第31話 令嬢、魔王の怒りを買う
「テスラ14世とやら良いな、必ず魔王に、、、、ん、レノンどうしたのだ」
物理をもって不死の王、真祖バンパイアをパシリにしたレーナであったが、その肩をレノンはトントンと
叩いたのであった。
「うん、このバンパイアさんにちょっと聞きたいことがあるから、ねえ、魔王の容姿ってどんななの、素直に
教えてくれるかしら」
「ヒッ、ヒィッ!」
黒い笑顔のレノンに、テスラ14世も思わず悲鳴を上げてしまう。気絶しそうな彼を見かねてレーナが彼女
に疑問を呈する。
「なあ、なぜ魔王の容姿なんぞを知りたいのだ」
「レーナ、もしこの世界の魔王がニールちゃんみたいな容姿だったら、どうするつもりなの?」
「「っ!」」
レノンの問いかけにレーナはもちろんエリスも絶句してしまう。彼女たちの脳裏には、あの愛らしい美少女
魔王の姿が浮かんでしまったのだ。だが、それは杞憂であった。
「あ、あの、、、魔王様は身の丈3mを越え、魔人兵を更に凶相にした感じです」
テスラ14世の言葉にレーナ達はほっとした様相だ。
「いや、これなら遠慮なく叩きのめせるわね」
「そうだな、いや、ニールみたいな容姿だったらどうしようかと心配してしまったぞ」
やれやれといった感じのレーナ達に、宰相ブラッドが質問する。
「教皇猊下、それに騎士レーナ、そのニールというのは何者なのですかな、、、」
「あら宰相さま、前に縁あって親しくしていた別世界の魔王ですわ。とっても可愛らしい子でしたのよ」
それにはエリスが答える。前というのは彼女達の”前世”のことだ。
「しかし、、、いくら容姿が可愛らしくとも、魔王は魔王でしょう」
「宰相さま、おわかりになられていないようですね。”可愛いは正義”なんですわよ」
「エリスの言う通りよ。美少女は世界の宝なのよ!」
「そうです宰相殿、可愛い子は全力で愛でるべき存在なのですぞ!」
「そ、そうですか、、、、」
ブラッドはパープートリオの猛反撃に気圧されてしまった。彼の言うことはもっともなのだが、”可愛い”と
いうワードの前にはどんな正論も無力なのであった・・・・
「まあテスラ14世よ、言伝の方は頼んだぞ」
「は、はい、必ずやお伝えいたしますですうううう!」
彼は1人魔王城に向けて飛び立っていく。他の魔人兵は全てベッカー率いる王都直轄騎士団により、無力化
されたのであった。一旦避難した各国代表や貴族たちもぞろぞろと会場に戻ってきた。国王カルスは頃合い
と見て彼らの前で演説を始めた。
「せっかくの夜会に、無粋な余興をお見せしてしまい申し訳ない。しかし、彼ら王都直轄騎士団の活躍により
四天王の一角を含む魔王軍はなすすべもなく敗退した。皆の者魔王を恐れることはない。我らが団結すれば
必ずや世界を覆う暗雲を打ち払うことができるであろう。まずは、魔王の尖兵を退けた英雄たちに感謝の
礼を捧げようではありませんか!」
予想よりも早い魔王の先制攻撃に浮足立っていた各国の使節たちも、安堵した表情で一礼する騎士たちに
拍手を贈る。中でも、四天王である真祖バンパイアを文字通り一蹴したレーナは、一番注目されるのであった。
「カルスめ、中々のタヌキだな。さりげなくプリエールは魔王軍四天王も倒せる戦力があると、演説に含ませて
おったわ」
「はい、しかしあの騎士レーナ、ますます我が国に欲しくなりましたよ」
「そうだな、むしろ騎士というよりも、我が正妃として迎えたいものだ」
「えっ、正妃ですか!」
驚くハレスを尻目に、ダミドはレーナのことを熱い視線で追っていた。”うわあ、陛下本気だわ”と、ハレス
は内心でそう嘆息するのであった。
「では、警備担当者以外はこれで解散する」
ベッカーの命により、ルミダス達も騎士団本部へと戻ろうとしていた。だが、そんな彼の肩をトントンと叩く
者がいた。笑顔ながら全く目は笑っていないレーナである。
「ルミダス隊長、少しお話しがあるのですが」
「お、おう、、、なんだ」
「いえ、あのテスラなんとかとやらが自分のことを”メスゴリラ”だなんだとぬかしておりましたが、そういえば
隊長も何かおっしゃっていませんでしたか」
そう威圧を強めるレーナに、ルミダスは全身から冷や汗だか脂汗だかをダラダラと流してしまう。そして、、、、
「も、申し訳ありませんでしたああああっ!」
彼は見事な土下座を決め、心からの詫びをレーナに入れたのであった・・・・
「全く、こんなか弱い乙女をバケモノ呼ばわりなぞ、隊長、次はないですよ」
「う、うん、わかった、レーナはか弱い乙女だな、うん」
そう首をコクコクと縦に振るルミダス、それを見ていた周囲の騎士達は、
「えっ、真祖バンパイアを倒したヤツがか弱い乙女だって!」
「オレ見ていたけど、あれは戦いというより拷問かリンチだったぞ・・・・」
とボソボソ言っていたのだが、耳ざといレーナの一睨みでその口を閉じたのであった・・・・
「ひい、、、はあ、、、酷い目にあった、一刻も早く魔王様にこの事お知らせせねば」
レーナのパシリと化したテスラ14世は、ひたすら魔王城を目指して飛んでいた。魔界に近づくにつれ青空は
黒雲に覆われ、枯れ果てた大地が広がっていた。いかにもテンプレな魔界の景色である。
「こ、これはテスラ14世さま、他の兵たちはどうしたのですか!」
「お前らに話すことはない! 早く魔王様に取り次いでくれ!」
1人で帰還してきたテスラ14世に門番のリザードマン兵は驚くが、四天王である彼の言うことには逆らえず
門を開け、魔王の玉座へと案内する。
「ふむ、、、すると貴様、魔人兵を全て失った上、レーナとかいう女騎士にやられておめおめと逃げ帰って
きた訳か、、、」
「は、ははあー、真に申し訳ございません!」
ガタガタ震えながら平伏するテスラ14世、彼の前に玉座でふんぞり返っているのは身の丈3mを超える
全身漆黒の異形の存在、魔王バルダックであった。彼の頭には水牛のような2本のツノが生えており、
その口は尖った耳元まで裂けている。正に絵に描いたようなラスボスの風情であった。
「しかし、下等生物と侮っておりましたが、ヤツらの戦力はかなり強大です。特にあのレーナという女騎士、
まるで悪鬼か死神の如き強さでして、、、、」
「黙れっ! 下等生物ごときに遅れをとりおってからに。貴様それでも栄えある魔王軍の四天王か!」
バルダックの怒りにテスラ14世は更に震えながら平伏してしまう。だが、それでもレーナからの挑戦状を
渡すことは忘れなかった。
「も、申し訳ございません、、、、恐れながら、そのレーナから魔王様への言伝がございまして、、、」
「ふむ、見せてみよ」
レーナからの挑戦状を読んだバルダックは、次第に怒りの形相へと変化していく。それは、魔界全ての
者が震えるほどの波動であった。
「くっ、くくくくっ、たかが人間の女風情がこの我の首を獲りにくるだと、、、、面白い、こやつだけはただでは
殺さぬ、この大魔王バルダックをなめたこと、後悔させてやるわっ!」
そして、彼の怒りは人間のパシリと化したテスラ14世にも向けられる。
「貴様、、、下等生物の伝令をやるなど、どうなるかわかっているのだろうな、、、」
「ひえっ、どうかお許しくださいませえっ!」
そう震えあがるテスラ14世に、魔王バルダックは断罪を下す。
「貴様には”永遠の煉獄”に入ってもらう。衛兵、こいつを連れていけ!」
「ははっ!」
「魔王様っ! どうかお許しを、お許しくださあああいっ!」
そう悲鳴を上げるテスラ14世を、衛兵は引っ立てていった。”永遠の煉獄”とは炎に焼かれながら、死ぬ
ことはないという永久に続く地獄のような牢獄だ。魔王の力をもってしても再生してしまう彼には、うって
つけの刑罰なのであった。
「はあ全く、、、本当に四天王の面汚しだわね」
「くくく、それも仕方あるまい、やつは四天王の中でも最弱、、、」
未だ遠くに聞こえるテスラ14世の悲鳴を聞きながら、そう嘲笑う他の四天王の面々。ともあれ、こうして
レーナは目出度く魔王の怒りを買うことになったのであった。
「今度こそ先代の意志を次ぎ、この世を暗黒の瘴気で覆い尽くしてやるわ!」
そう吠えるバルダックは知らない。敵はレーナだけではない、前世”暗黒神”と恐れられ、別の世界で
邪神を滅ぼした教皇サマが存在していることを・・・・




