第59話 令嬢、再びSPを命じられる
『ぜい、はあ、、、』
『やっと1日が終わったのか、、、』
プリエール王国王都直轄騎士団の訓練場、初日の訓練を終えた神竜シャインとその眷属たちが、人化した
状態で横たわっている。まさに死屍累々といった有様だ。
「まあ、初日ならこんなものだろう。今日は部屋に戻ってゆっくり休むといいぞ」
そうドラゴン達に声をかけるレーナ、だが彼女はまだ部屋に戻ろうとしない。
『レーナよ、部屋に戻らぬのか』
「ああ、シャインたちの指導に時間をとられたからな。2時間ばかし自主トレ、、、訓練をしていくぞ」
その言葉にドラゴンたちは目を丸くする。あれだけ体を動かしておいて、まだ訓練を続ける体力があるの
かと。しかし、それはレーナだけではなかったことに彼らは驚愕するのだ。
「ああ、それならオレらも付き合いますよ」
「部屋に戻っても、やることないっスもんねえ」
「そうか、では隊長、あと2時間訓練場を使用させていただきますので」
「わかった、あんまり遅くなるんじゃねえぞ」
そのやり取りを横で聞いていたシャインは、驚いた表情でレーナに話しかける。
『なあ、、、そなたらはまだ訓練を続ける気なのか。よくそんな体力があるな』
「まあ最初はちょっと動いただけでゼイハア言っていたが、今は全然問題ないぞ」
『そうか、ならば我らももう少し訓練を、、、』
「ダメだっ!」
シャイン達にもドラゴンとしての意地がある。人族より先に休んでたまるかと延長訓練をしようと口にしたの
だが、それはレーナの厳しい言葉に遮られた。
「そなたらはまだ基礎体力がついておらん。今無理をしたら体に取り返しのつかない障害が残る可能性が
あるぞ!」
「そうっスよ、オレらもそうだったんですが、焦りは禁物っスよ。今日はゆっくり体を休ませてくださいっス」
『『『『『・・・・ッ!』』』』』
こうして、ドラゴンの意地と誇りをバッキバキに折られた彼らは、翌日からひたすら鍛錬に打ち込むので
あった。そんな日々が1か月ほど続く。その間レーナは非番の日には実家に帰ったりと普段と変わらない
生活を過ごしていた。そしてある日、レーナとシャイン達は王城への呼び出しを受ける。
「騎士レーナ、それにシャイン殿、実は教皇猊下直々にそなたらに依頼が入ったのだ」
「どのようなご依頼でございますか」
「ああ、来月猊下は聖女様とともに、カノパス精霊王国をご訪問される。その際そなたより報告のあった
神魔の森に住まうオーガ一族とも友好関係を築きたいとおっしゃられてな、その時の護衛を頼みたいと
いうことなのだ」
「はい、承知いたしました」
神魔の森は強力な魔物がウヨウヨといる地域だ。神聖法国の騎士団だけでは心もとないため、英雄騎士
であるレーナに白羽の矢が立てられたのだ。
「・・・・と、いうのは表向きの理由でな」
「ほう、、、別に理由が」
「”久々に一緒に温泉とグルメ旅行楽しみましょ”とのことだ・・・・」
何だか更に疲れが増したような表情のカルスとは対照的に、レーナは久々の、今世では初めての温泉
旅行にとってもウキウキした笑顔であった。翌週、レーナとシャイン達、そして従者のテスラ14世と魔狼
ルーディは、これまで天敵扱いされてきたルーシャス神聖法国へと、足を踏み入れたのである。
「騎士レーナ、それに神竜でおわせられるシャイン様、その眷属の皆様方、神聖法国へようこそ。この教皇
レノン、心より歓迎いたします」
聖都シャノンの女神神殿、厳かな雰囲気の広間にて法衣に身を包んだレノンが、レーナ一行を歓迎する
言葉を述べる。
「教皇猊下、このレーナ偉大なる創造の女神ルーシャス様の加護を持ちまして、此度の行幸誠心誠意
護衛を勤めること誓います」
「当代の英雄騎士の言葉、このレノン力強く思いますよ。プリエール王国からの旅路の疲れ、しばしここで
癒してくださいね」
レノンのその言葉を合図にしたかのように、周囲の枢機卿たちや近衛騎士がゾロゾロと退室していく。後に
残されたのはレノンとエリス、レーナ一行であった。
「久しぶりねえレーナ、ささ、お茶用意するからそっちに座って。あ、シャインさんもご一緒にどうぞ」
『『『『『はあ!』』』』』
いきなり雰囲気の変わったレノンに、シャイン達は鳩が豆鉄砲喰らったような表情になってしまう。
「ははは、戸惑うのも無理はないか。これがレノンの本当の顔だ。まあみんなもよろしくな」
「そーよ、さっきは公式の場だったからねえ。ようかんも用意してあるから遠慮しないでね」
『いや、、、事前に前世義理の姉妹とは聞いていたが、あまりにもギャップが、、、』
お口あんぐりのシャイン達をよそに、レーナとレノンは久々の再会を喜び合っている。
「それじゃあ改めて紹介するわね。私がここの教皇レノン、で、こちらが聖女の、、、て、エリスどこにいった
のかしら」
「む、そういえばいつの間にか姿が見えなくなってしまったな」
あたりをキョロキョロしながらエリスを探すレーナとレノン、そして、ルーディが困ったような表情でレーナに
話しかける。
「主よ、、、その聖女とかいうのはこの女子なのか・・・・」
見ると、お座りしているルーディの腹の下に、潜り込んだエリスがすーすーと寝息を立てていた。
「こらエリスよ、ルーディが困っているではないか。早くそこから出ぬか」
「むにゃむにゃ、、、わたくしはこのおコタで一生過ごしますわ、、、むにゃむにゃ、、、」
どうやらエリスは、ルーディをコタツと認識して熟睡してしまったようだ。
「はあ、、、また引きこもり癖が出たようねえ、、、、」
「エリス、ルーディはコタツではないぞ。早く目を覚ませ!」
エリスはレーナにルーディから引きずりだされ、ようやく目が覚めた。
「う~ん、、、せっかくぐっすり眠っていたのにぃ・・・・」
「そなた、しばらく見ない内に引きニートに拍車がかかっておるな」
「レーナお姉さま、わたくしの座右の銘は”働いたら負け”ですわ」
「・・・・・」
必殺のフレーズに、さすがのレーナも顔が引きつるのを押えきれなかった。
『レーナよ、確か聖女はその生涯を信仰に捧げるため、女神神殿に入ったと聞いておるのだが・・・・』
「シャイン、それは表向きの話だ。神殿に入れば一生ぐうたらできるからな、、、この事は外に漏らさないで
くれよ」
『わかった・・・・』
後世の歴史では、エリスはその生涯を女神ルーシャスへの信仰に捧げた真の聖女として伝えられている。
ともあれ、シャインやルーディ達と教皇レノン、聖女エリスは無事初顔合わせを済ませたのであった。




