第52話 令嬢、オーガ親子のピンチを救う
「キシャアアアアアアッ!」
「くそっ、ハルカ、早くソウタを連れて逃げろ!」
「あんたごめん、もう足が、、、、」
声のする方に向かったレーナ達が見たものは、首が八つある巨大な蛇の魔物と、それからおそらく家族を
守ろうとして斧を振るう大男の姿だった。子供を抱きしめているハルカと呼ばれた女性は、足にケガをして
いるようでこの場所から動けないようだ。そして、彼らは人族とは異なる容姿であったのだ。
「むっ、彼らは頭にツノがあるな、、、、”鬼”なのか」
「主よ、彼らはこの森の中心部に住まうオーガだな」
確かに男性は身長3mほどの巨体、女性も2m以上はありそうだ。しかし、女性と子供をかばいながら戦って
いる男性は、次第に魔物に押され不利な体勢になってゆく。
「あの蛇はヤマタノオロチなのか」
「それは知らんが、あいつはマルチヘッドスネークだ。かなり強力な魔物だぞ」
「あんたお願い! 私を置いて逃げて!」
「ばかやろう! お前らを置いて逃げるなんてできるかよ!」
そしてついに、男の体勢が崩れた隙をついて頭の一つが女性と子供に襲いかかる。
「しまった、ハルカあああああっ!」
男が叫ぶがもう遅かった。女性と子供は大口を開けた蛇に喰らいつかれる寸前だ。彼女は子供をギュッと
固く抱きしめて目をつぶる。だが、予想していた激痛はやってこなかった。
「あ、あれ、、、」
目を開けた彼女が見たものは、斬り落とされた蛇の頭と剣を手にする人族の女騎士だった。
「そなたら、ケガはないか」
「え、ええ、、、」
女性と子供の危機を見たレーナは、瞬時に飛び出して頭を斬り落としたのである。
「日本刀を使うまでもないな。ルーディ、こいつは食えるのか」
「いや、猛毒があるからダメだな」
「そうか、じゃあ灰にしてしまおうか」
レーナに続いて現れた魔狼ルーディに、オーガ達はポカーンとした表情だ。彼らも人族の存在は知っている。
なぜ人族がこの蛇よりも強大な魔狼と親しげに会話し、しかも自分達を助けてくれたのか理解できなかった
のだ。
「キシャアアアアアアッ!」
手傷を負わされて激高したマルチヘッドスネーク、今度はその牙をレーナに向けた。だが、彼女はその一撃
をかわすとまたもやあっさりと襲いかかる首を唐竹割りにしてしまう。
「ギエエエエエッ!」
「す、すごい、、、あの魔物をあんな簡単に、、、、」
「そこのオーガよ、我が主ならあんなもの相手にならんよ」
レーナとの実力差を悟ったマルチヘッドスネークは、形成不利と見てこの場を逃げ出そうとした。だが、そんな
簡単に見逃すレーナではない。
「グギャアアアアアアッ!」
「おいおい、戦場で敵に背を向けるとは、自殺行為だぞ」
レーナの放ったファイヤランスの直撃を受け、彼は爆散してしまったのである。更にまだピクピクと蠢く首も
一つずつ燃やされ、完全に灰と化したのだ。
「あ、あんた一体何者だ、、、」
「むっ、私はプリエール王国王都直轄騎士団所属、レーナという者だが」
「いや、、、、なんで人族がオレ達を助けるんだ」
「そなたはそこな女性と子供、、、おそらく妻子だと思うが、彼女達を助けるために戦っていたのだろう。
だから加勢したまでのことだが」
オーガの男性が何を言っているのかイマイチ理解できず、首をひねるレーナ。だが、オーガ達からすれば
人族が自分達を敵視することはあれども、助けることなどないのが常識だったので、レーナの手助けは
驚きであったのだ。
「そこなオーガよ、我が主はこういう人物だ。まああんまり深く考えるでないぞ」
「は、はあ、、、、あなたはよく見れば魔狼ルーディ様、、、この森の最強の一角であるあなたが、なぜ人族
と一緒に行動を」
「ははは、実は森に入った主に挑んで負けてしまってな。こうして忠誠を誓っているという訳だ」
「ええええええっ!」
ルーディの言葉に目を丸くするオーガの男性、そんな彼にハルカがたしなめるような言葉をかける。
「あんた、そんな事より危ないところを助けてくれたレーナさんに、お礼言わなくちゃいけないでしょ」
「あ、そうだな、、、すまんレーナさん、おかげでオレも家族も危ないところを助かった。オレはジュウゾウと
いう者だ。あんたは命の恩人だ」
「気にするな、困っている者を助けるのが騎士の役目だからな。じゃあ家まで気をつけろよ」
ヒラヒラと手を振って立ち去ろうとするレーナを、ジュウゾウは慌てて呼び止める。
「レーナさんちょっと待ってくれ。命を救われて何のお礼も無しでは、一族の沽券にかかわるんだ。もう遅いし
粗末なところだが、せめて今夜はウチに泊まっていってくれないか」
「そうですレーナさん、人族のような豪華な食事は無理ですが、精一杯おもてなしさせて頂きますから」
「主よ、確かに今日はもう日も暮れる。ここは彼らの好意に甘えることとしようではないか」
ジュウゾウやハルカ、ルーディの言葉に少し考え込むレーナ、結局彼らのご招待を受けることに決めた。
「そういえばさっきイノシシを仕留めたからな。そいつを手土産に持っていくか。ジュウゾウよ、すまぬが
解体と輸送を手伝ってもらえないか」
「いや、別にかまわないが、、、そんなに大きなイノシシなのか」
そう小首を傾げるジュウゾウだったが、巨大イノシシを見て仰天してしまった。
「こ、これはキングボア! レーナさん、一体どうやって仕留めたんだ」
「いや、突進してきたのを避けて、こう首をスパーンと、、、、」
「そんな簡単に、、、、これ、一族総がかりでないと狩れない獲物だぞ」
どこか遠くを見るような目で、ボソボソと呟くジュウゾウ、ハルカから”ほら、もうあんた遅くなるから”と
せかされ、解体を手伝うのであった。
「ところで、そなたらはこれをどういう風に料理するのだ」
「ああ、大体野菜と一緒に鍋ものにするんだ。味付けは各々(おのおの)の家によって、味噌仕立てと醤油仕立て
に分かれるんだが、ウチは醤油派だなあ」
「むっ、そなたらの里には醤油、味噌があるのか!」
ジュウゾウの言葉に、レーナはもちろんルーディやテスラ14世の目がキラーンと光ったのであった・・・・




