異世界人、対戦する。
第5話
「えー、ただいまより第1回『ドラ怪』対戦大会を開始します。・・・これでいいのか?」
珍しくキダが困っている。こいつ、困ると声小さくなるんだな。
「うむ、それでよい。」
大仰に頷く男の名はサカイ。俺に対戦を挑んできた男だ。
「はやくこやつを負け犬として調教してやらねばな!」
「・・・黙れ。」
俺はこいつをなんとしても(ゲームで)殺す。
俺は昔から、この髪と顔で女性に間違われていた。最初は褒め言葉だと受け取っていたが、しだいにバカにしてくる奴らが続出。俺は弱冠8才にして対人恐怖症を患った。(現在では完治)
「曲は『保元の乱』でよいな?」
「ああ。」
『保元の乱』は和風の曲で、凄まじいBPMと音符の量で数多の猛者を討ち取ったという。(紀田談)
選択が完了した数秒後、音楽が流れ始める。刹那、大量の丸が流れてくる。ただそれを叩く。叩く。『叩け』という命令のみが脳から発せられる。
「ぬう、初心者のくせに粘りおる!」
そんなことを言いながらも、サカイは腕を振る。始めたばかりだがわかる。こいつは相当の手練れだ。そして、彼は初心者の俺に全力を出している。ならば、俺も本気で戦わ無ければ失礼だ。
「制限解除<リミッター・アウト>」
脳の制限を解除。これで、多少の無茶はきく!
「うっ、らあああーー!」
「ぬ、おおおーーーー!」
二人の号哭と同時、音符量が倍増。こここそ『保元の乱』の難関、『大将戦』だ。(紀田談)
常人なら音符は見えず、ここでフルコンの夢は潰える。
しかし、何度もプレイしている阪井は全て叩いている。本来、ここで阪井に挑戦した者は全員敗北している。
しかし、ナロクは違った。リミッターを外したナロクは動体視力も異常になり、完全に音符を目でとらえ、すべて叩く。
「俺の全力、食らえ、サカイ!」
「ぬっ、ぬおおおお!!!」
最後の最後で、サカイはミスをした。音楽もそれに合わせて停止。観衆がワッと沸き、キダは
「いよっしゃああーーー!!!」と雄叫びを上げている。俺も何か言おうと思ったが何も浮かばない。ああ、そういえば、キダに教えてもらった勝った時に言う言葉があった。確か・・・
「僕の勝ちだ。」
「!!そっ、それは・・・デス(ピー)トの有名な台詞・・・!」
途中、耳障りな音が入ったことについては触れない。というか、触れてはいけない気がする。
「まあ、お前もうまかったよ。またやろう。」
俺が右手を差し出すと、サカイも握り返してくれた。
この後、一緒にプレイしたり、近くのショッピングモールで本来の目的だった家具の購入を済ませる頃にはもう日がかなり沈んでいた。
こちらに来てから初の休暇。なかなか奇想天外な1日ではあったが有意義だった。
この後、ナロクはとある問題に直撃するのだが、それは次の話である。
第6話に続く