第42話 令嬢、デュラハンとの一騎打ちに臨む
「どうした、現在の人族には私に挑もうという騎士は存在しないのか!」
「よし、その申し出この私がまず受けようぞ!」
リークからの一騎打ちの誘いに当然のように応えたレーナ、彼も最初に女騎士が名乗り出たことに少し
驚いた様子だった。
「いいのか、決闘とあらば、例え相手が女性とはいえ容赦はせぬぞ」
「余計は気遣いは無用だ。これでもそれなりの修羅場は経験しているからな。しかし、魔族にしておくには
惜しい者よ」
レーナの方も彼が魔族にもかかわらず、騎士道を重んじる姿勢を見せていることに感心していた。ちなみに
エリスの
「いやー、パンダ優先のお姉さまよりあのデュラハンさんの方が、よっぽど騎士らしいですわ」
とのイヤミは完全にスルーである。
「リーク、リーク、、、どこかで聞いたことのある名前だわ・・・・」
「そうだ! 800年前の勇者パーティに所属していた剣士と同名じゃないか!」
一方、リークの名を聞いてレノンとゼノアは過去、同名の人物がいることを思い出した。”英雄騎士リーク”、
前回の魔王討伐の功労者だった人物だ。
「ほう、そなた勇者側の人名にあやかったのか」
「それは違うな、、、、”英雄騎士リーク”、それはこの私なのだよ」
「ん、一体どういうことだ」
レーナの疑問に、リークはこれまで人族の間で語り継がれていた魔王討伐の裏側を話し始める。
「今の人族には、800年前の魔王討伐メンバーのことはどのように記録されているのかな」
「確か、神聖教の史書では勇者と聖女は魔王と相討ち、剣士と賢者は魔王戦での傷が元で、帰還後少し
して亡くなったと、、、、」
「そうか、やはり人族の都合の良い話に改ざんされていたのだな、、、、勇者と聖女は確かに魔王と相討ち
になった。だが、剣士と賢者は魔王討伐後、その力を恐れた教皇と各国の王たちに、謀殺されたのだ」
「「「「「「っ!」」」」」」
リークの言葉に、レーナ達も絶句する。今、人族の歴史の闇が白日の下に晒されたのだ。
「あれは魔王討伐を祝う夜会でのことだ。教皇自らの杯を受け取った私と賢者は、何の疑いも持たずそれを
飲み干した。猛毒が入っているとは思いもよらずにな」
即効性の猛毒はたちまち賢者の命を奪った。しかし、多少毒に耐性のあったリークは大量の血を吐きながら
も、群がる衛兵を斬り倒し王城から脱出することに成功した。だが王都から少し離れた所でついに力尽き、
地面に倒れ伏してしまう。
「そんな時、私の目の前に現れたのがメデューサ様だったのだ」
彼女は禁術を使い、リークをデュラハンとして蘇らせた。そして、来たるべき次の魔王復活の際には、人族
滅亡に力を貸して欲しいと頼まれ、リークもそれを了承した。
「そうして、我ら魔族は闇の中にその姿を消したのだ。次こそ醜い人族どもを根絶やしにしてみせる、その
想いだけを胸に閉ってな」
リークの話を聞いていた一同は皆、沈黙してしまう。彼の話があまりにも衝撃的だったからだ。ただ一人、
あのパープー娘を除いては・・・・
「ふむ、そなたの話には同情するところもあるが、だからといって800年後の我々に恨み言を言われても
ピンとこぬぞ」
「そういや、そうよね、、、、まあ当時の教皇がそこまで悪辣だったのはショックだけれど、、、、」
レーナの言葉にレノンも追随する。なにしろ前世では数十年前どころか数百年前のことを持ち出して、
”謝罪して慰謝料払うニダ”
と千年タカる気満々の某国にうんざりしていたからだ。
「君も私と同じような目に遭うかも知れないぞ。その時、そのような言葉を口にできるのか」
「ああ、そなたの話を聞くと、デュラハンとなった時はまだその教皇や王族は健在ではなかったか。ならば、
なぜその時点で復讐しに行かなかったのだ。すでに力はあったであろう」
「だから、魔王様の復活を待って、、、、」
「そなた阿呆か、すでにそいつらは富や名声を手にして天寿を全うしてしまったではないか。もし私が同じ
目に遭ったとしたら、速攻で陥れた者達を血祭りに上げ、偽りの名声を暴いてやるところだ。魔王の復活を
待つなどそんな気の長いことは性に合わぬわ!」
800年も昔のことなぞ知るか、とぶった斬るレーナに、リークは当初あ然とし、そして大爆笑してしまう。
「は、ははは、ぶわあはははははっ! あー本当に君の言う通りだ。何でそんなことに今まで気づかなかった
んだろうな。そうだ、あいつらはすでにあの世行きだ。今さら恨み言を言っても君達にはピンとこないだろうな」
「まあ、歴史の真実は明らかになったのだ。それはあそこにいるレノンが責任を持って公開するだろうから、
せめてこれで溜飲を下げてくれ」
「ええ、、、辛い過去だけど、さすがにこれは明らかにしないといけないわね」
現教皇の言葉に、リークは微笑を浮かべる。そして改めてレーナに向き直った。
「さて、勇敢な女騎士よ、名を聞かせてもらおうか」
「プリエール王国王都直轄騎士団所属、レーナと申す、”英雄騎士”リークよ、貴殿の一騎打ちこの私が
受けようぞ」
「そなたがバルダック様に挑戦状を叩きつけた女騎士だったのか、、、一つだけ聞かせてもらいたい、なぜ
バルダック様の首を望む、富か、それとも名声が目的か」
「いや、魔王の首を手土産にして、頼みごとをしたい相手がいるからな」
「首を手土産に頼みごとだと、教皇かそれとも王族にか」
「神竜だ」
レーナの言葉にリークはその目を見開いてしまう。魔王すら子供扱いのとんでもない名が出てきたからだ。
「ははは、冗談かと思ったがその目はどうやら本気のようだな。だが、まずはこの私を乗り越えてみよ!」
「無論、そのつもりだ。手加減は無用、全力で戦おうぞ!」
レーナは日本刀を顕現させ、リークと対峙する。彼も初めて見る日本刀に思わず目を奪われてしまった。
「そんな素晴らしい剣は初めて見るな・・・・」
「かつて、命よりも名を惜しむ者たちに使われた剣だ」
「命よりも名を惜しむか、、、ふふ、私とは真逆の存在だな。感じるぞ、その言葉が偽りでないことを」
リークには見えたのだ。レーナの背後に己の信じる義のために、命を捧げた者達の幻影が・・・・
「では、ゆくぞ!」
「むっ、これは・・・・」
レーナの剣先がゆらりと振れ始める。相手を死に誘うダンスのお誘いだ。しかしリークもそう簡単には誘い
に乗ってこない。
「並みの騎士なら誘われるところだが、、、っ!」
様子見をしていたリークの心の臓に、レーナの剣先が襲いかかる。彼は間一髪でこれを避け、間合いをとる。
レーナも再び晴眼の構えをとった。その構えには全く隙が見当たらない。リークも相手がこれまで相対した
中で彼女が最強の部類に入ることを理解した。
「まさか、魔族と成り果てた身でまたこんな勝負ができようとはなあ」
「剣の勝負に魔族も人族も関係なかろう。さあ、続きを楽しもうではないか」
そう口角を上げるレーナにつられて、リークもまた笑みを浮かべる。次に先手を取ったのは彼だった。掲げた
剣をゆっくりと時計回りに回してゆく。
「くうっ!」
「ほう、これを避けたのは君が始めてだよ」
ほんの刹那剣の動きに気を取られたレーナの隙を見逃さず、リークは彼女の首に剣を突き入れる。それを
かろうじて防いだレーナ、またも2人は間合いを取る。周囲は本物の騎士の真剣勝負に固唾を飲んでいた。
「クレイよ、君が仇と思っている相手の剣は、遥か高みにあるぞ。この勝負、その目に焼き付けることだ」
「はい、陛下、、、、」
ダミドに言われるまでもなく、クレイも二人の勝負から目が離せないでいた。ようやく彼も自分の父が、
武人として純粋な勝負に臨んだことを理解したのだ。
「ふふ、君といつまでも戦っていたいがそうもいかないのでな、、、これで終わりにしよう」
「ああ、楽しい時間が過ぎるのは早いものだな」
リークの常人の目には止まらぬ一撃がレーナを襲う。彼の剣がレーナの身体に重なった。一瞬勝利を
確信したリークだが、それはぬか喜びだった。彼が斬ったのはレーナの残像であったのだ。
「なっ! しまっ!」
リークの懐に飛び込んだレーナは、下からすくい上げるように彼を斬り払う。その斬撃を剣で防ごうとした
彼であったが、日本刀はその剣ごと彼を斬り裂いたのである。よろめいたリークにレーナは止めとばかり、
心臓の部分を鎧の上から刺し貫いた。
「ぐ、ぐふ、、、見事だ、騎士レーナ、、、」
「貴殿もな、、、そなたほどの剣士と死合ったのは、会津以来だ」
レーナも肩口から血を流している。リークの一撃は後わずかで彼女を袈裟懸けに斬り裂くところだったのだ。
「まさか、剣ごと斬るとはな、、、、ニホントウとはすごい剣だ、それを生かす君の剣技も、、、、」
やがて、リークの体がサラサラと砂のように崩れていく。
「騎士レーナ、最後に君と立ち合えたこと、このリーク誇りに思うぞ・・・・」
この言葉を最後に、リークの姿は消え去った。レーナは右手を胸に当て片膝をつく竜騎士の礼をもって、
英雄騎士を見送ったのである。




