第38話 令嬢、獣王と対決する
「ウガアッ!」
「甘いよっ!」
ベッカーの剣が一閃し、襲いかかったライオン型の魔獣の首が飛ぶ。王都直轄騎士団はこれまで軽傷者
を出しただけで、順調に魔獣たちを屠っていく。
「あは~ん、グレイスさまあ~、もうリネイは感じまくりの濡れまくりですう、ああっ、いっくうっ!」
例によって、残念アラサーの喘ぎ声のような応援付きで。そんな彼女の背後から狼型の魔獣が迫りくる。
「ブギイィッ!」
「おい犬っころが! 人の応援邪魔すんじゃねえよっ! とっとと死んどけやオラアッ!」
魔獣は雷撃を喰らい、一瞬で消し炭となった。
「リネイ君、大丈夫だったか!」
「あんグレイスさまあ~、、、、いきなり襲われてリネイ怖かったです~」
とベッカーに甘えつつも、裏で魔獣をミンチにしたり消し炭にしているスタック。
「ねえレーナ、あの魔導師さん怖かったって言ってるけど、団長さんより魔獣殺しまくりよね・・・・」
「レノン、だからあれが師匠の通常営業だ。もう気にするんじゃない」
そんな再び楽勝ムードが漂い始めた連合軍に、新たな脅威が来襲する。
『四天王と思われる強大なマナを感知! 全軍警戒せよ!』
「おっ、敵の親玉がおいでなすったようだぞ」
ベッカーの剣技に悶絶しつつも任務は忘れていないスタックから、警報が流される。ほどなくして戦場に
巨大な三つ首の犬が現れた。
「あれは、伝説の魔犬ケルベロス!」
「うろたえるな! 火銃で撃ち殺せ!」
ダミドの指示により、ケルベルスに向けて一斉射撃が放たれる。だが、その巨体に見合わぬ俊敏さで
全ての銃弾が避けられてしまった。
「ちいっ、ならば槍で、、、うぎゃああああっ!」
「熱いいいいいっ!」
近接戦闘を挑もうとした長槍部隊は、ケルベロスの口から吐き出す炎で火ダルマと化してしまう。更に火は
ロケット兵器にも引火し、被害を拡大させてゆく。
「ふははははっ! 小賢しい下等生物どもがっ、そんなオモチャで魔王さまに勝てる夢でも見ていたかっ!」
ケルベロスの背に騎乗して高笑いをする彼こそ、獣王デルザーだった。
「貴様らの夢もここまでだ。魔王さまに逆らったことあの世で後悔するがよいわ!」
デルザーはケルベロスを高く跳躍させ、あっという間に教皇レノンの本陣へと迫っていった。トップを潰して
連合軍の戦意を削ごうという目論見だ。
「貴様がレノンか、小娘がケルベロスの餌食となれいっ!」
「レーナ君、教皇猊下をお守りするんだっ!」
だが、レノンはもちろん護衛のレーナもデルザーを前にした途端、硬直してしまった。
「ふん、我を見て恐怖で動けなくなったか、今さら命乞いなどは聞かぬぞ。さあ、生きたまま引き裂いて
くれようぞ!」
「どうしたんだ騎士レーナ! 獣王から猊下をお守りしろ!」
デルザーはもちろん皆もレノンやレーナが恐怖で動けなくなったと思い込んでいた。しかし、それは大いなる
勘違いだったのだ。
「ねえレーナ、あれって・・・・」
「ああ、この世界にも存在していとは、、、おおっ、神に感謝いたします」
デルザーは熊型の魔族だ。、その体毛は白色に四肢は黒色、そして耳と目の周りも黒色である。ぶっちゃけ
見た目は地球のジャイアントパンダにソックリだった。そう、彼女たちは恐怖に震えていたのではない。この
世界でもパンダ(型の魔族)に出会えたことに、感動していたのであった・・・・
「これは、やるしかないわね・・・・」
「ああ、まずはヤツをケルベロスから引きずり落とさねばなるまいな」
「それは私にまかしといて」
何やらコソコソと相談し出した彼女たちを見て、すでに勝利を確信したデルザーは無慈悲な言葉をかける。
「ふん、今さら命乞いの相談か。だが貴様らには残酷な死を与えるぞ!」
そう吠える彼は知らない。自分の立場が狩る者から愛玩される者に変わったことに・・・・
「命乞いなぞ誰がするか、喰らえいっ!」
レーナはファイヤアローをケルベロスに放った。だが魔犬はそれをうっとうしそうに受けただけだった。
「ふはは、そんな攻撃が地獄の番犬に効くものか、、、、と、レノンはどこだっ!」
ファイヤアローは単なる目くらましだ。その隙にレノンはケルベロスの足元に駆け寄って、
「どっせいっ!」
「グギャアアアアッ!」
前足の関節に、思いっきり金属バットのフルスイングをぶちかました。”グシャ”という嫌な音とともに関節
が砕けてしまう。
「はいもういっちょっ!」
「グギイイイイッ!」
レノンの聖気を乗せた金属バットは、もう片方の前足も砕く。ケルベロスはたまらずレノンを噛み砕こうと
した矢先、そこに日本刀を構えたレーナが迫っていた。
「まず一つ目の首だっ!」
「ゴアアアアアアアッ!」
まるで大根でも斬るかのように、ケルベロスの首が落とされる。返す刀でもう一つの首も斬り落とされ、
とうとう地獄の番犬は地に伏してしまった。
「じゃあトドメね」
「ゲエエエッ!」
最後の首にレノンが金属バットを振り降ろす。頭蓋骨が割れ脳漿が飛び散り、眼球が飛び出してきた。
なんともえげつない倒し方である。
「伝説の魔犬を、ああも簡単に倒すとは・・・・」
「騎士レーナだけじゃないね、あの教皇もとんだ食わせ物だったようだな」
あっさりケルベロスを倒した彼女たちに、ダミドはもちろん各国の兵たちも目が点になっている。だが、
これはまだほんの序の口に過ぎなかった。
「おのれえっ! まさかケルベロスを倒すとは、もう油断はせぬぞ!」
怒りに燃えたデルザーがレーナたちを睨みつける。しかし、彼女たちは動じることもなく次の手を繰り出した
のだ。
「喰らえっ! ファイヤアロー!」
「こんなものが通じるか! と、、、あれ?」
レーナの放ったファイヤアローをデルザーは軽く弾き飛ばす。だが、これは先ほどと同じ単なる目くらましだ。
その隙にレノンは素早くデルザーの背後に回り込み、
「うふふ、つーかまえたっと」
「小娘が、獣王たる我に何をするかっ! うっ」
もふり始めたのであった・・・・
「あら、獣王さんここがいいのかしら、ほれほれ」
「くっ、何をバカなことをっ! あっ、はうん、、、」
「おほほほほ、いい声で鳴くじゃないの、さあ、もっと鳴いて御覧なさい」
更には彼がレノンに気を取られている隙に、レーナが悪魔のごとき微笑みを見せてその腹部に抱きついた。
「ふふふ、思った通り素晴らしいもふもふだ。さあ、もっと気持ち良くしてやるぞ」
「なめるなこむす、、、うう、そこはあっ! あうっ、はああああんっ!」
もふもふもふもふもふもふもふもふ・・・・・・・
※注:喘いでいるのはパンダです
哀れな獣王は、体中の感じるツボを責められて悶えることしかできなかった。周囲は想定外の事態にただ
呆然としていたのだった。
「せ、聖女さま、、、教皇猊下と騎士レーナは一体何を・・・・」
「ゼノア枢機卿様、お姉さまたちは前世からの夢を実現中なのですわ。見てください。あの生き生きとした
嬉しそうなお顔を・・・・」
エリスは遠い目をして答える。その間も彼女達のもふりは続行されていた。
「ふ、ふああああっ! そこ、そこはだめえっ! あうんっ、いくっ、いくっ、いっちゃうよう!」
「あら、ずいぶん素直になってきたわね。いいわよ、いくらでもいってね」
「しょ、しょんなああっ! あううっ、そこやめてえっ!」
※再度注:喘いでいるのはパンダです
そしてついに、デルザーの脳内がバラ色に染まる時がやってきてしまった。
「あ、あう、、、もうらめ、、、」
”ドピュッ”という何かが噴き出したような音と同時に、デルザーは白目を剥き口から泡を吹いて昇天して
しまった。その直後”ボフン”という音がして周囲はもうもうとした白煙に覆われる。
「なんだこの煙は!」
「教皇猊下はご無事かっ!」
一時軽いパニック状態になる周囲、ほどなくして煙が晴れた後に現れたのは、
「キュイ」
小首を傾げる愛らしい子パンダの姿であった・・・・




