者は大抵、ダンジョン探索の途中で力尽きてその生涯を閉じる。
だが、マキオスは現役無敗。仲間を一度も失うことなく、勇者としてダンジョンに挑み続けた。
歳で引退してしまったが、凄まじい圧を感じる。きっと今でも実力は現役勇者と遜色ないだろう。
まさに、生きる伝説。
そんな大物を生で見れるなんて、何という幸運だろう!
これだけでこの選抜試験に参加した甲斐があったというものだ。
「では、選抜試験のルールを説明しよう。前回までは、1対1のトーナメント形式で戦ってもらい勇者を決めたが、今年は違う。受験者には、これを首から下げてもらう」
マキオスが取り出したのは、小さなクリスタル。首から下げられるようになっている。
「他の受験者のクリスタルを破壊し、最後の1人にまで生き残った者が勇者だ。あとは、受験者を殺してはならない。これだけがルールだ。あとは、好きにやるとよい」
試験補佐官たちが、受験者たちにクリスタルとリュックを配っていく。
「試験会場に持ち込める物資は、装備品以外はそのリュックのみ! 中には1週間分の食料と水が入っている。足りなければ、現地で調達するなり奪うなり自由にやるとよい。
試験会場は、ここらの山一帯! 一般人は寄り付かない土地だ、自由に暴れてよし!
受験者全員、全霊を尽くして臨め!」
マキオスが活を入れると、受験者全員の雰囲気が引き締まる。
「アルカ、僕たちも頑張ろう!」
「やりましょう、マスター!」
――そして、試験開始の翌朝。
「なんとか夜明けには間に合ったな……!」
「見事です、マスター」
僕はゴーレムを総動員して、小さな砦を完成させていた。
――――――
ナットの作った砦から、少し離れたテント。
そこでは4人の勇者候補が話し合っていた。
長い髪の青年、索敵のナッシュ。
妖艶な若い女、幻惑のナルタリア。
腕が太い巨漢、怪力のウォズ。
そしてリーダーを務めるメガネを掛けた青年、知恵のリッド。
4人は同じ街の出身で、街の冒険者からは尊敬の念を込めて”四天王”と呼ばれている
「では、あの砦の攻略法を考えるとしよう」
そういったのは、知恵のリッドだ。
「あの砦は、切り立った崖の上に建っている。崖と反対側には分厚い防壁。そして、壁の中には幾つか塔が立っている。
崖側から侵攻するのはほぼ不可能。
防壁を壊すか登るかすれば、恐らく塔から遠距離攻撃を受ける。と、普通は考える」
知恵のリッドが冷静に状況を分析していく。
「あれだけの建築物を1日で用意するには、土属性の魔法使いが最低でも10人は必要だ。だが、逆に言えばあの砦の中には土属性の魔法使いしかいない。
砦の中に火炎魔法使いや剣士や自立行動する使い魔がいるなら勝ち目はないが、土属性の魔法使いしかいないなら恐れることはない。
地面を使った土属性魔法にだけ気を付ければ、楽勝だ」
リッドの分析に、他の四天王が頷く。
「よし、任せろけリーダー。俺が正面からぶっ壊してきてやる」
ずしん、と重い音を立てて怪力のウォズが立ち上がる。背中には無骨なハンマーを背負っていた。
「ウォズ1人で片が付くだろうが、念のためナッシュもついていってくれ」
「了解した」
こうして怪力のウォズと索敵のナッシュが砦に向かった。
「2,3時間もすればいい知らせが聞けるだろう。それまで私は、ほかの勇者候補を倒す策でも練っているとしよう」
「頼りにしてるわよ、リーダー」
――――10分後。
「大変だリーダー、ウォズがやられた!」
血相を変えた索敵のナッシュがキャンプに飛び込んできた。
「何だと?」
しかし、リーダーである知恵のリッドは動揺していない。
「ふん、あの筋肉馬鹿……どうせ、リミッターを外す前に負けたんだろう? 力を出し惜しみするのがあいつの悪い癖だ」
怪力のウォズは、日常生活で物をよく壊してしまうため、筋力を抑える魔法のかかったベルトを普段から着けていた。
しかし、
「いや、ちゃんとリミッターは外していた。そのうえで、1対1の決闘で負けたんだ」
「嘘だろ!?」
ここで初めて、知恵のリッドが動揺した。
「しかも、遠距離攻撃魔法とかではなく、剣を使う相手に近接戦で負けた。”アルカ”と名乗る少女が砦から出てきて決闘したんだが、パワーも技もスピードも、全てウォズより上だった」
「そうか。とんでもない化け物もいたものだ。だがウォズは我ら四天王の中でも1番……1番強かったんだが……どうしよう……」
「ああ、あいつが1番強かったぜ……」
「強かったわよねぇ……」
テントの中は、重苦しい空気になった。
「認めよう。その”アルカ”という少女は、桁違いに強い。だが、正面から戦わなければ勝ち目はある。3時間くれ。何か策を考える」
「それがリーダー、実はウォズの足跡を辿って、土でできた使い魔たちがこのキャンプに迫ってる。多分あと5分くらいでここへ着くと思う」
「それを先に言えーーーーー!」
3人になった四天王が、荷物を抱えて慌ててテントを飛び出す。
しかし、テントの周りは既にゴーレム達によって包囲されていた。
「御覧のように、包囲は完成しています。覚悟してください」
ゴーレムたちの中から、戦乙女形態のアルカが歩み出てくる。
「絶対絶命、というやつだな。こうなれば私にも考えがある」
知恵のリッドは、不敵な笑みを浮かべる。
「この状況から、どうするというのですか?」
「”こう”するのさ」
知恵のリッドは、自分のクリスタルを手に取り、破壊した。
「選抜試験では、クリスタルを破壊されたものは失格となる。そのルールを利用させてもらった。君たちと戦って怪我をして負けるくらいなら、戦わずに無傷で撤退したほうが良いという判断だ」
「……あの、それはつまり降参しただけなのでは」
「降参と戦略的撤退は違うさ」
「そうだとしても、それは降参ですよね?」
四天王の残りのメンバーも、自分のクリスタルを破壊する。
「では、我々はこれで失礼するよ。私たちの持っていた物資は好きにするといい。君たちの健闘を祈っているよ」
そういって颯爽と四天王たちは去っていった。
「降参しただけなのに、なぜあんなにも得意げな顔をしているのでしょうか……」
アルカはひとりそう呟いた。
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