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第8話 令嬢、聖女の訪問を受ける


「よっしゃ、次はオレが行くか」


「えっ、隊長が、、、」


見習い騎士達を一蹴したレーナに、今度はルミダスが挑むことになった。さすがにフェルナンドも慌てて

しまう。


「ちょっと、、、さすがにルミダス隊長が相手では、いくら姉上でも分が悪いでしょう!」


「坊ちゃん、勘違いするなよ。オレはな、まだレーナに模擬戦で一度も勝ったことがねえんだよ、、、」


「ええっ! そんなまさか、、、、」


フェルナンドもルミダスが騎士団有数の使い手であることは知っている。さすがにルミダスの言葉を信じる

ことはできなかったのだ。だが彼はフェルナンドの言葉も無視して、レーナに刃挽きした模擬戦用の剣を

手にして対峙する。


「おいレーナ、オレもあれから鍛えてきたからな。今度こそそのお綺麗な顔に一撃入れてやるぜ!」


「ふふ、楽しみにしていますよ」


一般人、いや並みの騎士なら震えあがるだろうルミダスの言葉にも、レーナは口角を上げて不敵な笑み

を返す。フェルナンドはただその光景を黙って見つめることしかできなかった。


「おーい、今日は隊長が勝つ方に賭けるヤツいるか」


「ああ、オレは隊長に賭けるぜ」


「オレはレーナの方だ」


見物していた騎士達が、二人の模擬戦を賭けの対象にしていた。これはもはや騎士団の名物と化して

いるらしい。


「ちっ! 今日もレーナに賭ける方が多いな、、、お前ら少しは隊長を敬えよ」


「ええー、、だって隊長もうレーナに5連敗してるじゃないですか。そろそろ隊長に賭けてるオイラ達に

儲けさせてくださいよー」


「うるせえっ! お前ら後で鎧着て20km走だぞっ!」


「うわー、、、それパワハラですよー」


そして、ルミダスはまるで親の仇を相手にするような形相でレーナに向かった。最初に仕掛けたのは

レーナだ。彼女の剣先が微妙に揺れ始める。ベッカーを追いつめた彼女の得意技だ。しかし、何度も

これに痛い目に遭わされているルミダスは容易に乗ってこない。


「ふんっ、タネが分かればどうということもねえ。吹っ飛ばしてやるぜっ!」


入団テストの時よりも数段鋭い剛剣がレーナの頭上を襲う。思わずフェルナンドも目をつぶってしまう。

だが、レーナはまるでダンスのような動きでその剣を躱すと、ルミダスの首に一撃を放つ。


「おいおい、いつまでも同じ手を喰らうと思うなよ」


「さすがですね、隊長」


それはレーナの手を読んでいたルミダスに防がれた。反撃を受ける前にレーナはさっと間合いを取る。

隊長に賭けた連中の顔に、希望の光が射しこんだ。


「今度は、避ける間もねえくらいすごいのを打ちこんでやるぜ!」


ルミダスは咆哮とともに更に鋭い剛剣をレーナに打ちこんだ。いかに素早い彼女でも避けようながない

と思われたその瞬間、その場にいた者達は皆自分達の目を疑った。


「なっ、この剣を受けるか!」


レーナはルミダスの剛剣を受け切ったうえ、更にそれを弾き飛ばすという荒業を演じたのである。


「隊長、勝負ありましたな」


「ぐ、ぐううううっ!」


レーナの剣がルミダスの首に当てられる。刃挽きしてあるとはいえお互いまともに喰らえば致命傷に

なりかねない、模擬戦というより真剣勝負に周囲は賭けも忘れて完全に凍りついていた。


「はああ、、、まさかアレを受けるとはよ、、、レーナ、今度はそうはいかねえからな」


「ええ、、、筋力も付いてきたので受け切れるかと賭けてみたのですが、、、もう痺れてしばらく何も手に

持てませんよ。まるで示現流の剣士と戦っているみたいでした、、、、」


「ジゲンリュウ、、、なんだそりゃ」


「”肉を斬らせて骨を断つ”、一撃必殺の剣法ですよ」


「おお、そりゃいいな。オレもそのジゲンリュウとやらに負けないよう鍛えておくぜ」


先ほどまで模擬戦という名の”死合い”を繰り広げていた二人は、そう笑いあう。一方、フェルナンドは

未だにフリーズしたままだ。


「おーい、、、フェルナンドよどうした。何どこかに魂を飛ばしておるのだ」


「はっ! ははは、どうもこの自分、なんだか夢を見ていたようです。姉上があのルミダス隊長に勝負して

勝てるなど、、、、」


「おいおい、夢じゃないぞ。ちゃんと父上、母上にも元気でやってるから心配するな、と伝えておいてくれよ」


「元気というのを通り過ぎているような気がいたしますが、、、、」


フェルナンドの見たことは大公家を通じて王城まで報告された。そして、それは当代の聖女であるエリスの

耳にも入ることとなったのである。


「ふーん、、、あのレーナさんが王都直轄騎士団にねえ、、、」


彼女には前世云々は伝えられていない。ただレーナが騎士団に入って頑張っている、ということだけが

リシューの口から話されているだけだ。


「殿下、レーナさんにお会いすることはできないでしょうか」


「しかしエリス、君に危害を加えようとした相手だぞ。大丈夫なのか」


もちろん、前世の人格になったレーナが今さらエリスに危害を加えることはない。しかし、リシューは以前

のレーナの振る舞いが、エリスのトラウマになっているのでないかと危惧しているのだ。彼は王太子と

しては優秀だが、エリスがからむと途端に残念な人と化してしまうのだ。


「はあ、、、殿下が何をご心配されているのか大体想像はつきますが、、、あんな程度のことは別に気に

していないので問題ありませんよ」


「しかし、、、」


なおも渋るリシューに、エリスは冷徹な言葉をかける。


「殿下、いずれ私は魔王との戦いに”戦力”として赴かねばならないのでしょう。このくらいのことを気に

していたら、とても魔王相手に立ち向かうことなどできませんよ」


「そうか、、、、」


リシューも思わず口ごもってしまう。彼個人がどれだけ好意を寄せようとも、王国にとってエリスは対魔王の

切り札的存在なのだ。これまで戦争のせの字も知らなかった女性を、人族同士の戦場よりも過酷な場に

送らなければならないのだ。


「エリス、魔王との戦いにはぼくも当代の勇者として参加するからな。君の安全は保証するよ」


「でも、、、前回の魔王戦では、勇者と聖女は魔王と相討ちになったのでしょう、、、、」


そう言いながらわずかに震えるエリスに対し、リシューは言葉をかけることができなかった、、、、


「おーい、レーナに面会だ。明日、聖女様がいらっしゃるってよ」


「えっ、、、、隊長、自分にですか、、、」


「ああ、リシュー殿下も一緒だそうだ」


そして翌日、騎士団本部を訪れたリシューとエリスは、ベッカー立ち合いの元レーナと面会した。


「リシュー殿下、エリス様、この度のご訪問真に光栄に存じます」


そう挨拶してすっと片手を胸にあて、片膝をつく礼を執るレーナ、その見事な所作にリシューやベッカーも

感心してしまう。だが、それを見たエリスの様子がおかしくなっていく。


「お、おいエリス、、、やはり恐怖心があるのかい、、、」


しかし、リシューの問いかけにも答えずエリスはその体を震わせている。レーナやベッカーも心配し始めた

頃、彼女の口から思いもかけない名が飛び出してきた。


「まさか、ベルお姉さま、、、、」


「っ!」


その名にレーナも絶句する。前世、彼女をその名で呼ぶ者が存在していたからだ。


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