第43話 令嬢、魔王城に突入する
「そ、そんなバカな、、、死霊軍団を退けた上、あのリークまで倒されただと、、、、」
諜報担当セバスの報告を受け、凍りつく魔王城の広間。魔獣軍団に続いて死霊軍団、それを率いる元
英雄騎士のリークまで破れるなど、さすがのバルダックも予想外だったのだ。しかも2つの魔王軍主力と
闘いながら、人族の被害はほんのわずかである。少なくとも半分は削れると思っていたのだ。
「ねえウソでしょセバス、お願いウソだと言って! リークが負けるなんてウソでしょう!」
「メデューサ殿、残念ながら彼は騎士レーナとの一騎打ちに敗れたのを私の”目”が確認しております。
彼女の剣技はリークを上回る凄まじいものでした」
「そんな、あ、ああ、リーク、リークううううっ!」
セバスの無情な報告に、メデューサは崩れ落ち号泣してしまう。
「許さない、、、絶対許さないわよレーナ、貴様はこの私が石にしてやるわ!」
彼女はその魔眼を憎悪に染め、復讐を誓うのであった。しかし、主力を失った彼らに破滅の音が響いて
くる。
「なんだ、この音は!」
「バルダック様、人族の攻撃が始まったようです」
それは城門から聞こえてきた。過去勇者パーティを苦しめてきた魔王城の鉄壁の守りを誇る城門、それが
今回は脆くも崩れ去ろうとしていた。剣と魔法の世界に初めて登場した火薬兵器の洗礼を、彼らもその身
で受けることになったのだ。
「目標、魔王城城門、撃ていっ!」
レノンの指揮により、魔王城の約2km先から5門の大砲が火を噴いた。堅固な城壁も砲弾には耐えられず、
見る見る内に魔人兵を巻き込んで崩れていく。それにラングレー軍のロケット攻撃も追い打ちをかけた。
大砲よりも命中精度は劣るが、あてずっぽうに発射されたロケットは城内に飛び込み爆発を起こし、被害を
拡大させてゆく。
「なんだアレはっ! 魔法で強化してある城壁を打ち破るとは!」
もともと城壁の防護能力は投石器やバリスタを想定していたものだ。それを遥かに上回る火薬兵器の攻撃
を防ぐことはできない。
「人族め、あんなオモチャでいい気になりおって! セバス、リザードマン部隊を突撃させろ!」
「御意に」
魔王軍は、鎧並みの強靭なウロコに覆われ腕力に優れるリザードマンによって、人族の新兵器を無力化
しようとした。だが、突撃する彼らの前に立ちはだかったのは、二千丁の火縄銃による銃弾の嵐だった。
「うぎゃあっ!」
「なんだ、この魔導攻撃は!」
自慢のウロコを簡単に貫く銃弾の前に、リザードマンは次々と躯と化してゆく。幸運にも弾幕を潜り抜けて
きた者を待ち受けていたのは、プリエール王国の精鋭騎士であった。
「ひいっ!」
「ぎゃあああああっ!」
「わはははっ! いくらでもかかってこいやトカゲ野郎ども!」
岩をも断ち切るルミダスの剛剣の前には、リザードマンのウロコも豆腐のようなものだ。レーナも日本刀を
使うまでもなく、普通の剣で彼らを屠っていた。
「教皇猊下、城門は完全に破壊完了です」
「よし、砲の照準を魔王城に合わせなさい。城ごとやっつけるわよ」
そう命令するレノンに異議を唱える者がいた。もちろんあのパープー騎士である。
「ちょっと待てレノン、それでは魔王と戦えないではないか! それはやめろ!」
「ふむ教皇猊下、騎士レーナにも一理ありますな。私も魔王がどのくらい強いのか、この目で確かめて
みたいのですが」
「まだ四天王も残っているだろう。そいつらとも戦いたいぞ!」
意外なことに、レーナの意見にベッカーやルミダスも賛意を示した。それにさすがのレノンも顔が引きつる
のを押えきれない。
”こ、この脳筋連中が、どこの戦闘狂なのよ!”
「レノンお姉さま、”類は友を呼ぶ”、と言いますから・・・・」
エリスの言葉にレノンは深いため息をつき、レーナ達の魔王城への突入を認めるのであった。
「まだ四天王も二人残っているからな。各自警戒は怠らないように」
そして、完全に破壊された城門を抜けたレーナ達、その前に立ち塞がる人物がいた。
「あれは、何者だ、、、」
「女のようだが、、、おい、髪の毛が蛇のようだぞ!」
憤怒の表情を見せている、メデューサだった。
「貴様ら、調子に乗るのもここまでだっ! 一人残らず石にしてくれるわっ!」
「メデューサか! 厄介なのが出てきたな」
「みんな目を合わせるな! 石にされるぞ!」
石化の術を警戒して彼女を遠巻きにする連合軍、しかし、その中からメデューサの前に進み出る者が
存在した。言うまでもなくレーナである。
「ほう、これだけの大軍を一人で相手にしようとするか。敵ながらあっぱれであるぞ」
「あんた、名前は、、、」
「プリエール王国王都直轄騎士団所属、レーナだ。貴様の勇気に応え、まずは私が相手してやろう」
レーナの名乗りにメデューサの目がまず見開かれ、そして憎悪に変わってゆく。
「貴様、、、貴様がレーナか! よくもリークを倒してくれたわね!」
「敵討ちか、いいだろう。受けて立つぞ!」
「ほざくな! 石にして粉々にしてやるわっ!」
メデューサは真正面から向かい合うレーナに石化の術を発動させた。見る見る内にレーナの体は足から
石化していった。
「あっはっはっはっ、石になる恐怖、存分に味わうがよいわっ!」
「これはさすがにまずいな、、、火銃隊、メデューサを撃て!」
「お待ちくださいダミド陛下、レーナお姉さまがただ石になるのを待つとは思えません。きっと何らかの策が
あるのではないかと思います」
石化するレーナを見て火縄銃での攻撃を指示したダミドを、エリスはそう言って押しとどめる。そして、石化
が彼女の首まで達した時・・・・
「ふんぬっ!」
気合一閃の掛け声とともに、”パリン”という音がしてレーナの体を覆っていた石がはじけ飛び、彼女は
元通りの姿となった。
「ふむ、、、やはり思った通りだな」
「な、何なの! なぜ石化の術を破れるの!」
「そんなこと決まっておろう。”気合”だ」
「ほえっ!」
予想外の答えにメデューサは妙な声を上げてしまった。事の成り行きを見守っていた連合軍の面々も、
お口あんぐりの状態である。
「聖女様、騎士レーナの策とは”気合”だったのかな・・・・」
「い、いえ、、解術の方法とか何か知っていたのかと・・・・」
そんな中、気を取り直したメデューサがレーナを睨みつける。
「あんた、気合で私の術を無効化したというの。そんな訳ないでしょ! 何をしたのか言ってごらんなさい!」
「貴様こそ何を言っているのだ。”気合があれば何でもできる”、当たり前のことではないか」
「そんな、バカなことが・・・・」
再び呆然とするメデューサ、そこにルミダスが進み出てくる。
「なあレーナ、本当に気合で石化の術を破れるのか」
「はい隊長、何なら試してみますか」
「よしわかった、おいメデューサの嬢ちゃんよ、このオレにも石化の術をかけてみてくれ」
「ちっ、なめるんじゃないわよ! 地獄で後悔しろ!」
石化の術をかけられたルミダスは足元から石化していく。だが、
「ふんがあああああっ!」
気合の一声とともに、先ほどのレーナと同じく石がはじけ飛び、ルミダスは元に戻る。石化の術は気合で
破れることが証明された瞬間だった。
「何なのあんた達! でたらめ過ぎるわよおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
魔界中に、メデューサの魂からの叫び声が響き渡った・・・・




