表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/69

第5話 令嬢、入団テストを受ける


「ふむ、レーナ嬢、なぜ騎士団に入ろうと思ったのかね」


「はい、本来ならば聖女様に危害を加えた自分は、死罪になるところでした。それを温情により身分はく奪

と大公家追放という軽い刑で済まされたのです。ならば、助けられたこの命、今度は民のために尽くそうと

考えた次第です」


ベッカーの質問によどみなく答えるレーナ、彼の眼力にも気圧されることなく、しっかりと見据えている。


”ほう、、、身分はく奪を軽い刑と言い切るか、それに先ほどの殺気、以前王城で見かけた時とはまるで

別人だな”


ベッカーも王城には警備などでしょっちゅう出向いており、その際まだ我がままなご令嬢だったレーナの

ことも何回か見かけている。当初は婚約破棄と身分はく奪に自暴自棄になって、騎士団に入るとか言い

出したのかと考えていたのだが、どうもそれとは違うようだ。


「そうか、だが、我が騎士団はこれまで女性を入れたことはない。それに、そんな華奢な体ではとても

訓練についていけないだろう。ここは王国でも最も厳しい訓練を行っているんだ。たまに死人が出ること

もあるんだよ。悪いことは言わないから、ここはやめておきなさい」


そしてベッカーは女性だけで構成された王宮騎士団を勧めてきた。ここは王妃や姫など女性VIPを警護

する役目を担っている。だが、レーナはこれを断った。


「王都直轄騎士団が厳しいというのは承知しております。だからこそあえてここに入りたいのです。この

弛みきった体と精神を鍛え直せるのは、ここしかありません」


そしてレーナはソファから立ち上がり、床に正座して土下座した。


「どうか、せめて入団テストだけでも受けさせていただけないでしょうか。お願いいたします」


「まあまあ、顔を上げたまえ。わかった、テストはやってみよう。ただし、合格基準を緩めたりすることは

一切しないからな。それはかまわないね」


「はい、ありがとうございます」


こうして、30分後に訓練場でレーナの入団テストが行われることになったのである。


「ベッカー団長、いいんですか、、、とても剣なんか握ったように見えないんですけど」


「まあ、少し痛い目に合えばさすがにあきらめるだろ」


「しかし、あの殺気は一体なんなんですかね、、、、まるで歴戦の騎士を相手にしているような、、、」


「う~ん、、、たぶん勘違いじゃないかと思うんだけどなあ。貴族のご令嬢があんな殺気出せるはずないぞ。

ありゃ、戦場で修羅場を潜ってきたヤツだけが出せるもんだ、、、、」


そう話しながら訓練場に向かうベッカーとバスク、彼らはまだ知らない、レーナが前世、何度も死線を潜り

抜けてきた歴戦の猛者であるということを・・・・


「おいおい、、、新人のテストだと聞いてやってきたら、女じゃねえか。さすがにこれは相手できんぞ、、、」


レーナを見てそう呟くのは、彼女のテスト相手に選ばれた第一部隊隊長のルミダスだった。熊のような

体躯の大男で、もちろんその剣技も騎士団の中ではトップ5に入る腕前だ。


「まあ、大公家の紹介状もあるからな。死なない程度に痛めつけて、あきらめさせてやってくれよ」


「はあ、、、わかりました、、、」


そして彼はレーナを見て、その目を見張ってしまう。彼女は木刀を軽く素振りしていたのだが、それが昨日

今日剣を持ったものとは思えない、もう何年も鍛錬を積み重ねている者の所作だったからだ。


「いや団長、これは油断していたらこっちがやられますぜ。全力でいかせてもらいますよ」


「おいおい、、、相手は女性なんだ、顔だけは傷つけないようにしてくれよ」


「まあ、、、配慮はいたしますよ。配慮だけはね、、、、」


そう言ってルミダスはレーナに獰猛な顔を向けた。彼はベッカーやバスクとは違い平民の叩き上げだ。

身分だけを笠に着て威張り散らす貴族のことを、快く思ってはいない。これまでにも貴族の入団希望者

をテストで情け容赦なく叩きのめしてきたのだ。彼はレーナに対しても、全く手加減をするつもりはなかった。


「どれ、、、そのお綺麗な顔をぶっ潰して、、、うっ!」


レーナと対峙したルミダスは、そのまま動けなくなってしまった。なぜなら彼女の構えに全くスキがない

からだ。ヘタに打ち込めば自分が返り討ちに遭う未来しか視えなかったのである。


”な、なんだあの構えは、、、団長と同じかそれ以上、、、それにあの殺気はなんだ、、、”


「どうしたのですか教官殿、なぜ打ちこんでこられないのですか」


「ぐっ、ぐううっ、、、」


最初は面白い見世物だと思っていた騎士達も、尋常ではないこの立ち合いに息を飲んでしまっている。

それはベッカーやバスクも例外ではなかった。


「ルミダスのやつ、動けませんね、、、」


「ああ、それにあの殺気、我々の勘違いではなかったようだな、、、」


彼らも、レーナがかなりの実力者であるということを理解してしまったのだ。


「まったく、、、とんでもねえお嬢様だ。全力でいかせてもらうぜ」


「望むところです」


そしてルミダスは常人の目には止まらぬ動きで全身全霊の一撃をレーナに打ちこんだ。これまで数多くの

凶悪な野盗を屠ってきた、大岩をも断ち切る剛剣である。


「やったか! え、消えた、、、、」


だが、脳天をかち割られるかと誰もが思った瞬間、レーナはルミダスの視界から消えていた。そして彼の

脇腹に思いっきり木刀を突き立てたのである。


「か、かはっ、、、、」


いくら鍛えようが、ピンポイントで人体の弱点をつかれたルミダスはそのままもんどりうって倒れてしまう。

周囲はその光景を、凍りついたかのように見つめていることしかできなかった。


”さすがは王都直轄騎士団の隊長だ、、、まるで示現流の剣士のようであったな、、、”


一方、レーナも玉のような汗をかいていた。剣技は覚えていても、体力の方がまだまだついていかないのだ。


”これしきで、何という脆弱な体だ。本当にここで鍛え直すしかないな”


剣技のキレも、前世には遠く及ばない。レーナは何としても入団を勝ち取って、ここで鍛錬する決意を固める

のであった。だがそんな彼女に、最大の難関が立ちはだかる。


「よし、一次試験は合格だ。最終試験は私が担当させてもらうよ」


騎士団長のベッカー自ら、レーナの相手を買って出たのである。


「どうだい、いやならお引き取り願うが」


「いえ、この最終試験お受けいたします」


ここでレーナの前世の悪癖が顔をのぞかせた。強い者を見ると挑まずにはいられない、というパーサーカー

な一面だ。


「お、おい、、、今あのお嬢さん笑っていなかったか、、、」


「ああ、、、団長に相手しろなんて言われたら、オレ漏らしちゃうぜ、、、、」


周囲は固唾を飲んでこのテスト、、、いや勝負の行方を見守るしかなかった・・・・


”ふむ、、、ルミダス殿よりも数段上の剣技だな。まさかまた、このような剣士と立ち合えるとは、、、”


レーナは自分でも自覚しない内に、微笑んでしまっていたのだ。


”おいおい、このお嬢さんこの状況で笑うかね、、、こりゃ生粋の剣士だな”


ベッカーは内心でそう呟くと、戦闘モードに切り替える。手加減をして勝てる相手ではないと踏んだからだ。

最初に仕掛けたのはレーナだった。彼女の剣先が微妙にゆらっと揺れる。それはまるで、相手をダンスに

誘うような動きだった。ベッカーもついその動きに視線が行ってしまう。そして、その隙を見逃すレーナでは

なかった。直後に彼女はベッカーの首に一撃を放ったのである。


「うわっと、、、やばいやばい、、、」


「ちいっ、これならっ!」


初撃を避けられたレーナは二の太刀を繰り出そうとするが、そのわずかな合間をベッカーに狙われた。


「ぐ、うう、、、」


ベッカーの剣はレーナの腹に入り、彼女はそのまま気を失ってしまう。


「す、すまん、、、本気でやってしまった。おいっ、彼女を医療室に連れてやってくれ!」


倒れかけたレーナをベッカーは慌てて支え、医療室に運ぶよう指示を出した。


「団長、、、さすがに女性に対してアレはやりすぎですよ」


「そう言ってくれるなバスク、本気でやらなきゃ倒れてたのはオレの方だったぞ、、、、」


「ところで、テストの結果はどうします」


「もちろん合格だ。オレをあそこまで追い詰めたヤツを、他の騎士団に取られてたまるかってんだ」


レーナの騎士団での日々が、始まることとなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ