第35話 令嬢、魔王討伐に出陣する
そして、1か月が瞬く間に過ぎた。ルーシャス神聖法国聖都シャノンには、各国の精鋭部隊が続々と集結
していたのだ。その中でも火縄銃やロケット兵器を装備したラングレー王国軍と、魔王軍の先制攻撃を
退けたプリエール王国軍は討伐の主力と位置付けられている。
「いいな貴様ら! 気合だっ! 気合があれば何でもできるっ!」
「「「「「「はいっすっ! 姉御!」」」」」」
その中でもやけに賑やかな集団がいた。言うまでもなくレーナと彼女率いる舎弟たちである。
「魔王って、気合で何とかなる相手なのか、、、、」
「殿下、もう、訳がわかりませんよ、、、」
一方、その某プロレスラーのようなノリについていけないリシューとクレイは、完全に置いていかれていた。
それを目ざとく見つけたレーナは早速怒声を浴びせる。
「こらあっ! そんな辛気臭い顔つきで魔王に立ち向かえるかっ! 貴様らもこっちにきてやれいっ!」
「「ええーっ!」」
そんな二人の抗議も聞かず、レーナは彼らの首根っこをひっつかんで無理やり気合入れに加えさせる
のであった。
「では、いつもの締めでいくぞっ! それいち、にっ、さんっ!」
「「「「「「ダアーっっっっ!!」」」」」」
完全の昭和のプロレスのノリであった。その光景に緊張感溢れる周囲もなごやかな雰囲気になっている。
「全く彼女たちは、、、、これが世界の命運を賭けた戦だとわかっているんでしょうかねえ、、、、」
「ははは、まあいいじゃないですか宰相、おかげで他国の兵士たちも悲壮感が薄れているようですよ」
嘆息するブラッドに、ベッカーはそう答える。確かに、これから魔王を相手にすることでこの世の終わりの
ような顔をしていた兵士たちにも、笑顔が戻ってきているのだ。
「騎士レーナ、だいぶ気合が入っているようじゃないか」
「これはダミド陛下、まさか自らご出陣されるとは思いませんでしたが、、、」
ラングレー王国は連合軍中唯一国王自ら軍の指揮を執ることになっていた。火縄銃もグランツ王国での
ライセンス生産により、二千丁を用意していた。いくら技術に優れるドワーフとはいえ、よくぞ短期間で
揃えたものである。
「いやいや、君の活躍ぶりをぜひこの目で拝見したくてねえ、、、家臣達は猛反対したがね」
そして彼は、クレイに視線を向ける。
「ほう、1か月前とはずいぶん顔つきも変わったじゃないか。騎士レーナ、礼を言うよ」
「身に余るお言葉、ありがとうございます」
彼もスパルタ訓練のおかげで、何とかレーナの舎弟並みには腕前も上達していたのであった。
「しかし、あのご令嬢方がついてくるとは、、、国王の私が出陣するよりも驚きではないかね」
「はあ、危ないからやめろと自分も止めたのですが、全く言うことを聞いてくれなくて、、、、」
レーナとダミドの視線の先には、聖女として参加するエリスの周囲に佇んでいるポーラ達ご令嬢の面々が
勢揃いしていた。彼女達はエリスのお世話をするという名目で、討伐軍に無理やりついていくことを認め
させたのである。もちろん真の目的は
”レーナ様が魔王を討ち取る歴史的瞬間を、ぜひこの目で拝見しなければ”
というものだ。彼女達はレーナが負けるなど、微塵も考えていないらしい。もっともダミドもレーナの戦いぶり
を近くで見たいがために、家臣の反対を押し切って出陣しているので、まあどっちもどっちである。
「各部隊は決められた場所に整列してください。間もなく教皇猊下より出陣のお言葉がございます」
そして、女神神殿前に魔王討伐の連合軍2万人がずらりと整列した。各国の精鋭が並ぶ様は正に壮観
の一言だ。そして、特別に設けられたステージに教皇レノンが登場する。
「この世界に混沌をもたらす魔王の発生に、不安をぬぐい切れぬ者も多いでしょう。しかし、偉大なる女神
ルーシャス様は我らに英雄をもたらしました。ご存じの方も多いでしょう。プリエール王国王都直轄騎士団の
精鋭にして、魔王四天王の一角である真祖バンパイアを退けた騎士レーナです!」
レノンの言葉に静かに一礼するレーナ、周囲は一斉に彼女に注目する。
「先に対魔王同盟会議の場を襲った魔人兵は彼女たちの活躍により鎧袖一触、一人の命も奪うことは
かないませんでした。あの、かつて猛威を振るった魔人兵でさえ、我らの敵ではありません」
強大な魔王軍を相手にすることに不安顔であった各国の兵たちが、ほっとした表情になっていく。油断は
禁物だが、それよりも不安を取り除き士気を上げることをレノンは優先したのだった。更に彼女は、対魔王
の切り札的な兵器をお披露目する。
「そして、これは私レノンが女神ルーシャス様の神託を受け、魔王用に開発した兵器です」
「へ、陛下、あれは我が国が密かに開発していた、、、」
「ああ、”大砲”だな。しかも我々が開発しているものよりも洗練されているぞ、、、」
ダミドとハレスは自分たちが秘密裏に開発していた大砲を、すでに神聖法国が所有していることに衝撃を
受けていた。もちろんこれは神託などではなく、レノンの前世知識を元に開発されたものだ。旧日本陸軍
の四一式山砲を参考にしており、オリジナルより威力は劣るもののこの世界初の大砲としては、十分な
性能を持っていた。
「では、この大砲の威力をご覧ください」
レノンの指示により、砲の照準が的として用意されていた石造りの建物に向けられる。そして轟音とともに
建物は木端微塵になった。その威力に各国の兵たちは歓声を上げる。
「この通り、大砲は魔王をも粉砕する威力を持っています。故にルーシャス様はこの兵器を魔王以外に
使ってはならぬと、強く私におっしゃられたのです。もし、反することがあれば天罰が下るとも、、、、」
それに各国の代表たちは”その通りだな”、”ルーシャス様のお言葉には逆らえますまい”などと同意を
示している。一方、機先を制された形のダミドとハレスは渋い顔であった・・・・
「ここに集いし勇者たちよ、恐れることはありません。我らは偉大なる女神ルーシャス様の加護を賜って
いるのです。さあ、世界を脅かす不埒な者どもを、共に討伐しようではありませんか!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」
レノンのアジ演説に兵たちは一斉に雄叫びを上げる。彼らは一斉に魔界目指して進軍を開始したので
あった。
「バルダック様、聖都シャノンに潜入させていた”目”から報告が上がりましてございます」
「む、なんだセバスよ」
その頃魔王城では、魔王バルダックが諜報担当であるセバスから報告を受けていた。彼も四天王の1人
なのだがその容姿は50代半ばの落ち着いたテンプレな執事である。しかし頭のツノと背中の羽の存在が
彼は人間ではなく、魔族の一員であることを物語っていた。
「はい、人族の連合軍がバルダック様を討つべく、約2万の軍勢を持って出陣した次第にございます。なお
軍勢の総指揮は教皇レノン自らが執っているそうです」
「そうか、では、彼奴らから先に血祭りに上げてやろうではないか。下等生物どもに自らの愚かさを知らし
めてやるとしようぞ」
バルダックは人族の最高戦力を壊滅させ、人々を絶望に追いやってからじっくりと攻めてやろうと考えて
いたのだ。正に悪の魔王の考えそうなことである。
「ではバルダック様、そのお役目はこの自分にお任せいただけますか。貧弱な下等生物など、我らの牙と
爪で引き裂いて見せましょうぞ」
連合軍迎撃に名乗りを上げたのは、魔獣軍団を率いる獣王デルザーだ。彼の軍団は魔王軍の中でも
もっとも力攻めに適している部隊だった。
「よかろう、だがレーナとかいう小娘がいたらそいつは生かして連れてこい。この魔王バルダック自ら嬲り
殺しにしてくれるわっ!」
「御意に」
魔王側も連合軍を迎え撃つべく、最初の手を放ったのであった。




