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第63話 教皇、休肝日を設定される


「うう、頭が、頭が割れるように痛い、、、、」


『まだ胃がムカムカする、、、、』


『黄色い液が出てきたわ、、、、』


翌朝、オーガやシャイン、四竜たちはノロノロと布団の中から這い出てきた。いずれも完全な二日酔い

状態だ。


「そなたら、レノンの酒勝負なぞに付き合うからだ。あやつと酒で張り合うなど、自殺行為以外の何物でも

ないぞ」


『レーナよ、、、そなたはいついなくなったのだ』


レノンの暴走を止めようともせず、さっさとお隠れになった英雄騎士にシャインが恨みがましい視線を向ける

が、レーナはそっと目を逸らすだけだった。


「皆さん、今日の朝食は雑炊ですよ」


ジュウゾウの妻であるハルカがそう声をかける。夕べ飲み過ぎた連中の胃を気遣って、キングボアの出汁

と少量の醤油で味付けした野菜雑炊が用意されていた。


『これは、、、飲んだ後にはちょうどいいな』


『胃が回復していくようだ』


シャインや四竜はもちろん、神聖法国の面々にもこの雑炊は好評だった。


「はいっ! おかわりくださーい」


「ええ、たくさんありますからいくらでもどうぞ」


レノンはあれだけ飲んだにもかかわらず、朝から食欲旺盛だ。ハルカも苦笑しながら彼女のお椀に雑炊の

お代わりをよそっている。


『レーナ、あの教皇ピンピンしているが、彼女は本当に人族なのか、、、、』


「シャインよ、酒に関してはあやつは人外だ。もう二度と酒飲み勝負など挑むでないぞ」


レーナの忠告に首を縦に振るシャインと四竜たち、しかし、レノンは更に彼らの想像を超える行動を起こして

しまうのだった。


「んー、やっぱり寝起きのお酒がないとね~」


別のお椀にどこからか取り出したコメシュをなみなみと注ぐレノン、さすがのレーナやドラゴン、オーガ達も

お口あんぐりの状態だ。だが、ここに彼女の前に立ちはだかる勇者が存在したのである。


「教皇猊下、朝から酒とはなんですか! あなたは神聖法国のみならず、人族の代表としてこの里に訪問

されているのですぞ。その自覚をお持ちください!」


「ええーゼノアさん、朝寝朝酒朝湯は基本でしょ」


ゼノアの叱責にも小原庄助さんな言葉でぶーたれるレノン、ため息をついた彼は断罪を下す。


「いいですか教皇猊下、昨夜女神ルーシャス様より私に神託が下ったのです。”明日はあの子にお酒を

一滴たりとも飲ませないでね。もしこれを破ったら天罰を与えます”と」


「そ、そんな、おかー、、、、いえ、ルーシャス様が私に禁酒しろなんてえぇぇぇぇぇっ!」


レノンはorz姿勢になって慟哭する。それをレーナ達は完全に呆れた表情で眺めていた。”おいおい、、、

禁酒じゃなくて休肝日にしろ、ということだろ”と・・・・


「うう、、、お酒、お酒をちょうだい、、、、」


昼間は何とか我慢してシラフでいたレノンだったが、夕食の時間になりとうとう我慢ができなくなってきた

ようだ。すでに人族とオーガ一族との交流ルールは昨日策定されており、本日はオーガ達と親睦を深める

ため狩りに同行する予定となっていた。レノンは獲物をつまみに一杯を楽しみにしていたのだが、女神様

より今日は飲むなと厳命され、ついに禁断症状を起こし始めてきたのである。


「あああ、天井からゴキブリが、、、、」


「やめんかあぁぁぁぁぁぁぁっっ!」


ついに幻覚症状まで出始めたレノン、レーナの叫びがオーガの里にこだまする。


「お酒、お酒さえあれば、これは治まるのよ。お願いゼノアさん、一杯だけ、一杯だけでいいからコメシュを

わたくしに恵んでちょうだい」


「うーん、、、まあ一杯だけなら、、、」


本当に苦しそうなレノンの表情に、ついゼノアも同情して酒を出してしまいそうになったその時、前世から

レノンのことをよーく知っているレーナが待ったをかけた。


「お待ちくださいゼノア枢機卿殿、こやつの言う一杯は”バケツ一杯”とかですからな。情に流されては

いけませぬぞ」


「お、おほほほ、何を言い出すの騎士レーナ、そんなバケツ一杯とかタライ一杯とかあるわけないじゃないの」


「教皇猊下、、、タライ一杯とはどういうことですかな、、、、」


視線を泳がせながら言い訳するレノンに、ゼノアはまるで生ゴミか汚物でも見るような目を向ける。こうして

昨夜とはうって変わり、使節一行は穏やかな夜を過ごすことができたのであった。


・・・・そして草木も眠る丑三つ時、オーガの里もすっかり静まり返っていた。だが、その里を一つの怪しい

影が蠢いていた。


「うふふ、”酒のない、国に行きたし二日酔い、また三日目に帰りたくなる”ってね。さあ、コメシュちゃんが

私を待ってるわあ~」


皆が寝静まった夜中、密かにコメシュを堪能しようと部屋を抜け出たレノンの姿があった。なんか前世でも

同じようなことをしていたような気がするが、今世では彼女は”聖気”を操れるスキルを手に入れている。


「レーナも結界張っていたけれど、そんなものこの私の聖気には通用しないわよ」


それだけではない、寝室には聖気を練って作った自分のダミーを身代わりに置いておくという周到さだ。

こうまでして酒を飲みたいのかと、普通の人々は思うだろうが、酒呑みというのはホントに、リアルで意地

汚いのである。


「ああ、、、お酒、やっとお酒を飲める時がきたのね」


涙ぐみながら貯蔵庫にあるコメシュをすくって口に運ぼうとするレノン、だが、そんな彼女の行為は背後

からの声に止められてしまう。


「そこまでだレノン、良枝かー、、、いやルーシャス様の言いつけを破る気か!」


「教皇猊下、さすがにこれは見逃すわけにはいきませんぞ!」


それは、怒りと呆れの入り混じった表情になったレーナとゼノアであった。


「な、なぜ、、、聖気で結界もすり抜けたはずなのに!」


「あのなあ、、、そなたが我慢できず夜中にこっそり酒を飲もうとすることなぞ、お見通しだったのだ。だから

ゼノア枢機卿殿とずっと見張っていたという訳だ」


「そうです教皇猊下、さあ、おとなしく寝室へとお戻りください」


しかし、酒に関しては諦めが悪いのも酒飲みの特徴である。レノンはその膨大な聖気をもって、自分と

レーナ達の間に強固な結界を張り巡らした。


「ちっ! 邪魔が入ったけどもうこれで私を阻むものはなーい!」


「おいレノンやめろ!」


「そうです猊下、天罰が下りますぞ!」


だが、すでに聞く耳を持たないレノンは樽の中からドンブリでコメシュをすくい、己の口に持っていく。


「ああ、、、とうとうコメシュちゃんが我が口に、、、あべしっ!」


その酒はレノンの口に入ることはなかった。なぜなら、まるで昭和のド○フのコントの如く、突然天井から

落ちてきた金ダライが”ゴン”という音とともに彼女の脳天を直撃したから・・・・


「な、なんですかこれは一体!」


「ふむ、ゼノア枢機卿殿、どうやら女神ルーシャス様の天罰が下ったようですね・・・・」


金ダライを調べたレーナがそう呟く。なぜかその金ダライにはホームセンターの値札が貼られていたの

だった・・・・


「う、う~ん、、、まだタンコブが引っ込まないわあ・・・・」


「自業自得だレノン、ルーシャス様の言いつけに逆らうから痛い目に遭うのだぞ」


「わかったわよ、、、もうおかー、、、いえ、ルーシャス様には逆らわないわ、、、」


あの後、気を失ったレノンはそのまま寝室に戻され朝を迎えた。そして今朝は全員酒の抜けた清々しい

表情で、朝食の席についたのである。


「まあレノン、今日の朝食は”懐かしいもの”が出るからな。楽しみにしていろよ」


「懐かしいって、、、あら、これ完全に和食じゃないの」


お膳にはご飯に味噌汁、漬物、川魚の塩焼きと日本と変わらない料理が並んでいた。中でも彼女たちが

転生してから初めてお目にかかる食材も含まれていたのである。ちなみにドラゴンやレノン以外の神聖

法国の面々は、それを見て顔をしかめてしまう。


「な、なんですかこれは一体、、、、」


『これ、、、、腐っているのではないか』


「ああ、食べ慣れないのでしたら、お残しいただいてもかまいませんよ」


それは、日本人ならお馴染みの食べ物、”納豆”だった。


「あら、これはスーパーの納豆よりずいぶん美味しいですわねえ」


「ワラに入れて発酵しているからな」


オーガの里の納豆は昔ながらのわらつと入り、現在の日本では高級品に属するものだ。一般的な発泡

スチロール製にくらべ匂いも抑えられ、わらの風味も香ばしい。


「ほら、そなたらも食わず嫌いはせずに、まずは一口食べてみよ」


『むっ、レーナがそう言うなら、、、、』


そう恐る恐る納豆を口にするシャイン達、顔をしかめる者、美味そうにぱくつく者と様々な反応だ。もちろん

前世日本暮らしの長いレーナとエリスは、それはそれは美味そうに納豆ごはんを口に運ぶ。


「どうだレノン、この前きた時もこれを馳走になったのだ。懐かしい味だろう。日本では毎朝のように食卓

に出ていたから、、、おい、一体どうしたのだ!]


「レノンお姉さま、まさか今世では納豆がお嫌いに、、、」


納豆ごはんを口にしたレノンは、滂沱の涙を流していたのだ。


「いや、違うのよ、、、美味しい、納豆美味しいよお、、、、」


この時、レーナとエリスは久々の納豆の味にレノンが感動したのかと思っていた。だがそれは違う。彼女は

懐かしの味を口にして、その脳裏にかつて愛しい家族と過ごした想い出が蘇ってきたのだった。


「ううう、、、日本に帰りたい、、、おとーさん、おかーさん、聡に会いたいよう・・・・」


「レノン・・・・」


泣きじゃくるレノンのことを、レーナとエリスは悲しい表情で見守るしかなかった。今のレノンは人族で絶対

の権威を誇る教皇でも、やり手の政治家でもなく、もう会うことのできない家族を想うただの女性だった。


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