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第7話 令嬢、訓練漬けの日々を送る


「どうしたレーナ! もう息があがったかっ!」


「隊長殿、問題ありません!」


「よし、もう5km走るか!」


「いえっ、10kmでお願いしますっ!」


「おいおい、、、、」


入団してからのレーナの訓練ぶりは、激しい訓練で知られる第一部隊の面々も引くほど鬼気迫るもので

あった。騎士団での体力作りは走り込み、腕立て伏せ、腹筋など地球の軍隊とほぼ同じだ。レーナは

ほっておくと気絶するまでそれらを続けようとするので、逆にルミダスがストッパーとなっているほどだ。


「おいレーナ、張り切るのはいいが、それじゃ体ができる前に壊れちまうぞ」


「はあ、、、申し訳ありません。なにしろ今までたるんだ生活を送っていたものですから、早めに鍛えなけ

ればいけないと思いまして、、、、とりあえず最低限、三日三晩は飲まず食わずで戦場で戦える体力を

身に付けないと、どうにもなりませんから」


その本気の言葉にルミダス始め第一部隊の猛者の面々も、さすがにドン引きするのであった。だがその

一方で、彼女のことをお嬢さんの気まぐれだと侮っている者も存在していた。


「おい、レーナだよな。ちょっと話があるんだが」


「む、そなたらは第三部隊の者達だな、一体何用だ」


通常の訓練の後、日課にしていた500回の素振りを終えたレーナは自室に戻る途中、数人の騎士見習い

達に声をかけられた。彼らからは悪意しか感じられない。


「いや、あんたみたいな綺麗なお嬢ちゃんがエリートの第一部隊に配属されるなんて、思えねえからよ」


「そうそう、団長に腰でも振って取り入ったんじゃねえか。へへへ、俺たちの相手もしてくんねえかなあ」


「・・・・・・・・・・」


レーナの目がすっと細められる。とても王都の治安を担当する騎士を目指しているとは思えない。下卑た

連中だったからだ。


「ふむ、そうか、、、、貴様らが私よりも強かったなら、相手するのもやぶさかではないぞ」


「よしっ、じゃあオレが一番乗りだ、、、ぐえっ!」


「ぎゃあっ!」 「ごぼおっ!」


レーナに襲いかかった男達、だが、勝負は一瞬でついた。彼女の剣技の前に全員地面とキスするはめに

なってしまったのである。だが、男達の受難はまだこれからだ。


「全く、、、この程度の腕で野盗などの相手をするつもりだったのか、これはちょっと私が鍛えてやらんと

いけないな」


「い、いや、、、アンタが強いのはわかった。だからもう勘弁してくれ!」


「貴様ら喜べ! この”死神姫”たる私が、直々に稽古をつけてやろうぞ」


「「「「「ひええええっ!」」」」」


そう獰猛な笑みを向けるレーナに、男達は震えあがる。そして翌日、、、、


「姉御、走り込みお疲れさまっすっ! タオルお持ちいたしました!」


「うむ、ありがとう」


「姉御、冷たいお飲物もご用意いたしましたっすっ!」


「おっ、気がきくじゃないか」


完全にレーナのパシリと化した、男達の姿があった。あの後彼女に徹底的に叩きのめ、、、いや稽古を

つけられバッキバキに心を折られ、その舎弟となったのであった、、、、


「おい、あいつら第三部隊の見習いじゃねえか。なんでレーナに下僕みたいに尽くしているんだ、、、」


「さあ、、、なんででしょう、、、、」


首を傾げるルミダス達であった。


「フェルナンド・フローレス様でございますね。見学許可証をお願いいたします」


「うむ、確認を頼むぞ」


「はい確かに、ただし、訓練の邪魔だけはなさらないようにしてください」


レーナが騎士団に入団して1か月後、彼女の弟であるフェルナンドが訓練場にやってきた。心配している

両親から様子を見てきてくれと頼まれたのである。


「訓練場はあそこか、、、て、、えっ!」


訓練中のレーナを見たフェルナンドは、思わず目が点になってしまった。彼女はちょうど腕立て伏せをやって

いたのだが、その背中には道に敷きつめるような重そうな石板が乗せられていたからだ。彼女は大汗をかき

ながら過酷な腕立て伏せを繰り返していたのである。


「あっ、姉上えぇぇぇぇっ! 一体何をされているのですか!」


フェルナンドは入口で受けた注意も忘れて、レーナの元に駆け寄ってしまった。


「むっ、フェルナンドか、見学にきたのか、見学者は訓練の邪魔をするなと言われなかったのか」


「それとこれとは話が別です! なぜ姉上だけ背中に石を乗せているのですか! もしかして騎士団から

辛い目に遭わされているのですか! そうなら大公家としても、、、、」


「ええいっ、うるさいぞフェルナンド! これは私自らが望んでやっていることだ。邪魔する気ならとっとと

家に帰らぬか!」


「えっ、姉上今なんと、、、、」


レーナの叱責に呆然とするフェルナンド。そんな彼にルミダスが声をかける。


「あー、、、大公家の坊ちゃんか。いや、オレ達もやめとけと言っているんだが、コイツが聞かねえんだよ。

坊ちゃんからもあんまり無理すんなって言ってくれねえか、、、」


「ルミダス隊長、何度も言っているではありませんか。これは前世よりも軽い訓練だと、、、、」


「お前な、、、前世どんな修羅の世界にいたんだよ、、、」


予想の斜め上をいく事態に、フェルナンドもお口あんぐりな状態だ。そんな彼にレーナが声をかける。


「まあ、せっかくだからこれから立ち合いをやるので、見ていかぬか」


「へっ、えっ、、、、立ち会いって、、、」


まだ事態が飲み込めないフェルナンドをよそに、レーナは立ち合いの準備を始める。相手は先日舎弟に

なった見習い騎士たちだ。


「では姉御、参るっす!」


「ようしっ! 遠慮せずにかかってこいっ!」


「ちょっ、ちょっと! 相手は数人じゃないか!」


「まあ坊ちゃん、黙ってみてなって」


そして、1対6の立ち合いが始まる。


「でやあっ!」


「甘いっ!」


「ぐうっ、まだまだああっ!」


「よし、こいっ!」


勝負はあっけなくついた、見習い騎士たちは一合打ち合っただけで、ことごとくレーナの剣に沈んだのである。

フェルナンドも完全に呆然としてしまう。


「ぐう、、、さすがは姉御っす、もう少しは打ち合えるかと思ったのに、、、、」


「なに、そなたらも最初の頃に比べれば、だいぶ剣も鋭くなってきたぞ。共に鍛錬を重ね、魔王の首貰い

受けにいこうぞ」


「「「「「はいっす!」」」」」


見習い騎士たちは、すっかりレーナに心酔しきっている。短期間でよくぞ調きょ、、、もとい指導したものだ。

元々第三部隊でも落ちこぼれで、騎士団でもそろそろクビにしようかと検討していた矢先、心を入れ替えた

彼らの面倒をレーナにまかせることにしたのだ。


「あの、、、今姉上、魔王の首をもらいに行くとかなんとか、、、」


「はあ、あいつ魔王のことを知ったら、目を輝かせてな、、、絶対倒しにいくって聞かねえんだよ。あん時の

レーナの顔な、まるで恋する乙女の表情だったぜ、、、、」


「・・・・・・・・・」


とうとうフェルナンドも無言になってしまった。近いうちに現れるであろうこの世界の魔王も気の毒だ。なぜ

なら、まさか恋い焦がれるように魔王の首を獲りにくる者など、普通はいないからだ、、、、


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