第56話 令嬢、神竜と”魂の盟約”を結ぶ
”ほう、、、さすがに他のドラゴンとは格が違うな”
四竜はもちろんルーディやテスラ14世も神竜の前にひれ伏す中、レーナだけは彼のことを冷静な目で
観察を続けていた。
『そなた、名は何という』
「プリエール王国王都直轄騎士団所属、レーナという者だ。此度は神竜殿の住まわれる地を騒がせたこと、
お詫びしよう」
『そうか、しかし我が眷属を全て相手にして、更に圧倒するとは大した腕ではあるな』
そして神竜は満身創痍の眷属竜たちをギロリと睨む。それに思わず身をすくめる彼らだが、アースが代表
して弁明する。
『恐れながらこの人族の女は、神竜様に対して無礼極まりない頼みごとをしに参った次第でございます。
どうか、今一度汚名挽回の機会をお与え、、、」
『この馬鹿者どもがあっ!』
アースの弁明は神竜の一喝に遮られた。それにアースは完全に地面にひれ伏してしまった。
『この人族、レーナといったか、まだ全力は出しておらなかったのだぞ。それでさえ苦戦していた貴様らが、
再び挑んで勝てると思うたかっ!』
『は、ははー、平に、平にお許しを』
四竜たちは一斉に神竜に対して許しを乞うた。一方、ルーディとテスラ14世はあの激しい戦いでさえも、
レーナがまだ全力を出していなかったことに驚きを隠せない。
「そう言えばレーナ様、”命までは奪わないように”と先ほどおっしゃられていましたねえ、、、」
「全くだ、主の力は底知れないな」
そして、神竜は改めてレーナに向き直る。
『それにしても、ずいぶんと珍しい魂を持っておるな、、、別世界の記憶か』
「さすがだな神竜殿、その事を一目で見抜いたのはそなたが初めてだぞ」
ほぼ神と同等と言われるだけのことはあり、神竜は即座にレーナが前世の記憶持ちだということを看破
したのである。
『まあ、とりあえず話だけは聞いてやろう。中に入るがよい』
神竜が腕を一振りすると、険しい岩だらけの山塊が揺らぎ、代わりに神聖法国の女神神殿をも上回る壮麗
な建物が姿を現した。それは、全てが水晶で出来た美しい宮殿だった。
『神竜さま、、、水晶宮に人族を入れるなど、、、、』
『アースよ、貴様は私の判断に異を唱える気か』
未だ不満気な四竜であったが、神竜の判断には逆らえない。彼らは渋々レーナ一行とともに水晶宮に
入っていく。
『ふむ、つまりこの私と”魂の盟約”を結びたいと・・・・』
「そうだ、彼らは神竜殿を馬代わりにするとか勘違いしていたようだが、それは誤解だ。これは対等な盟約、
約定を違えることがあればその者には死が与えられる。心より信頼のおける相手でなくては結べぬものだ」
『そうか・・・・』
レーナの話を聞いた神竜はしばし黙考する。そして、その返答はレーナの期待とは真逆のものだった。
『残念ながら、その頼みを聞くことはできぬな』
「なぜだ神竜殿、せめてその理由を聞かせてはくれないか」
一拍おいてから神竜は盟約の申し出を断った理由を話し出す。ちなみに四竜やルーディ、テスラ14世は
神竜相手に問答を繰り広げるレーナにもう冷や汗が止まらない。神竜が怒り出せば、もうこの世にそれを
止めることができる者は存在しないからだ。
『レーナよ、確かにそなたは強大な力を持っている。だが、それはあくまでもこの私を除いて、ということだ。
己よりも力のない者を相手に、対等の盟約は結べぬ。そういうことだ』
「ほう、私の力は神竜殿に及ばぬと、、、ならば、この私の全身全霊の力、認めてもらえれば盟約を結んで
くれるということでよいのか」
普通ならこの時点で引き下がるところだが、レーナは諦めが悪かった。彼女の言葉を聞いた神竜はその
目を細める。
『レーナとやら、”神”に戦いを挑む気か、それは勇気ではない、”蛮勇”というものだ』
『お、おい、あの小娘神竜様にケンカを吹っかける気か!』
『神竜様は、私達なぞ足元にも及ばない力をお持ちなのよ・・・・』
「主よ、さすがにそれは無謀というものだぞ!」
四竜やルーディ達も、神にケンカを売る気満々のレーナにもう呆然とした状態だ。しかし、頭に血の上った
彼女はもうどうにも止まらない。
「ふむ、ならば我が全力、ここでお披露目しよう!」
レーナは日本刀を顕現させ、それにマナエネルギーをまとわりつかせる。四竜との戦いでも使わなかった
必殺技だ。しかし、彼女は気づいていない。
『お、おいっ! この中でそんな技使うでないぞ!』
「あっ、しまっ、、、、」
この場所は屋外ではない、水晶宮の中であるということを・・・・
『う、うわあああああっ! 水晶宮が崩れるぞおおおおっ!』
『逃げろおおおおおおっ!』
次の瞬間、デイジーカッター並みの威力を持つマナエネルギーが炸裂し、轟音とともに壮麗な水晶宮は
無残にもガラガラと音を立てて崩れ落ちた。四竜やルーディ達はその中を、悲鳴を上げて逃げ惑う。正に
阿鼻叫喚の地獄絵が現出してしまったのである。
「ふう、ひどい目にあった。さすがに死ぬかと思ったぞ」
完全に崩壊した水晶宮、そのガレキの中からレーナがゲホゲホとむせながら姿を現した。しかし、彼女の
背後には、、、、
『ひどい目にあったとは、この私のセリフなのだがな、、、、』
輝く白銀がウソのように煤け、怒りのオーラをその身に纏わせる神竜が佇んでいたのである。
『なあレーナとやら、盟約を結べと勝手に押し掛け、断わられたら水晶宮を破壊するとは、、、、貴様、私に
何の恨みがあってこんなことをしでかしたのだ』
「あ、あうう、、、、」
そう、契約を結べと押し掛け断われたら相手の自宅を完全破壊する、レーナが前世暮らした日本なら、
間違いなくブタ箱行きな事案である。いや、この世界ツーロンにおいてもそれは立派な”犯罪”だ。そして、
返答に窮したレーナは更に悪手を重ねてしまう。彼女は片手のこぶしを頭に当て、小首を傾げ片目をつぶり、
ペロっと舌を出した。いわゆる”テヘペロ”のポーズである。その瞬間、
”ぶっちぃぃぃぃぃぃんんんんっ!!”
という何かが切れる音が、ツーロン中に響き渡ったという。
『おのれええええええっ! 貴様だけは絶対に許さん! 冥府に行けえええええええっ!』
「わあああああっ! 私が悪かった! 謝るから落ちついてくれえええええっ!」
『謝ってすむと思ってんのかおんどりゃあああああああっ!』
神竜の四竜たちとは比較にならぬ強大なブレスがレーナを襲う。しかし彼女は天性の勘でその山脈を
吹き飛ばす攻撃を避け続けた。さすがの彼女も自分が悪いことを自覚しているので、反撃はせずただ
逃げまどうだけだ。この追いかけっこは昼夜をまたいで続けられた、、、、、
「た、大変です教皇猊下、各国の魔力観測所から異常なほど大きいマナエネルギー反応が観測されたと
報告が上がっております!」
同じころ、ルーシャス神聖法国聖都シャノンの女神神殿では、異常事態に慌てふためいたゼノア枢機卿
が教皇レノンと聖女エリスの元に飛び込んできた。
「ゼノアさん落ち着いて。その反応一体どこから発生したかわかってるの」
「は、はい、どうやら神竜が住まうと言い伝えのある、果ての山脈で発生しているようです」
その言葉を聞いたレノンとエリスは顔を見合わせ、ため息をついた。
「うーん、、、、きっとそれ、レーナが何かやらかしたんじゃないかしら」
「そうですねえ、勢い余って神竜さんのおうち、吹き飛ばしちゃったとか、、、、」
さすがは前世から付き合いの長い彼女達、レーナのやらかしはお見通しなのであった。
「まあ、レーナなら何とかするでしょうから、心配は、、、きゃあっ! ゼノアさん大丈夫なの!」
レノンやエリスとは違い、耐性のないゼノアはあまりの事態に口から泡を吹いて卒倒してしまったのだ。
「う、う~ん、、、もう世界は終わり、終わりだあ、、、ルーシャス様、哀れな我らにお救いを、、、」
「ゼノアさんしっかりして! エリス、早くお医者様呼んできてちょうだい!」
「はい、レノンお姉さま!」
こうして、世界を震撼させた異常事態は三日間続いたのである。
「はあ、はあ、、、、もう動けん、、、、」
『おのれ、しぶといヤツめええええええっ!』
三日三晩追いかけっこを続けたレーナと神竜は、さすがに息も絶え絶えの状態であった。ブレスにより
山脈は完全に地形が変わってしまっている。
「・・・・どうだ、そなたの全力の攻撃をしのぎ切った私と、盟約を結ばんか」
この期に及んでなお、レーナは盟約の話を神竜に持ちかけた。さすが諦めの悪さは天下一品である。
『わかった、その盟約とやら、結んでやろう』
「えっ、本当なのか」
予想外のOKにレーナの声は一オクターブ高くなる。
『ああ、ここで断わっても貴様、また盟約を結べとやってくるだろう。もうこんな追いかけっこはこりごりだ』
その時の神竜は、しつこいセールスに根負けして意に沿わない契約をしてしまったような表情であったと
いう。ともあれ、レーナは神竜と魂の盟約を結ぶことに成功したのであった・・・・
クーリングオフは効くのだろうか・・・・




