第27話 令嬢、仇とみなされる
「対魔王同盟会議に参加していただいた各国の方々に、このカルス心よりお礼を申し上げる。今宵は旅の
疲れを癒し、明日の会議に向けて英気を養っていただきたい。では、同盟会議の成功を祈り、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
国王カルスの音頭であちこちで乾杯が交わされる。初日は歓迎の意を込めて舞踏会が催されるのが
通例となっている。もちろん、そこかしこでヒソヒソと密談を交わしている光景が見られていた。この場も
当然外交の舞台となっているのだ。
「マルチナ様、遠いところをようこそいらっしゃいました」
「これはレノン教皇猊下、お気遣い痛み入ります」
レノンはカノパス精霊王国の代表、マルチナに近寄り話しかけた。これには周囲の面々も思わず注目して
しまう。これまで教皇がエルフなど他種族の代表に自分から声をかけることなどなかったからだ。
「実は、貴国にお願いしたいことがありまして」
「教皇猊下自ら我らにお願いとは、歴史上でもそうはなかったことですな。一体、何用でございますか」
「はい、貴国で生産されている醤油や味噌、これらの調味料を神聖法国にも輸出していただけたら、と
思いまして、、、、」
レノンの言葉を聞いたマルチナも、少し驚いた様子だった。これまで人族はエルフなどの文化を一段下に
見ていたからだ。もちろん、料理もその例外ではない。しかし、前世日本人の記憶を取り戻したレノンに
とって、それは切実な問題だったのだ。
”あんな脂っこい料理、もう食べられないわ。なんとしても醤油、味噌を手にいれなければ!”
レーナから精霊王国が醤油や味噌を生産していることを教えてもらったレノンは、こうして輸入の約束を
取りつけたのであった。後にレシピも譲り受け、神聖法国でも食の改革が進んでいくことになる。
「貴国では、お米も栽培されているのですね。もしかしてそれを原料にしたお酒はありますか」
「はい、これは生魚を食べる時に良く合うのですよ。人族には野蛮な食事と思われて、、、」
「いえ! そんなことはありませんよ!」
マルチナの言葉をレノンはぶった切る。彼もいささかあ然とした表情だ。
「生のお魚の切り身に米のお酒、それは最高のマリアージュですわ。それを理解できない方が野蛮人
なのですよ! ああ、できれば貴国に訪問したいものですわあ、、、、」
レノンはお刺身をつまんで日本酒を一杯やる自分を想像して、うっとりとした表情だ。マルチナも人族の
トップである教皇から自国の食文化を礼賛されて、喜びの笑みを浮かべていた。そして、魔王の件が
片付いたら精霊王国にご招待するという約束が交わされたのであった。
「レノンお姉さま、精霊王国訪問の際は、ぜひ同行させてくださいませ」
「うん、もちろんよ。レーナも護衛の名目で一緒に行きましょう。ちなみに温泉もあるそうよ」
「なんと! 決めましたわ。わたくし精霊王国に移住いたします。一生温泉とコタツに入って過ごしますわ!」
相変わらずニートになる気満々のエリスに、レーナとレノンは苦笑するのであった。なお、ドワーフ族の国
であるグランツ王国には”酒飲み放題”、獣人の国であるビース森林帝国には”焼肉食べ放題”の習慣が
あると知ったレノンは、もちろんそれぞれ訪問の約束を取り付けたのであった・・・・
「これはこれは教皇猊下、夜会でこそその美貌は映えますなあ」
「あらダミド陛下、それではまるで昼間は見れたものではない、とでも思っていらっしゃるのかしら」
「ははは、それはまた一本取られましたなあ。ご無礼の段お詫び申し上げます」
そう慇懃に頭を下げるダミド、彼はレノンの近くにいるエリスにも声をかける。
「エリス様も初めまして、今後ともよしなに」
「いえいえ、こちらこそ切れ者と名高い陛下とお会いできて光栄ですわ」
「それにしても、エリス様も教皇猊下とお会いするのは初めてだと思いましたが、ずいぶん親密なご様子
ですなあ」
「ええ、か弱い乙女同士、話がはずみまして」
「うふふ、ダミド陛下、乙女同士のことを詮索しようなど、無粋でございますわよ」
探るようなダミドに、レノンとエリスは営業スマイルを貼り付けて応対する。ふと、彼はエリスの隣りにいる
レーナに声をかけた。
「ほう、君が我が王国一番の武将イレムを屠った、騎士レーナかね」
「はい、先の争乱ではいろいろありましたが、今は講和も成った故、此度のご訪問心より歓迎いたします」
そう無難に大人の対応をするレーナに、ダミドは目を細める。てっきり敵意丸出しでかかってくるかと考えて
いたからだ。
「ふむ、武芸だけでなく、政治力もなかなかありそうだねえ、、、君も仲間を失っただろうに」
「ええ、ここは公式の場ですから。しかし、それが理解できぬ者もおりますな」
レーナはそう言ってダミドの隣りにいる護衛の騎士に視線を向けた。彼はレーナのことを、射殺さんばかり
に睨みつけていたのだ。
「クレイ、騎士レーナの言う通りだ。場をわきまえたまえ」
「陛下、申し訳ございません、、、、」
そう謝罪する騎士の顔に、レーナは見覚えがあった。
「クレイ殿はもしかして、イレム殿のお子でしたか」
「そうだ、、、父の仇、必ず果たしてみせるからな!」
なおもレーナに対して敵意をむき出しにするクレイに、彼女は呆れたような表情になってしまった。
「はあ、、、イレム殿は素晴らしい武将であったが、そなたはまだまだお子様であるな」
「な、なんだとっ!」
「クレイっ! 場をわきまえろと言っただろう!」
「あ、、、はっ、申し訳ございません、、、」
激高し今にも剣を抜きそうなクレイに対し、さすがにダミドも叱責する。
「クレイとやら、繰り返すがイレム殿は本当に素晴らしい武将だった。剣を交わす前に、一緒に魔王の首
獲りに行かぬかと誘ったくらいにな、、、だがそなたはどうだ、己の感情も律せず他国の使節もいる中で
殺意をむき出しにするとは、これをお子様と言わずして何という。そなたの振る舞い、イレム殿の名誉をも
傷つけるものであるぞ!」
「うっ、くうっ、、、、」
レーナにやり込められ、クレイも黙り込んでしまう。一方その様子を見ていたダミドはますます彼女に関心を
高めていった。
”ふうん、武芸だけかと思っていたが、なかなかどうして頭も回りそうだねえ、、、やはりウチに欲しい人材
だな”
ダミドはまだ知らない。レーナが結構パープーでスカポンタンな一面もあることを・・・・




