第六幕。パライソ地域にて。
とりあえず、ナントカって山の近くの平原まで来た。
「じゃあ、やってみるね。結構長い呪文唱えるから。ちょっと離れてて」
「うん」
エミリーさんは何やらよくわからない呪文を唱え始めた。
「……、……、…………、……、……――」
――。
――――。
――――――。
エミリーさん、もう30分ぐらいずっとやってる……。
「……長いですね」
「うん、今で八分の一ぐらいかな」
そうなんだ。
――えっ!?
四時間かかるの!?!?!?!?
――。
――――。
――――――。
――そろそろかな。
いやでも、あのパライソ山の隣のナントカって山を消す、なんてことが本当にできるんだろうか。
あ、エイミーさんの語気が心なしか強まってきた――。
「…………ッ!」
――ドッ。
パライソ山が消えた。
「あれっ」
「あっ」
えっ。
――えっ!?!?!?!?
パライソ山が消えた!?!?!?!?!?!?
隣の山はそのままでパライソ山の方が消えたぞ!?!?!?!?
「ずれちゃった」
いやいやいやいやいやいや!!!!!!!!
ずれちゃったじゃないでしょ!!!!!!!!
何!?!? 何が起きたの!?!?!?
「後ろから35番目と112番目がちょっと違った」
……。
クラリッサさん何言ってんのこの人!?!?
何でそこまで具体的な指摘できんの!?!?!?
「嘘。気づかなかった」
「まあ発音難しそうなとこだったし」
いや、え――?
えっ、何、これ――??
……。
「え、ちょっ、と、とりあえず近くまで行きましょう!」
――。
――――。
――――――。
えっ……え、何これ……。
パライソ山のあった場所がクレーターになってる……。
え、しかも……えっ?
えっ!? 何これ!?
クレーターの表面どこ見てもツルッツルなんだけど!?!?!?
……。
「あ、あの、これって……何、したんですか……?」
「えっ……そりゃ山頂を中心にして球状に空間消したんだから――こうなるでしょ……」
「ね……」
いや、やめてくれよ!!!!
わざわざ言わなくてもわかるでしょみたいなその表情!!!!
人智を超越してるんだよ!!!!!!!!
……。
「こ……これ、元に戻したりはできないんですか……?」
「できるけど……うーん、できないかな」
「だよね」
……。
えっ? どっち!?
「あの……すみません、もう少し詳しく教えてもらえますか……?」
「理論上は可能だけど、超長い呪文をぶっ通しで唱えないといけないから。どのくらい掛かるかなぁ」
「たぶん130年くらい」
……。
それを世間一般では不可能って言うんですよ!!!!!!!!
えっ、いや、でも逆に言うと130年間ぶっ通しで呪文唱えられたら消した山ひとつ復元できるってこと!?
何なのそれ!?!?!?
「んー……まあ、やっぱそのくらいだよね。わたしはできない」
「うちも」
でしょうね!!!!!!!!
僕もできませんよ!!!!
というか現存する生物でそれができるやつはいないでしょうね!!!!
……。
「で、でも……じゃあ、これ、どうするんですか……?」
「えっ、どうもしなくていいじゃん。これはこれで観光名所になるでしょ」
「なりそう」
ポジティブ!!!!!!!!
――結局、この『パライソクレーター』は世界的名所となり、その年の観光収入は前年比で約550倍になった。
別途連載中の小説『剣帝と呼ばれた一兵卒』も同じ世界のお話なので、よければそちらも。