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【ざまぁ回】第33話 元勇者、借金返済のために強制労働施設【裏冒険者ギルド】へ連行される

 ゴブリンたちを全滅させた翌日。


 僕とアルカは、ゴールド級への昇格試験を受けに、街の外れにある冒険者ギルドの支部に来ていた。


 冒険者試験を受けに来た時と同じ場所だ。


 今日の試験内容は、実技試験、筆記試験、応急処置実技試験の3つ。


 すべての試験で合格点以上を出せれば、ゴールド級へ昇格できる。


「では、早速第1試験の説明を始める」


 試験監督は、前回の冒険者試験の時と同じ人がつとめている。


「試験内容は冒険者登録試験と同じ、ターゲットの破壊試験だ」


「はい、頑張ります! あれから僕もアルカも強くなりました。今度は、前の半分の時間で全部のターゲットを破壊してみます」


「いや、やらんでいい」


 !?


「この試験の合格ラインは、時間内にターゲットを半分破壊することだ。


 ナット君は前回の試験で合格ラインの倍の数字を出している。今更テストは不要だ。


 というか、直すのが大変だからやりたくない!」


 やりたくないと言われてしまった。


「というわけで、第1試験はパス。第2試験へ移る」


 第2試験は筆記試験。冒険者の心構え、モンスターの知識、ダンジョン内でのサバイバル知識、などなど。冒険者にとって必要なさまざまな知識が出題される。


「――そこまで! では、採点に移る」


 なんとか9割は取れたんじゃなかろうか。勇者パーティー時代に色々と勉強したので、こういうのは得意だ。


「採点の結果、文句なしに合格だ。おめでとう。それでは、最後の試験に移る」


 最終試験の内容は、ヒール魔法を使わない治療だ。


 最終試験を行う部屋の中央には、ベッドがおかれている。


 そこに、呻いている男性が横たわっている。


「こちらが、今回の患者だ。魔法で疑似的に症状を作り出している」


 男性は顔が赤くなっており、大量の汗をかいている。とても苦しそうだ。


「この患者の想定状況は、A級ダンジョン”バルエル火山”の奥地。症状は見ての通り発熱と発汗」


 試験監督さんがシチュエーションを説明していく。


「このダンジョンでは有毒ガスが発生している。毒を持つモンスターも、エビルスネーク、ポイズンスネーク、マッドスネークの3種類が生息している。この患者の症状を正しく分析して、治療してくれ。薬や水は、隣の机に並べてある」


 回復の魔法が使える持つヒーラーがいればどの毒でも簡単に解除できる。しかし、薬で毒を治すには知識がいる。


 間違えた薬を投与すると、かえって悪化することもある。


 僕はじかに触れて、患者役の症状を確認する。


 ……妙だ。


 有毒ガスやモンスターの毒とは、微妙に症状が違う。


 まさか、新種の毒を持つモンスターか?


 いや、そんなものを出題するはずがない。


 ……そうか、分かった。


 僕は、薬ではなく机の上から水の入った革袋を手に取る。


 そして、水を患者の上に掛ける!


「マスター、一体何を!?」


 僕は水を口元にも運んで患者に飲ませる。


「……ダンジョンに住んでいる蛇モンスターの情報や、解毒剤は引っ掛けですね。この症状は単なる”熱中症”です。体を冷やし、水分と塩分を取って安静にしていれば回復するでしょう」


 ……試験監督が、ゆっくりとうなづく。


「見事だ。よくぞ見抜いた、ナット君。これは、よくある事故だ」


 試験監督さんが、拍手しながら言う。


「毒を持つモンスターがいるダンジョンだから、単なる熱中症を毒と勘違いして治療する。基本を忘れてしまったためにこういうことが起きる。


 この試験は、基本を忘れるなという、冒険者ギルドからのメッセージでもある。


 合格おめでとう、ナット君」


 こうして僕はゴールド級冒険者へ昇格、プラチナ級への推薦状を貰っているので即プラチナ級冒険者へと昇格したのだった。


――――――――


 ――時は少し戻り、勇者ハロンとナットが決闘した翌日、ハロンの家。


 ハロンは小さいながら豪勢な屋敷に、使用人達と住んでいる。


 今日はそこへ2人、客人が訪ねてきた


 ゲッキーとメルツ。冒険者ギルド本部の、借金取り立て姉妹だ。


 ハロンは上機嫌でゲッキーとメルツを応接間に案内する。


「さて、冒険者ギルド本部が私に何の用かな? いやいい、言わなくても分かるとも。勇者の称号剥奪の件を撤回したい、という申し出だろう? 私ほどの冒険者が居た座に、ふさわしいものなどそう現れは……」


「ちっがいまーす☆ 今日来たのは、冒険者ギルドへの借金を返済してもらうためでーす」

「お金……返してください……」


「何を言っている。キキとカカとは違い、私はナットとの勝負で聖剣しか賭けていないし、それはもう渡した。もう払うものなど……」


「いや荷物持ち兼戦闘用ゴーレム壊しちゃったじゃないですか☆」


「あっ」


 ハロンは、ゴーレムを壊した件をすっかり忘れていた。


「金貨1000枚……弁償してください……」


 呪術師メルツが囁くように催促する。


 ――そのとき、玄関のドアを叩く音がする。


「そうだ、今日は父上が会いに来ると言っていた! 金なら父上に掛け合ってみる、少し待っていてくれ!」


「分かりました~。いこう、メルツ」


 ゲッキーとメルツは隣の部屋に移動する。


 そしてハロンは、父親を応接間に通す。


 ハロンの父は、体格のいい中年男性だ。


「ハロンちゃん、元気だったか? 勇者としての仕事は順調かい?」


「は、はい父上。とても順調です」


 ハロンは、『勇者の称号を剥奪されました』、とはとても言えなかった。


「そうか、それは良かった。ハロンちゃん、聖剣バーレスクを見せてくれ」


「せせせせ、聖剣バーレスクをですか?」


 ハロンの背中を、汗が滝のように流れる。


「ああ。せっかく来たんだ。我が家に伝わる剣の、あの美しい刀身を見ないともったいないからな」


「ええと、聖剣バーレスクは今鍛冶屋にメンテナンスに出していて……」


「メンテナンスだと!?」


 父親が大声を出すと、ハロンが ビクゥ! と背筋を伸ばす。


「素晴らしい心がけだ! 聖剣バーレスクは頑丈だが、メンテナンスしなくていいわけではない。ちゃんと聖剣バーレスクを丁寧に扱っているようで、安心した。うん、感心感心」


 ハロンは、思い出していた。


 小さいころ、聖剣バーレスクを持たせてもらったが落としてしまい、丸1日中怒られたことを。


「父上。もしも、もしも仮にですよ、私が聖剣バーレスクをなくしたとしたら、父上はいかがなさいますか?」


 ハロンは震える声で聞いてみた。


「はっはっは。面白い冗談だな、ハロンちゃん。……その時はお前を殺して私も死ぬ」


 ハロンの父は笑っているが、目は少しも笑っていなかった。


 そこには、本気で娘と心中する覚悟があった。


「ははは、そうですか……そうですよね、聖剣バーレスクは我が家に伝わる大事な大事な剣ですからね……」


 ハロンの足が震えていた。


「あの、ところで父上。申し訳ないのですが……」


 『お金を貸して欲しいです』、と言いかけてハロンは気付く。


 モルナック家は貴族ではないが、代々冒険者として大稼ぎしており貯金はたっぷりある。


 金貨1000枚くらいは頼めば貸してくれるかもしれない。


 だが、お金を持ってきてくれた時、また父親に『聖剣を見せてくれ』と言われるだろう。


 その時、また聖剣を持っていなかったら、今度は『メンテナンスに出している』という言い訳は通じないだろう。メンテナンスに出している期間が長すぎる。


 その時、聖剣バーレスクをなくしたことがバレるかもしれない。


 一瞬の間、ハロンは悩みに悩んだ。ここでお金を借りることができなければ、冒険者ギルドにどんな方法で借金返済させられるかわからない。


 だが、


「父上、申し訳ないのですが、たまにまた会いに来て下さい。この街では知り合いが中々増えず、たまに寂しいと感じるのです」


 ハロンは、『お金を貸してください』が言えなかった。


「もちろんだとも! 今度、母さんとお兄ちゃんも連れて遊びにこよう! その時は、この街を案内してくれ」


 気分を良くして、ハロンの父は帰っていった。


「お父さんにお金借りるんじゃなかったの~?」


 隣の部屋からゲッキーとメルツが戻ってくる。 


「フン、父上に金を借りなくとも、他にやりようはあるさ。例えば……逃げるとかな!」


 ハロンが猛ダッシュで家から出ていこうとする。


 だが、


”ビタンッ!!”


「痛ーーーー!?」


 ハロンが転んで、顔面を思いきり床に打ち付ける。


 ハロンの脚には、メルツが発動した呪術【カースバインド】による黒い鎖がまきついていた。


 更に鎖が伸び、ハロンの体をがんじがらめにする。


「モガモガモガー!?」


 ハロンは口も塞がれ、喋ることさえできなくなった。


 そんなハロンを、ゲッキーが軽々と担ぐ。


「踏み倒しは駄目だって~。ほいじゃ行こっか。【裏冒険者ギルド】へ、1名様ご案内~☆」


「ハロンさん、しっかり働いてくださいね……」


 こうして元勇者ハロンも、裏冒険者ギルドへ連行されていくのだった。


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