異世界人、働く
第3話
「ナロク・ローグです。バイトです。よろしくお願いします。」
午後7時。働く時間だ。とりあえず、今日から一緒に働く人たちに挨拶くらいは・・・。というわけで簡単に挨拶を。さて、どういう反応をするかな?
「いやいや、堅苦しすぎっしょ!もっと力抜いていいからさ!あっ、そうだ!忘れてたな・・・
俺は紀田 空(きだ そら)!よろしくぅ!」
「あっ、はい。」
「がんばろうなナロクくん!うーん、言いづらいからナロくんでいい?」
「どうぞお好きに。」
なんだこいつ。話が速すぎてついていけない。結局、ついていけなく、苦笑いをうかべていると
「ちょっと紀田!ナロくん困っているじゃない!ごめんね、あのバカ新人入るといつもこうなのよ」
「おいバカって言ったな!仮にも年上だぞ!」
「バカにバカって言って何が悪いの?・・・私は恋島 優理。わからない事があればなんでもいってね。」
「ありがとうございます。」
どうやら、俺は心強い仲間を手に入れたらしい。
1時間後
「ふーむ、ナロくんも大変だったねえ。」
「多分、俺は耐えらんねぇなぁ・・・。」
2人に「どこから来たの?」だの「趣味は?」などと質問責めになっていた。2人に自分に何があったかを話すと、どこかの厳つい男と違ってすんなり理解してくれた。
* * *
「ぶえーくしょいっっ!!!」
1日の仕事も終わり、権田は家でくつろいでいた。テレビを見ていると鼻を強烈なむずがゆさが襲い、盛大なくしゃみを爆発させたのだ。
「あら、あなた、風邪ですか?」
「・・・汚い。」
妻と娘にそれぞれ心配(?)された権田。翌日、高熱を伴った夏風邪をひくのだが、またそれは別の話である。
* * *
先ほどとは違い今度は俺が質問するばんだ。
「ここには何故サンシャが一つしかないのだ?」
「サンシャ・・太陽かしら。太陽はここは1個しか無いから・・・」
「ちなみに、月も1個だぜ!」
「ふむふむ」
平静を装ってはいるがかなり衝撃をうけている。サンシャ・・・こちらではタイヨウというらしいが、1つしかないのにこんなにも大気中にマナがある。道理で鍋ごと蒸発する訳だ。
「こちらには、魔術学校は無いのか?」
「無いよ。」
「そんな学校あったら俺は間違いなく入学している。」
そんな他愛もない話をしていたらもう11時。キダいわく「もっとも眠くなる時間」らしい。
そこに、眠気も一発で吹き飛ぶような騒音。モンスターの鳴き声にもにた音。
騒音がやむと、十名程度の男女が入ってきた。彼らは店内に入るやいなや、ザッシなるものを読み散らかし、ぽてちという菓子を砕き、店内にたむろしている。実に不快だ。
「俺、ちょっと注意してくる!」
キダはそう言うと颯爽とレジを出て客のもとへ行く。30秒後、青ざめて帰って来た。
「コワイコワイコワイコワイ」
そう言うおまえが一番怖いよ。
「じゃあ、今度は私が。」
優理が確固たる意思をこめ歩き出した。1分後、
「無理無理」
と小声で言っている。ネガティブコンビが結成された。とはいえ、今回は少し容認できない。店を荒らし、先輩を怖がらせた罪は身をもって償ってもらおう。
「先輩、ちょっと行ってきます。」
「やめとけよ。絶っっっっっ対返り討ちだって。」
「危険だよ!目がイってたもん!」
「大丈夫ですよ。」
あいつらは絶対に許さない。殺してはいけないということは事前にゴンダから聞いている。ただ、二度とここに来なくなるような恐怖を味あわせればいいのだ。
「おい。」
簡単に呼んでみる。
「ああん?誰だテメェ?」
醜悪な顔がさらに歪む。
「俺はここの店員だ。この店で不埒な行為はやめていただきたい。」
「ああ?!お客様は神様だろうが!店員はすっこんでろ!」
リーダーとおぼしき者の傍にいた男が殴りかかってくる。この場合は正当防衛だ。
「竜巻<ハリケーン>」
男を螺旋状の突風が包み込み、突き飛ばす。リーダーが驚きの声をあげる。
「なんだこいつ!!ただのコスプレイヤーじゃねぇ!畜生、タスケの仇だ!!」
リーダーは懐から短刀を取り出す。そいつ殺して無いんだけど。
「そんな物でこの俺を傷つけられると思っているのか?」
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「ったく・・・ 土壁<ガイア・ウォール>」
男の短刀が深く突き刺さる。
「反撃<カウンター>」
「ぐあああっ」
やられたのだからやり返す。基本中の基本だ。
「これ以上やる?俺は今からでもお前らを爆破する事も可能だが?」
「ひいいいっ」「助けてくれ!」などと言いながら迷惑な客は逃げていった。これでしばらく悪さはしないだろう。
「ナロくん、強いね・・・」
「かっこいい・・・」
いつの間にかネガティブコンビはもとの状態に戻っていた。
この日、紀田、優理はナロクを怒らせてはいけない事を知ったのであった。
第4話に続く