第22話 令嬢、ファンクラブができる
「なんとっ! あの魔剣と契約しただと!」
「はい、どうも彼女の前世で縁のある相手の剣だったようでして、、、、」
プリエール王国の王城、国王カルスは執務室で宰相ブラッドの報告を聞き、思わず大声を上げてしまった。
まさかレーナがあの魔剣を手に入れるなど、完全に想定外の出来事だったのだ。
「翌週、実際に魔剣、、、”ニホントウ”という名ですが、その威力を検証する予定です」
「そうか、この日はワシの予定も空いておるな、、、ぜひ直接この目で見てみたいぞ」
こうして、魔導部隊の訓練場で秘密裏に、日本刀の性能を検証する運びとなった。もちろん訓練場内外
には幾重もの結界が張りめぐされ、機密漏えいを防ぐ算段である。
「では、まずニホントウの切れ味の検証から開始します。レーナ君、準備をしてくれたまえ」
「はい、団長」
レーナは日本刀を顕現させると、試し切り用の鎧へと向かっていく。これは騎士団でも使われていて、その
防御性能には定評のあるものだ。
「では、まずはこの鎧を斬ります」
”ひゅん”という風切り音とともに、レーナの日本刀が鎧を横なぎにする。すると、頑強な鉄の鎧がまるで
豆腐のように、真っ二つにカットされたのである。
「お、おい、今あの細い剣で鎧を断ち切ったというのか。有り得ぬぞ!」
「いえ陛下、自分も非公式の場で同じことを確認しております。あのニホントウが鎧を斬ったのは間違い
ございません」
信じられぬ表情の国王カルスに、ブラッドが説明を加えていく。更にカルスは日本刀がただの鉄で出来て
いることを知り、二重に驚くのであった。
「ドラゴンの牙とか、オリハルコンとかそのような伝説の素材で出来ているのかと思ったぞ」
「ドワーフの技術者にも確認してもらいましたが、間違いなく鉄で出来た剣でございます。ただ、その製法
はかなり複雑なようで、ドワーフ族の知識にもないと話しておりましたが、、、、」
もちろん日本刀といえども、腕の無い者が扱ったのでは鎧どころか竹や木でも斬ることはできないだろう。
レーナの剣技が合わさった上で鎧斬りが実現できたのである。
「では、次に日本刀を媒介にした攻撃魔法をお披露目いたします」
魔導部隊の面々が何やらゴロゴロと転がしてきた。城壁に見立てた石壁だ。レーナは日本刀にマナエネ
ルギーを纏わせると、石壁に向けて一閃させる。次の瞬間石壁は粉々に砕け散った。
「なんと、、、凄まじい威力の攻撃魔法だな、、、」
「いえ陛下、あれで3割程度の威力に抑えているそうです」
「ブラッドよ、それは本当なのか。さすがに信じられぬぞ」
「はい、もし全力で発動させたら、ちょっとした砦なら全壊するそうです」
ブラッドの返答にカルスも唸ってしまう。確かにレーナの力は魔王やラングレー王国相手に対抗する手段
として魅力的なのではあるが、一個人としては過ぎたものなのではないかと危惧していたのだ。
「なあ、もし彼女に叛意があったらどうなるか、、、、」
「いえ、今の所それを心配する必要はないでしょう。聖女様とも親密な仲ですし、こちらがヘタに邪推すれば
返って彼女を敵に回すことになりかねません」
彼らは当座、レーナを信用しつつもその動向には、十分注意を払うことにしたのである。さて、その頃王立
学園内のテラスでは、そんな思惑とは全く無縁の貴族令嬢たちがキャッキャッウフフなお茶会をのんびりと
楽しんでいた。
「ねえ、皆さん聞きました、あのレーナが王都直轄騎士団に入団したことを」
レーナを呼び捨て扱いにしたのはポーラ・ミンデン公爵令嬢、大公家の我がままご令嬢だったレーナの
取り巻き筆頭であった。レーナが貴族社会から追放された現在、大公家に次ぐ権力を持つ公爵家ご令嬢
であるポーラはご令嬢グループの中で、正にわが世の春を謳歌していたのである。
「ええ、何でも先のテオドル辺境伯領の騒乱では、ずいぶんなご活躍をなされたとか」
王都直轄騎士団に親戚が所属している伯爵令嬢がそう答える。しかし、他の令嬢たちは彼女の言葉に
懐疑的だった。
「あら、ライス嬢は何を世迷いごとをおっしゃられているのかしら。あの宝石やドレスにしか興味のない、
おバカなレーナがそんな活躍をする訳がないでしょう」
「そうですわ。せいぜい騎士団の荷物運びでもさせられて、ヒイヒイ言っているに違いありませんわ」
ポーラを筆頭に、反論の嵐にあったライスは無言になってしまった。このグループではポーラの意向が
何よりも優先される。まあ、猿山のボスがレーナから彼女に変わったようなものだ。
「そうですわ。今度皆でレーナが騎士団でどんな目にあってるか、見に行きませんこと」
「あら、それはナイスアイデアですわねえ。レーナの落ちぶれた姿、きっと笑えますことよ」
底意地の悪いことをこれまた意地悪い笑顔で話し合うポーラたち、その様子にライスは内心、
”でも、スレイおじさんレーナさんのおかげで助かった、てすごい感謝してたんだけどなあ、、、”
と思うのであった。
「どれどれ、レーナはどこにいるのかしら」
「ポーラさま、あそこで騎士団の方々が鍛錬してますわよ」
一人の令嬢が指さす場所では、ルミダスの指揮の元第一部隊の面々が腕立て伏せを行っていた。しかも、
全員背中には重い石板を乗せていたのだ。
「おらおらっ! お前らもうバテたかあっ! こんなんで魔王に勝てるかっ!」
もちろんルミダスも他の騎士達と同じく背中に石板を乗せ、腕立て伏せをしている。しかも他が1枚なのに
対して、彼は3枚も乗せていたのだ。これにはさすがのポーラ達も息を飲んでしまう。騎士団の訓練が厳しい
ことは聞いていたが、まさかこれほどとは思わなかったのだ。だが、彼女たちは更に驚くべき光景を目に
してしまう。ルミダスの隣りではレーナが彼と同じ3枚の石板を乗せて、腕立て伏せをしていたからだ。
「ははは、隊長、この程度ではまだ準備運動にもなりませんよ」
「言ったなレーナ、どっちが先にへたばるか勝負だぜ!」
そして、2人は他の騎士達の倍のペースで腕立て伏せをやり続けるのであった。
「あ、あれ本当にレーナなの・・・・」
「いえ、きっと人違いなのでは・・・・」
自分の目で見たモノが信じられず、他人の空似だと言い聞かせるポーラたち、そんな彼女たちにレーナが
気がつき声をかける。
「ん、確かそなたはミンデン公爵家のご令嬢ではなかったか」
「え、ええそうですわレーナさん、お久しぶりですこと」
「受付で言われたと思うが、見学は指定された場所でしてくれよ。危険が伴うからな」
レーナはそう注意すると訓練へと戻っていった。
「ねえ、、、何だか以前とずいぶん雰囲気が違うんじゃありませんか」
「ええ、何というか、”男前”になられたような感じですわよ、、、、」
「あれえ、お嬢さん方は姉御のお知り合いスか」
我がままご令嬢だった頃のレーナしか知らないポーラ達が戸惑っていると、そこに舎弟の1人が声をかけた。
「今からすごいものが見れますから、楽しみにしててくださいっス」
「すごいものって、、、」
ポーラ達が頭に疑問符を浮かべていると、その間にレーナが模擬戦用の剣を持って立ち合いの準備を
した。もちろん相手は大剣を構えたルミダスである。
「ちょ、ちょっと、、、相手の方はあの”豪剣のルミダス”ですわよね、、、大丈夫なんですか」
「ああ、初めて見る方はみんなそう言うんですが、ルミダス隊長姉御に勝てたことまだ一度もないっスよ」
「「「「「えええっー!」」」」」
驚きのあまり令嬢にあるまじき叫び声を上げるポーラ達、それをよそにレーナは殺気丸出しのルミダスと
平然と対峙する。
「今日こそ、今日こそはたたっ斬ってやるからな! 覚悟しろよレーナ!」
「隊長、か弱い乙女に向かってその暴言はいただけませんよ」
「誰がか弱いだ、いくぜっ!」
ルミダスの咆哮とともに、離れたところの見学エリアまで風圧を感じる豪剣がレーナを襲う。思わず目を
つぶってしまうポーラ達、しかし、”キィン”という音とともにレーナはその剣を受け止めていた。
「くっ!」
間合いを取ろうとするルミダス、だがレーナはそのわずかな隙を逃さず、彼の懐に入り込むと剣をその腹に
突きつけた。
「チクショー、また負けたかあ!」
本気で悔しがるルミダスと少し汗をかいただけのレーナ、その様子をご令嬢達は呆然とした様子で見つめて
いた。だが、彼女達は更に驚くべき光景を目にすることになるのだ。
「よし、次はオジサンが相手をしようか」
その瞬間、レーナの雰囲気がルミダスの時とはガラリと変わった。先ほどとは段違いの殺気を剥き出しに
して、ベッカーと対峙したのである。
「な、なんですのこれは、、、寒気がすごいするのですけど、、、、」
「姉御、まだ一度も団長に勝ててないっスからねえ。アレ本気で殺る気っスよ」
ポーラ達はもちろん、騎士団の面々も固唾を飲んでこの勝負を見守っている。そして、レーナの剣先が
ゆらりと揺れる、しかも、以前よりも相手を惑わす動きになっていた。彼女はすでに前世にほぼ近い剣技
を取り戻していたのだった。
「おおっと、オジサンはそう簡単には誘惑されないよっと」
「全く、、、ピチピチの若い女性が誘っているというのに、相変わらず無粋ですねえ」
突然剣を突き出したレーナ、しかしベッカーはまるで読んでいたとばかりにそれを紙一重で避けてみせた。
間合いをとった彼女の剣先が、再び揺らめきだす。それは本当にダンスへと誘っているかのようだ。今度
はベッカーが一時レーナから距離をとる。
「あぶないあぶない、、、危うく誘惑されちゃうところだったよ、、、とっ!」
しかしレーナは一瞬で間合いを詰め、ベッカーの首筋に剣を寸止めする。だが同時にベッカーも彼女の首筋に
剣を寸止めしていた。引き分けである。
「くっ、勝てたと思ったのですが、、、」
「いや、今のはいい動きだったよ、、、オジサンもう自信なくしちゃうなあ、、、、」
ベッカーに勝てはしなくとも、引き分けに持ち込めるまでには彼女の剣技もだいぶ上達してきたのだ。一方、
ポーラ達は先ほどにも増してご令嬢にあるまじき、お口あんぐりの状態であった。まさか王国一の使い手で
あるベッカーと、レーナが互角の勝負をするとは思ってもみなかったのだ。
「ね、ねえ、、、今の本当にレーナさんなの。王立学園にいた頃とは別人なんですけど・・・・」
「でも、とても凛々しいといいますか、物語の中に出てくる英雄みたいですわよ」
最初はレーナのことを底意地の悪い目で見ていたポーラ達、それが憧憬の眼差しへと変わってゆく。そう、
ご令嬢たちは宝塚の女優に惹かれるのと同じような感覚で、レーナのことを見始めたのだ。
「レーナさん、少しお聞きしてもよろしいですか」
「むっ、何かな」
訓練の合間にポーラが質問をする。元大公家のご令嬢が、なぜこんなに激しい訓練をするようになったの
かと。前世のことを知らないポーラ達には疑問であったからだ。
「もちろん、直に現れる魔王の首を獲るためだが。心配はいらぬぞ、そなた達の平穏このレーナが守ること、
騎士の名誉に賭けて誓うからな」
そう胸に手を当てて答えるレーナを、ご令嬢たちは完全にハート型の目で見つめていたのだった、、、
「ねえ、あのご令嬢の方々は一体何なんだい」
「あれっスか、何でも、姉御のファンクラブだそうで、、、、」
数日後、レーナの様子を見に来たフェルナンドは、彼女に熱烈な視線を送るご令嬢たちを訝しげに見つめて
いた。レーナの方も合間に彼女達に手を振ったりすると、たちまち嬌声が上がったりするのだった。
「レーナ”様”、今日も何て凛々しいお姿ですの、、、、」
「ああ、あの腕に抱かれてみたいですわ」
レーナをうっとりとした表情で見つめるご令嬢グループ、フェルナンドはどうしてこうなったと遠い目をする
しかなかった。しばらくしてこのグループは他の貴族令嬢も巻き込んでいき、やがて私設ファンクラブの
ようなものに発展していくのであった。
「何でも、”レーナ様を讃える会”と名乗っているそうっスよ」
「姉上、一体どこに行こうとしているのですか、、、、」
フェルナンドの呟きは、レーナに向けたご令嬢たちの声援にかき消されていった・・・・




