第47話 令嬢、魔王討伐の褒賞を賜る
「わかりました、、、ルーシャス様にはお二人が真摯な姿勢で過ごされていると、お伝えしておきましょう」
「おおっ! 神様仏様セバス様、このレーナ心より感謝いたします」
「セバス様には、教皇レノンの名において最大限の感謝と祝福を!」
セバスの言葉にレーナとレノンのパープーコンビは、喜びの涙を流しながら感謝の意を表明する。特に
先ほどまで彼に剣を向けていたレーナの豹変ぶりは、見事の一言であった。
「やれやれ、これで一安心だな」
「そうねー、転生してまで木に吊るされるのさすがにいやだからね」
「教皇猊下、それに騎士レーナ、お二人の態度が”木に吊るす”の一言で変わったような気がするのですが、
一体何があったのですか」
ほっとした表情でみんなの所に戻ってきたレーナとレノンに、そうゼノアが疑問を呈する。
「ゼノア枢機卿様、何をおっしゃられているのですか。このレーナ偉大なる女神ルーシャス様の思し召しに
より魔王に勝利できたこと、心より感謝しているのですよ」
「そうです、全てはルーシャス様の加護があってのこと、さあ、皆でこの勝利を偉大なる女神に捧げよう
ではありませんか!」
「はあ、そうですか・・・・」
顔に営業スマイルを貼り付けて白々しいセリフを口にする彼女達に、ゼノアはそれ以上何も言うことは
なかったのである。そして魔王討伐を果した連合軍は、民の歓呼に迎えられながら聖都シャノンへと
帰還した。
「これより、魔王討伐という試練を乗り越えた勇者たちへの、褒賞授与を行います。全ては偉大なる女神
ルーシャス様の思し召しによるもの、御子らは謹んでそれをお受け取りになること願います」
神聖教の総本山である女神神殿では、魔王討伐の褒賞授与が教皇レノンにより執り行われていた。最初
に名前を呼ばれたのは聖女エリスである。
「聖女エリスよ。そなたの浄化により連合軍は大いなる力と勇気を得ることができました。さて、その褒賞
に何を望みますか」
「はい、私はこの神聖法国にて、女神ルーシャス様と共に信仰の道を歩みたいと存じます」
「わかりました。富も名声も望まずただただ信仰の道を望まれたこと、さすがはルーシャス様の神託に選ば
れし聖女です。教皇レノンの名において、その願い聞き届けましょう」
「おおっ、女神ルーシャス様の御慈悲にこのエリス、心より感謝いたします」
このやり取りにカルスやブラッド始め、プリエール王国の面々は”えっ!?”という表情だ。なぜならそれは、
聖女が王国を離れることを意味するからである。とりわけ、褒賞にエリスとの結婚を密かに願っていたリシュー
はまるで、この世の終わりのような表情になっていた。
”殿下も最近ヤンデレストーカーと化してきましたからね。さっさとばっくれるのが得策ですわ”
もちろん、エリスにそんな殊勝な心がけがあるわけはない。最近ストーカーへと変貌しつつあるリシューから
逃げるのが本当の目的だ。更に女神神殿に引きこもってしまえば、もう余計なことに関わらなくてもすむ。
エリスはこうして目出度く引きこもりニートの生活を手に入れることができたのである。
「さて、次にグランツ王国の・・・・」
そうこうしている間にも、授与の儀は滞りなく進んでゆく。功績に応じた褒賞が発表されていく中、今度は
プリエール王国の番となった。
「さて、リシュー殿下にはさる国より婚姻の申し込みが届いておりますが、いかがでしょうか」
「えっ! 一体どこの国からですか」
「はい、ラングレー王国からですよ」
想定外の出来事に、リシューはもちろんカルス達も驚いた表情だ。レノンは更に説明を続ける。
「ダミド陛下の姪御さんがちょうど殿下と同年代なのですよ。これまで何かと諍いの絶えなかった両国の
絆を深めるためにも、この婚姻は有意義なものではないでしょうか」
「で、でも、、、いきなりおっしゃられても心の準備が・・・・」
なおも渋るリシュー、内心ではエリスへの未練たらたらなのだ。だが、そんな彼の本心を見透かしていて
いるレノンはトドメの言葉を放つ。
「殿下、貴国とラングレー王国の諍いには偉大なる女神、ルーシャス様も悲しまれているのですよ。なぜ、
御子同士で争わねばいけないのかと。賢明な殿下なら、この婚姻の意義理解して頂けますね」
「はい、この婚儀謹んでお受けいたします・・・・」
さすがに女神の名を出されては、リシューもこれ以上抵抗することはできない。彼は渋々この婚姻を受け
入れることにしたのだった。
「リシュー殿下、我が姪のクレールは身内のひいき目を抜きにしても、才ある者ですからな。きっと貴国の
お役に立つものと思いますぞ」
「は、ははは、、、、ダミド陛下、わかりました」
満面の笑顔なダミドに対し、乾いた笑いを漏らすリシュー、だが、ダミドの言葉通り後に輿入れした彼女は
本当に優秀で、ツーロンではラングレー王国だけが導入していた義務教育をプリエール王国でも実現させ、
王国の発展に大いに貢献するのだが、それはまた、別の話である。
「最後に、魔王バルダックを討伐した当代の英雄騎士レーナ、そなたは何を望みますか」
「はい、ならばしばしの休暇を与えて頂ければと存じます」
「休暇ですか、それだけで良いのですか」
「はい、それで十分にてございます」
金でも爵位でも王族との婚姻でもなく、ただの休暇を願い出たレーナに周囲からどよめきが起きる。魔王
を討伐した彼女を自国に取り込みたい、という国は実は結構多いのだ。
「騎士レーナ、そなたの功績はツーロンの歴史に永久に刻まれるもの、その褒賞が本当に休暇だけで
良いのですか」
「教皇猊下、これより自分は夢の実現に向かいます。なので、その期間さえ与えて頂ければ満足です」
「わかりました。その願い教皇レノンの名において聞き届けましょう。プリエール王国は騎士レーナに対し、
望みの期間の休暇を与えるように、これは女神ルーシャス様のご意志であられます」
これはプリエール王国も了承し、レーナには半年間の休暇が与えられた。ただこの後もリシューの婚姻
など重要な行事が続くため、それが落ち着いた後という条件付きではある。
「ほう、あの方がクレール殿下か、ずいぶん利発そうな女性だな」
「ええ、さすがダミド陛下の姪御さん、という感じですわね」
リシューとダミドの姪であるクレールとの婚儀の日、初めて彼女を見たレーナとエリスはそう評価していた。
怜悧な美貌の持ち主である彼女は、地球のキャリアウーマンに似たような雰囲気を醸し出していたのである。
「リシュー・ド・プリエール、クレール・ハル・ラングレー、両名は女神ルーシャス様に永遠の愛を誓いますか」
「はい、誓います」
「誓います・・・・」
「よろしい、ここに両名の婚姻が成されたこと、この教皇レノンがルーシャス様の名の元に認めます。では、
誓いのキスを」
カルスやダミドなど両国や各国の要人が出席する中、リシューとクレールの結婚式は無事終わった。
「でも、自分が言うのも何ですが、リシュー殿下まだこの結婚に乗り気ではないようですねえ・・・・」
「う~む、、、まだそなたに未練が残っているようだな」
「うえっ! どこまでストーカーなんですか」
エリスは結婚式でリシューとクレールに聖女としての祝福を与えた後、レノンに付いてそそくさと王国を
後にするのであった。同時にレーナも、夢の実現に向かって旅立つことになる。




