第4話 令嬢、騎士団の門を叩く
「うう、、、レーナ、元気でね、母はいつもあなたの無事を祈っておりますよ、、、」
「姉上、どうかその身を大切にお過ごしください、、、うう、、、」
大公家の門前で、レーナの母ミリアと弟のフェルナンドが涙ながらに別れを惜しんでいる。切腹の傷も癒え、
この日レーナは大公家を出ることになったのである。
「母上、フエルナンド、、、もはや自分は大公家の人間ではありませんが、皆の幸せを願っておりますぞ」
その言葉にミリアとフェルナンドはますます号泣してしまうのだった。
「しかしレーナよ、その格好はいくらなんでも、、、せめて町娘くらいの服は着たらどうか」
「はあ、、、しかしこの方が動きやすいので、、、」
ケリーはレーナの服装を見てため息をつく。今の彼女は貴族令嬢どころか平民の娘ですらも着ない服装だ。
レーナはフェルナンドのお古、つまり男装をしていたのである。
「前世でも、だいたいこんな服を着ておりましたから」
「そうか、、、ところで本当にあそこにいくつもりなのか」
「はい、大公家追放の処分を言い渡された時から、決めておりましたので」
「決意は固いようだな、、、私にできるのは紹介状を書くことくらいだ。後はレーナ次第だぞ」
「はい、重々承知しております、、、では私はこれで、今までありがとうございました」
レーナは片手を胸にあて、片膝をつく竜騎士の礼を執った。並みの騎士など及ばないその洗練された
動作に、大公家の面々も思わず見惚れてしまう。
「父上、姉上は本当に大丈夫なんでしょうか、、、」
「フェルナンド、今の礼を見たか。近衛騎士でもあそこまでの礼を執れる者はそうおらぬぞ。何の心配も
いらん。きっとうまくやるだろうよ」
「そうですか、、、、」
”今のレーナには、大公家の肩書なぞ枷でしかないのだな、、、、”
ケリーは去っていくレーナの後ろ姿を見ながら、内心でそう寂しそうに呟いたのである。
「今日お約束していたレーナと申します。騎士団長へのお取次ぎをお願いいたします」
「確かに、紹介状もあるな。今団長に連絡するのでここで待っていてくれるか」
「はい」
レーナが訪れたのは王都直轄騎士団の本部であった。ここは通常は王都の治安維持を担当し、有事の
際には王都の守りの任に就くことになっている。警察と自衛隊を兼務したような組織なのだ。そしてここは
身分に関係なく、完全な実力主義の世界だ。前世の記憶を取り戻したレーナは、まずここで自分の力を
振るおうと考えたのである。
「団長、レーナ嬢が受付でお待ちです」
「本当にやってきたのか、、、ご令嬢の気まぐれだと思っていたんだけどなあ、、、、」
そう頭をかきながら話すのは王都騎士団長のグレイス・ベッカー、その剣技は王国一、ツーロンでも有数
の使い手でもある。その容貌は精悍なイケメン、とも言うべきか。ワイルドな魅力で貴族令嬢はもちろん、
平民の娘からも人気のある男である。
「ははは、団長の外見に惹かれてきたんじゃないですか。団長外面だけはいいですからねえ」
そんな軽口を叩くのは副団長のリーメ・バスク、こちらも優男で女性の人気は高いが、実戦では情け容赦
のない鬼畜外道ぶりを見せる男だ。
「ふむ、バスク君、来月の給料半分でいいか」
「ええっ、団長それはパワハラですよう」
そんなやり取りも、二人の長い期間に培われた信頼あってこそだ。とにかく大公家の紹介もあるので、
彼らはレーナに会うだけはすることにした。
「ははは、きっと騎士団の鍛錬内容を聞いたら逃げ出すに決まってますよ、、、と、なんだこの気はっ!」
「おいっ、バスク油断するなっ! こいつは相当できるヤツだぞっ!」
突然の殺気にベッカーとバスカーは臨戦態勢に入る。そして、団長室のドアを開けたのは、、、
「初めまして、今日お約束していたレーナと申しま、、、お二人ともどうしたのですか! まさか敵がここにっ!」
気合が入り過ぎて、自分が知らず知らずの内に前世戦場仕込みの殺気を思いっきり放出していたとは、
夢にも思わないレーナであった・・・・