第53話 令嬢、神魔の森を踏破する
「これを人族が一人で狩っただと!」
「にわかには、信じられんな・・・・」
首を切り落とされたキングボアと呼ばれる巨大イノシシを見て、オーガ達があ然とした表情になっている。
さすがに怪力なオーガといえど、これをジュウゾウ一人で運ぶのは無理なので、彼は一旦里に戻って
応援を頼んだのだ。
「いや、レーナさんはオレが苦戦したマルチヘッドスネークもあっさり倒したんだ。こいつを一人で狩ったのも
間違いない事実だぞ」
「ジュウゾウよお、、、でもやっぱり信じられねえよ。あんな華奢な人族の女が、キングボアを狩るなんてよう」
そうしてレーナに懐疑の目を向けるオーガの男達、だがレーナは意にも介せず喜々としてイノシシの解体を
手伝っていた。
「ふふ、今の聞いたかルーディ、やはり私はか弱い乙女に見えるのだな。全く隊長たちときたら、、、、」
「主よ、我を倒す者が”か弱い乙女”だというのか、、、、」
「ルーディさん、そういうことにしておかないと、後が怖いですよ・・・・」
以前レーナを”メスゴリラ”呼ばわりして、えらい目にあったテスラ14世がそう忠告する。そんなこんなで
解体も完了し、大量のお肉を手土産にレーナ一行はオーガの里に向かったのである。
「これは田んぼだな、、、米も栽培しているのか」
「そうだよ、前にエルフ達から教えてもらったんだ」
彼らオーガの一族は、大昔人族に追われてこの神魔の森に逃げ込んだらしい。その時、陰ながら支援して
くれたのがエルフやドワーフ、獣人の一族だったという。
「レーナさんの前で悪いが、人族は自分たちが一番優れている種族だと思い込んでいるからなあ、、、」
「だが、今の教皇はそんな偏見はないからな。種族差別は野蛮な考えだとお触れをだしておるぞ」
「ええっ、さすがにそれは信じられないぞ。あの神聖教がそんなことを、、、」
「いや本当のことだ。近々に魔族も正式に国を興すことになってな。そことも友好関係を築いていく方針
なのだ」
レーナの言葉に真祖バンパイアであるテスラ14世も”その通りです”と証言し、ジュウゾウは半信半疑
ながらも人族が変わりつつあつことを信じるにいたった。そして、里の中でもとりわけ大きな屋敷の前に
到着する。ちなみに里の建物は、昔の日本の茅葺き屋根の農家そっくりだ。サイズだけはオーガの体格
に合わせて大きくなっている。
「レーナさん、長老がお待ちです。おっと、ここからは履物を、、、あれ、なんで脱ぐのがわかったんだ、、、」
ジュウゾウが首をひねるが、前世日本で生活してたレーナには常識だ。逆に土足で上がろうとしたテスラ
14世が注意されるハメになってしまった。なおルーディはさすがに入れないので、外でお留守番だ。
「いい匂いだな。畳替えしたばかりなのか」
「なんで人族が、タタミのこと知ってるんだ、、、、」
レーナとジュウゾウはそんな会話を交わしながら、長老の待ついろりのある部屋についた。
「レーナ殿、此度はジュウゾウ一家の危機をお救いいただいたこと、このイッサ長老としてお礼申し上げる」
「イッサ殿、このレーナ騎士として当然のことをしたまでのこと、どうかお顔を上げていただきたい」
お互いあいさつを交わした後は、里の鎮守の広場でレーナ達へのお礼の宴会が開かれることとなった。
もちろんメインディッシュはレーナが仕留めたキングボアのシシ鍋である。彼女はもちろんルーディやテスラ
14世もハフハフと舌鼓を打っていた。
「レーナさん、コメシュは飲まないのかい」
「いや、私は酒が弱くてな、、、、」
前世のアルコール耐性の低さを、レーナは今世も引き継いでいた。日本酒に似たコメシュを一口飲んだ
彼女は、もう真っ赤な顔になっていた。
「以前酔っぱらった時、攻撃魔法を撃ちまくってえらい怒られたことがあってな、、、、」
「う、うんそうか、、、レーナさんもうこれ以上飲まない方がいいなっ!」
前世の黒歴史を遠い目で話すレーナ、ファイヤランスの威力を目の当りにしてるジュウゾウは、代わりに
お茶を勧めたのであった・・・・
「おおっ! これは大物が獲れたぞ!」
「レーナさん、、、これ本当に食べられるのか・・・・」
大物を前にヨダレが止まらないレーナと、懐疑的なジュウゾウ、彼女が仕留めたのは全長20mほどの
巨大な”イカ”、この森ではグラウンドクラーケンと呼ばれている強力な魔物である。
「もちろん食べられるぞ。おわっ、これはすごい甘いな。上等のヤリイカみたいだ」
「お、おい、、、生で大丈夫なのか」
早速イカ刺しにして味見するレーナに、ジュウゾウはその目を丸くしている。”しばらくゆっくりしてもらって
かまわない”との長老の言葉に甘え、一行はオーガの里に逗留しているのであった。
「ははは、本当にこの森は食材の宝庫だな。次はレノンやエリスも誘ってピクニックにくるか」
「レーナさん、、、ここピクニックにくるような森じゃないんだが、、、、」
「ジュウゾウよ、主はこういう人間だ。まあ慣れてくれ」
この話を聞いたレノンはオーガとも友好関係を結ぶべく、自ら里に赴いた。もちろん真の目的は懐かしい
日本の味とコメシュである。
「コイツは生はもちろん、日干しにしても風味が増すからな」
レーナはオーガ達に日本のスルメの知識を伝えた。後にこのスルメは里の特産品として各地で好評を得た
のだが、これはまた別の話である。
「ジュウゾウよ、世話になったな」
「レーナさん、道中気を付けてくれよ」
「また、いつでも遊びに来てくださいね」
オーガ一族とすっかり仲良くなったレーナは、里で1週間ほどまったり骨休みをしてから旅を再開した。
もちろん味噌、醤油もたっぷりと補充している。道中またまたグルメ旅を楽しんだ一行は、ついに神魔の
森を踏破した。
「主よ、あれが神竜が住むと言い伝えられている山脈だ。本当に行く気なのか」
「無論だルーディ、いよいよ夢をかなえる時がきたぞ」
「はは、レーナ様らしいですな」
ついにレーナは神竜の元へと辿りついた。もうすっかり竜騎士になった気分の彼女、だがレーナは知らない、
これから竜の試練が待ち受けているということに・・・・




