第51話 令嬢、神魔の森で危機に陥る
さて、レーナ達が神魔の森でグルメ旅行を満喫しているころ、ルーシャス神聖法国聖都シャノンの女神
神殿では、今日も教皇レノンの説法が行われていた。
「それでは、最後に聖女エリス様より偉大なる女神、ルーシャス様の忠実な御子たちに祝福を!」
レノンの言葉を合図にエリスが両手を広げると、ダイヤモンドダストのようなキラキラした物体が集まった
群衆に降り注ぐ。その神秘的な光景に信者たちはひざまづき両手を握りしめ、神の御業に涙するのであった。
「はいエリスごくろーさん、今日も信者の皆さん感動していたわよ」
「はあ、でもレノンお姉さま、アレただの紙吹雪みたいなものでしょう、、、、あんなものでみんな涙まで
流していたけど、何の効果もないですからね・・・・」
「いーのいーの、こういうのは気分的なものだから、まあ一種のプラシーボ効果みたいなものよ」
前世の記憶を取り戻したレノンは、説法の場に地球のロックコンサートの演出効果を取り入れ、集まる
信者たちの興奮を煽っていたのである。
「教皇猊下、お守りの売上ですが、今月はすでに前の月を1割ほど上回っておりますよ」
「そうなのゼノアさん、来月はいよいよ小麦の作付けも始まるから、豊作祈願のお守りも発売しましょうか。
あ、もちろん期間限定でね」
「はい、全ては女神ルーシャス様のご意志のままに」
説法の演出だけではなく、日本ではお馴染みのお守りもこの世界で初めて販売を開始した。”学業成就”、
”無病息災”、”家内安全”など各種取り揃えている。しかも気休め程度の日本のお守りとは違い、レノンや
エリスの聖気が込められており、よりありがたさを増している。もちろん参拝客には好評で、飛ぶように
売れている。正に”坊主丸儲け”の典型だ。
「おかげで、辺境の教区長からも孤児院の運営がずいぶん助かっていると、感謝の言葉が多数上げられて
おりますな」
「これまでは、3食満足に出せなかった所もあるって聞いてたからねえ、、、良かったわ」
まあ、ごく一部を除けば神聖教の教会はどこも赤字経営だ。単に寄付をしてくれといっても、よほどの篤志家
でもない限り財布の紐は渋るものだ。そこでレノンは霊験あらたかなお守りを販売して、その売上を孤児院や
貧困地域の衛生状況改善などに回しているのである。
「ところで、動物園の件だけど」
「こちらも予定通り、来月の1日に開園で進めております」
更にレノンは女神神殿の近くに、この世界初の動物園を開園させ参拝客にお金を落としてもらう計画を立てて
いた。当然目玉は四天王デルザー改め子パンダのシァンシァンである。
「うふふ、パンダグッズも発売すれば、より売上げも見込めるわね~」
彼女は地球の動物園同様、入園料だけでなくグッズやおみやげ類の販売構想も練っていた。これもこの
世界では初めての企画である。こうしてレノンは、前世の知識をフル活用してビジネスに邁進していたのだった。
「そう言えば、レーナお姉さま出発されてからもう2か月ですねえ、、、」
「今頃はもう、神魔の森に入り込んでいるわよね」
ゼノアとの打ち合わせも終わり、レノンとエリスはお茶を飲みながらまったりと過ごしている。話題は神竜に
会いに行くと言って旅立ったレーナのことだ。
「まあ、レーナお姉さまなら神魔の森もどうって言うことないでしょうね」
「そうねえ、あの子がピンチになる所なんて、想像できないわ、、、、あっ、おかーさんとおとーさんは別ね」
「そうですよねえ。あのお二人以外にレーナお姉さまが敵わないモノなんて、想像もできませんね。うふふ、
お姉さまが帰還した時の武勇伝が楽しみですわ」
ちなみにテスラ14世にはエリスやポーラ達から、”レーナ様の一挙一動をくまなく記録するように”、との
厳命が下されている。その理由はもちろん”レーナ様を讃える会”の会報の記事にするためだ。
「ねえエリス、、、あの会まだ続いているのかしら、、、、」
「ええ、ポーラさんたちも本当はレーナお姉さまに付いて行きたかったようなんですが、”それやったらもう
そなたらとは、二度と口はきかぬぞ”と言われてしまいまして、泣く泣くあきらめたそうですわ」
「その子達なんか、神聖教の信者より狂信的ね・・・・」
そう呆れるレノン、だが、彼女達は知らない。神魔の森でレーナが最大のピンチに陥っているということを。
「レーナ様、もう、、、もうダメですっ!」
「くっ、このレーナ神魔の森を侮っていたか、、、一生の不覚!」
テスラ14世の悲痛な言葉に、レーナも悄然としてしまう。一体彼女達にどんな恐ろしい強敵が現れたと
いうのであろうか。
「主よあきらめるでないぞっ! 死中に活を見出すのだっ!」
「すまぬルーディ、、、もう私はここまでだ。短い間だったがそなたと過ごせて楽しかったぞ・・・・」
「主ぃぃぃぃぃぃっ!」
ルーディの激励も効かず、ガクッと地面に膝をつくレーナ、魔狼ルーディの叫び声が神魔の森に響き渡る。
「テスラよ、何とかならぬのか!」
「そう言われましても、、、、もう持ってきた調味料昨日で全部無くなっちゃったんですよう!」
そう、これまでグルメ旅行を満喫していたレーナ一行であったが、神魔の森は予想以上に広大だった。
森を抜ける前に持参した醤油、味噌などの調味料を、全て使い切ってしまったのである。
「ううっ、、、せっかく美味しそうなイノシシを仕留めたというのに・・・・」
嘆きの声を上げるレーナの前には、首を斬りおとされた体長10mほどのイノシシが横たわっていた。今夜
はシシ鍋だと期待したのだが、肝心要の調味料が全て底をついてしまったのだ。
「主よ、こうなったらもう贅沢は言わぬ。せめて焼くだけでもしたらどうか」
「ルーディ、そなたそれだけで本当に満足できるのか」
「・・・・・・・・・」
レーナの言葉にルーディは無言になってしまう。一度贅沢を覚えたら、人族はもちろん魔族や魔狼ももう、
以前には戻れない。これは世界を越えた理なのだ。
「もう我らは、煮ただけ焼いただけの料理では満足できぬ。すまぬなテスラ、ルーディ、私がこの森の広さ
を見誤ったばかりに・・・・」
「レーナ様、このテスラめも謝らなければなりません! 自分がもう少し調味料を担いでいればこんなこと
には・・・・」
「主よ、この我も調味料が有限なことを忘れ、鍋のお代わりを何度もおねだりしてしまった、、、我も同罪だ」
まるで冥府の底に落ち込んでしまったような表情のレーナ達、レーナは前世地球のアマ○ンのような通販
システムがあれば、と思っていた時、突如として森の中から争うような叫び声が聞こえてきた。
「むっ! なんだあの声は」
「何者かが、争っているようでございますな」
とりあえずレーナは、その声のする方に向かっていったのである。




