第48話 令嬢、恋のキューピッドとなる
「そうか、3日後には旅立つのか」
「はい、隊長にもずいぶんお世話になりました。しばらく不在にいたしますが、よろしくお願いします」
リシューとクレールの婚儀も無事終了した翌日、レーナは王都フラックの騎士団本部で長期休暇の事務
手続きを行なっていた。なお、式ではまだまだエリスに未練たっぷりな様子がありありだったリシューだが、
その後クレールの献身的な態度にほだされて、ツーロンでも有数のおしどり国王夫妻となっていくのだが、
これはまだ少し先の話である。
まあ、男なんてものは結構チョロイのである・・・・
「ううっ、、、姉御がいなくなっちまうなんて、、、、」
「そうです、オレらも連れていってくださいッス」
そうさめざめと泣いているのは、レーナの舎弟たちだ。まるで今生の別れのような雰囲気の彼らにレーナも
苦笑している。
「おいおい、たった半年不在にするだけだ。別に永遠にいなくなるわけじゃないし、騎士団もやめないの
だから、そんな辛気臭い顔つきになるんじゃないぞ」
「うう、、、だって、だってえぇ・・・・」
レーナの言葉を聞いて、なおもグズグズと泣き続ける舎弟たち、ベッカーやバスクなどは彼女の慕われ
振りに感心した表情だ。
「まあ、不在の間の鍛錬はリーク殿に頼んであるからな。私がいないからといって手は抜くでないぞ」
「「「「「はいっス!」」」」」
魔王討伐後、生き残った魔族たちは魔界に自分達の国を新たに建国することになった。もちろん人族とも
これまでのしがらみを捨て、友好関係を築いていく方針だ。魔族は全て殲滅すべきとの強硬意見もあったが、
レノンがそれを拒否しプリエールやラングレーなどの大国もそれに賛同、1年後を目標に魔族の国づくりが
始まったのである。
「レーナ殿、彼らの鍛錬はしっかり見てる故、ご安心なされい」
魔国の初代国王は、元四天王のメデューサが即位することになった。現在彼女は国の運営のイロハを
学ぶため、プリエール王国に滞在中なのであった。そのためリークも護衛として一緒に来ており、王都直轄
騎士団で臨時講師も務めている最中だ。
「あ、リ~ク~、お弁当持ってきたわよ~」
そんな時、やけに甘ったるい声を出しながら当のメデューサが本部にやってきた。彼女は手の空いている時、
こうして手作りのお弁当をリークに届けにきているのだった。
「メデューサ様、前にも申し上げましたが、あなたは魔国の初代女王となられる御方、家臣に対しこのような
心遣いは不要ですぞ」
「で、でも、、、私、リークに喜んでもらいたくて・・・・」
しかし、リークはメデューサの今の振る舞いは女王としてふさわしくないと、苦言を呈する。それに彼女は
悲しそうな表情になってしまう。
「なあレーナ、リーク殿まさかメデューサの嬢ちゃんの好意に気が付いてない、なんてことはねえよなあ」
「いえ隊長、それはさすがに気づいているでしょう。ただリーク殿のことです。自分はあくまでも家臣であると、
その身をわきまえすぎているのでしょう」
「そうか、でも何だかあの嬢ちゃんが不憫でならねえなあ、、、、」
もちろんリークもここまで好意を示されて気が付かないほど鈍感ではない。レーナの言う通り、自分は家臣
でありメデューサの横に並び立つ存在ではないと、昔気質の彼は頑なな態度をとっていたのだ。
「なあ、何とかならないもんかなあ・・・・」
「う~む、でも、リーク殿は良くも悪くも騎士道を貫いていますから、、、そうだっ! これならうまくいくかも!」
その時、またまたレーナの脳内に天啓のごとく、(ろくでもない)アイデアが浮かんでしまったのである。
「レーナ、、、これスタック部隊長の時失敗したヤツじゃないか。本当に大丈夫なんだろうな」
「ええ、あの時はブラッド宰相というイレギュラーが発生してしまいましたからね。今回は団長にも話を通して
あるし、成功間違いなしですよ」
レーナの策とは、以前スタックがベッカーに仕掛けて無残に失敗した”裸エプロン”を、性懲りもなく今度は
リークに対して行おうというものだ。前回の反省を生かし、騎士団全体でバックアップすることで不確定要素
を潰し、性交、、、もとい成功率を上げようという目論見である。この話を聞いたベッカーも渋い顔をしたが、
リークにすげなくされてしょんぼりしているメデューサに同情していたこともあり、作戦に協力することになった。
「いいですかメデューサ殿、できるだけ甘ったるい声で言うのですよ」
「う、うんわかったわレーナさん、”おかえりなさ~いリ~ク~、お風呂とお食事どちらにします。それとも
ワ・タ・シ”よね」
騎士団本部の小会議室、普段は幹部クラスの打ち合わせに使われている部屋なのだが、今夜はテーブル
には料理が並べられ、なぜかダブルベッドまで運び込まれている。そして、レーナと裸エプロン姿のメデューサ
が獲物の来るのを、今か今かと待ち構えているのであった。
「ベッカ-団長、このような時間に打ち合わせとは何ですかな」
「ええリーク殿、火薬兵器への対処についてレーナ君から提案がありまして」
「なるほど、、、、あれは凄まじい威力でしたからなあ」
リークも魔王討伐戦で火薬兵器の威力は目の当りにしており、ベッカーの言をあっさりと信じてしまう。
こうして、哀れな獲物は蜘蛛の巣に絡め取られてしまったのである・・・・
「遅くなりましたレーナ殿、、、えっ!」
リークがドアを開けると、いきなり飛び出たレーナが彼を部屋の中に押し入れ自分は外に出て、ドアを閉める。
「レーナ殿、一体何を!」
そう抗議するリークだったが、目の前に現れた裸エプロン姿のメデューサを見て、思わず手に抱えていた
自分の頭を取り落としてしまった。
「おかえりなさ~いリ~ク~、お風呂とお食事どちらにします。それともワ・タ・シにする?」
「はあっ!」
想定外の事態に一瞬動揺したリークだが、さすがは元英雄騎士である。すぐに気を取り直しメデューサに
厳しい視線を投げかける。
「え、ええ、、、どうしたのリーク、私にむしゃぶりついてこないの」
「何がむしゃぶりつかないの、ですか! 魔国の女王になろうというお方が、何破廉恥な格好をしているの
ですか!」
「うう、、だってえ、、、、」
リークの叱責に俯くメデューサ、一方、スタックの術式で室内の様子を伺っているレーナ達も、気が気で
ないような状況だ。
「ちょっとレーナちゃん、リークさん何だか激怒してるわよ。これまずいんじゃないの」
「えっ、、、そんなはずは・・・・」
「レーナ君、リーク殿は本物の騎士だ。色仕掛けは返って逆効果だったんじゃないか」
さすがのレーナも、顔からさあっと血の気が引いた表情になってしまう。しかし、そこに救いの手が差し伸べ
られる。リークに叱責されたメデューサの目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ始めたのだ。それを見た
リークも言い過ぎたことに気がついた。
「も、申し訳ございませんメデューサ様、家臣の分際で無礼な言葉を、平にご容赦を」
だが、メデューサの嗚咽は止まらない。リークは眷属となってからの800年間で、彼女が初めて見せた
弱々しい姿にオロオロしてしまう。
「申し訳ございません、、、主君を悲しませた大罪、この命をもって・・・・」
「ダメっ!」
自害を口にするリークに、メデューサはそう叫んで抱きついた。
「私には、私には、、、リークしかいないの! もうそんなこと言わないで!」
「メデューサ様・・・・」
そして、彼女は800年間の思いのたけをリークにぶちまける。
「私はあなたを蘇らせた時から、もうあなたに心奪われていたの! お願いリーク、私と一緒になって!
あなたがいなければ、私は魔国の女王なんて務まらないわ。私はあなたがいるからレーナさんに負けた
時、生き恥を晒しても生き抜こうと思えたのよ!」
そうして、メデューサはリークの胸に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくる。そんな彼女をリークは慈愛に
満ちた表情で見つめていた。
「メデューサ様、、、私の態度がそこまで主を追いつめていたとは、はは、、、家臣失格ですな」
「うう、リーク、リークぅ、、、、」
「申し訳ございません、私もこれまで800年間、自分の心を偽っておりました」
「えっ、それじゃあ・・・・」
リークの言葉に、メデューサははっと顔を上げる。
「はい、私も初めてお会いした時からメデューサ様、あなたに心奪われていたのです」
「リ、リー、、、、」
彼女の言葉は途中で遮られた。なぜなら、リークの唇が彼女の唇に合わせられたからだ。室外で様子を
伺っていたレーナ達も、ほっとした表情になった。
「やれやれ、一時はどうなることかと思っていたが・・・・」
「レーナちゃん、今回はさすがにヤバかったわよ」
「は、ははは、、、まあ終わり良ければ全て良し、ということで・・・・」
そう目を泳がせるパープー騎士に嘆息しながら、これ以上の様子見は野暮と全員その場を去っていった。
翌日、小会議室で情熱的な一夜を過ごしただろう二人は、周囲にこれ以上ないほどの幸せオーラを振り
巻くのであるが、それはまた別の話である。




