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第68話 パープートリオ、町中華に舌鼓をうつ


「そうか、地球と日本はそんな状態になっているのか・・・・」


ドラコ達より2099年の地球の様子を聞いたレーナやレノン、エリスはいずれも暗い表情になってしまった。

温暖化による環境の激変は農作物にも大きな影響を与え、少ない耕作地をめぐって中国やインドなど人口

の多い地域では、内戦状態になっているそうだ。


「まだ、私達がいた頃はそこまでひどくはなっていなかったんだけどねえ・・・・」


「日本の人口も、そこまで減ってしまったのですか」


すでに20世紀末から少子高齢化が進行していた日本、現在の人口は約7千万と21世紀初頭の半分

近くまで減ってしまった。地球の将来に悲観的な見方が増えてきたことも、それに拍車をかけていた。


「だがな、日本政府は決断したぞ。来年、つまり2100年の3月をもってフェアリーアイズに国土ごと転移

することになったんだ」


「何、本当か! それは」


「とうとう、ティワナさんの研究が実る時がやってきたのですね」


2010年代より密かに異世界交流を続けてきた日本、やっと国土ごと転移できる技術が可能になったのだ。

ただし、事前に発表すると他の国の妨害や干渉が予想されるため、ある日何らかの自然現象で突然地球

から消える、という筋書きを描いている。その後は日本に取り残された外国人や海外在住の日本人のため、

転移から10年間は人の行き来ができる程度の通路を残すそうだ。


「ねえ、在日米軍の装備とかは大丈夫なの」


「アメリカも本国が内戦寸前の状態だからな。今は全部引き上げたよ」


あちらも穀倉地帯をめぐって緊迫した状況が続いているらしい。


「ところで、ティワナのやつは息災なのか。あやつ、私が息を引き取る時泣きじゃくっていたからなあ・・・・」


レーナが前世、実の妹のように可愛がっていた魔導師の現在を尋ねる。ここツーロンに転生した様子は

なく、その後どうなったか心配していたのだ。


「ティワナか、あいつ去年から寝たきり状態になってなあ、今は特養に入っているよ」


「ティワナさんやイザベルさんのお子さんやお孫さんが代わる代わる介護しているから、心配はいりませんよ」


「妾も時々お見舞いに行ってるのじゃ」


彼らの返事にレーナは再び涙ぐんでしまった。


「そうか、そうか・・・・すまぬが皆、日本に戻ったら次の生ではまた一緒に楽しく過ごそうぞ、と伝えては

くれぬか」


「ああ、いいぜ、あいつも喜ぶだろう」


しんみりした空気を打ち破るように、レノンがドラコに声をかける。


「ところで召喚したばかりのところ悪いんだけど、取り急ぎ半チャンラーメンと餃子2人前作ってくれるかしら」

私達の分は明日以降でいからさ」


「まあ、年明けの営業用に仕込んでいたから大丈夫だけど、誰に食わすんだ」


「いえ、ドラコさん達の召喚許可の見返りが、それなのよ・・・・」


レノンはそう言って女神ルーシャスが描かれた壁画に目を向ける。それも見てドラコ達も納得の表情だ。


「ああ、この世界の神様か・・・・」


「確かに、すぐ作ってお供えしないとまずいですねえ・・・・」


「ん~、あの女神さま良枝おばちゃんにソックリなのじゃ」


「「「「「「しっ!」」」」」」


触れてはいけないことに触れてしまったニールを、窘めるレーナ達だった・・・・


「はい、半チャンラーメンと餃子二人前、お待ち!」


「ありがとうドラコさん、セバスさーん、できたわよー」


レノンが呼ぶと同時に、女神ルーシャスの使徒であるセバスが姿を現した。


「はい、注文通りの品ね。容器と岡持ちは後で返却してくださいね」


「ええ、確かに承りました。ルーシャス様も首を長くしてお待ちでしたので、さぞかしお喜びになられること

でしょう」


そうして、ダンディーな執事のセバスは岡持ちを持って姿を消した。ちなみにドラコ達が神聖法国に滞在中、

彼はしばしば女神のお使いとして出前持ちをやらされることになる。


『ふおおおおおおっ! 一体なんだ! この森羅万象を表現したかのような妙なるスープの味は!』


『シャイン様、メンが縮れていたのはこのスープをよりからめるための工夫であったのですなあ』


「この餃子から溢れる肉汁もたまりませんわあ、もうリネイグレイス様以外で初めていっちゃいそうよお!」


「猊下、このチャーハンなるもの、普通油で炒めたらベッチャリなるはずなのに、なんでこんなにはらりとした

食感なのですか。ああっ! もうスプーンを持つ手が止まりませんぞ!」


翌日、初めて宝来軒の料理を口にしたツーロンの面々はもう興奮状態だ。一方、レーナ達は久々の懐かしい

味に無言状態だった。レノンなどは赤い星のラガーを飲みながら餃子をつまみ、滂沱の涙を流している。

もちろんレーナとエリスも涙ぐみながら、ひたすら箸を進めていた。


「ほら、こいつはサービスだ」


「おおっ! これはああああっ!」


「これもラガーに良く合うのよねえ」


ドラコが持ってきた大皿をみて、レーナが興奮した声を上げる。これはチャーシューが乾かないよう包んで

いたキャベツを細かく刻んで、チャーシューやメンマの切れ端と中華スープで炒めた賄いメニューだ。前世

のレーナ達は店の手伝いをした時、よくゴチになっていたのである。こうして、日本の誇る町中華の味に

舌鼓をうった彼女たち、”我が生涯に一片の悔いなし”な表情であったそうな。


「あなたたちも、この味をよく覚えていてね。次は皆さんがこれを作れるようになってちょうだい。それが

女神ルーシャス様の願いでもあらせられます」


「「「「「はい、教皇猊下」」」」」


この場にはツーロンの料理人たちも参加していた。皆これが平民の料理かと目を丸くしていたのだ。彼ら

はその後2か月に渡る厳しい修業の末、ドラコのOKをもらいこの世界でも町中華の味を広めていくことに

なる。


「ドラコさん本当にありがとう。おかげでこの世界でも半チャンラーメンが味わえるわ」


「ティワナにも私は元気でやっていると、よろしく伝えてくれ」


そして、固辞するドラコたちに多額の報酬を渡し、日本への帰還の魔法陣を起動させる日がやってきた。

ニールなどは泣きながらレーナ達に、日本に一緒に行こうと嘆願するのだった。


「ニールよ、我らは日本ではすでにこの世にいない者だ。さすがにこれ以上のことは世界にどんな影響を

与えるかわからんからな、わかってくれるか」


「うん、グス・・・お姉ちゃんたちも元気でね・・・・」


こうして、光とともに彼らは日本に帰還した。その後、宝来軒の居間に法衣姿や鎧姿、古代ギリシャの巫女

のような格好をした女性と一緒に写った写真が、大事に飾られることになる。


「・・・・さてと、ところでレーナ、次はどのお店にしようかしら」


「そうだな、ほら、前に川越で食べたうなぎ屋美味しかっただろう。あそこはどうだ」


「わたくしは上野の蕎麦屋さんがいいですわ。あそこのソバの香りは今でも忘れられませんの」


「うーん・・・・どっちも日本酒に良く合う店よねえ。どうしようかしら・・・・」


「げ、猊下、まさかまた召喚を」


『こやつら、食に対する執念が凄まじすぎるぞ』


早速、日本から別の飲食店を召喚しようと企てるパープートリオに、戦慄するシャイン達だった・・・・


閑話休題


さて、その後日本は2100年4月1日をもって、地球から異世界フェアリーアイズへと転移(夜逃げ)した。

それからの地球の歴史を簡単に記す。


2110年4月、日本を地球をつないでいた通路が閉鎖される


2128年6月、穀倉地帯をめぐり内戦状態にあったアメリカは、戦術核による応酬に発展、北米大陸の

耕作地は放射能により汚染される


2136年2月、崩壊したアメリカに代わり世界の覇権を争っていたロシアと中国の対立は、ついに第三次

世界大戦の引きがねを引いた。その後戦略核の撃ち合いにより1か月で全人類の8割が死亡した。


2172年8月、核兵器の影響で温暖化は加速、ついに地球は摂氏100度に達し海は蒸発した。


2194年12月、地球に最後まで残っていたコロニーが壊滅、地球の文明、そして生命の歴史が幕を

閉じる。


・・・・そうして、かつて宇宙に浮かぶ青い宝石のようだった地球は、太陽系が寿命を迎えるまで熱風の

荒れ狂う死の星と化した。


22世紀どころか自分の生きてる間にそうなりそうな気がする・・・・

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