第21話 令嬢、武士の想いを引き継ぐ
「レーナ君、それに聖女様も、、、今の口ぶりだとこの剣の正体を知っているようだが、、、」
「ええ、これは日本で使われていた伝統的な剣です。なぜここにあるのですか」
「異世界の剣だったのか・・・・」
魔剣の正体に今度はブラッドが驚く番だった。まさか異世界のものだとは思っていなかったのだ。
「今から200年ほど前に、騎士団の訓練場に忽然と現れたそうなんだよ。当時の者は魔王に関係する
ものではないかと考え、この部屋に封印したそうなんだ」
ブラッドがこの日本刀がプリエール王国に出現した経緯を説明する。なぜここに現れたのか、その理由は
全くもって不明とのことだった。そしてレーナはその魔剣、”日本刀”にまるで魅入られたかのように近づいて
いく。
「お、おいレーナ君、そんなに近づいちゃ危ないぞ!」
「いえ、団長止めないでください。あの剣、日本刀はレーナお姉さまを呼んでいるのですわ」
「呼んでいるって、、、」
エリスの言葉にベッカーやブラッドも、レーナが近づくのを止めることはしなかった。そして日本刀を手に
したレーナは、鞘からその刀身をすらりと抜いた。日本刀独特の反りのある刀身、そして刃文が灯りに
照らされる。
「おお、、、なんという美しい剣だ、、、」
「あの剣は、本当に武器なのですか、、、」
ベッカーやブラッドも、初めて見る日本刀の美しさに魅入られてしまう。日本刀は地球世界でも武器であり
ながら、美術品としても高く評価されている稀有な例だ。彼らがそうなってしまうのも無理はない。
「こ、これは・・・・」
一方、日本刀を手にしたレーナはそれどころではなかった。刀の念が彼女に流れ込んでいたからだ。
『まったく、とんでもない剣を使いおるのう。しかし総大将の首、そう簡単にくれてやるわけにはいかぬ
のでな』
『ああ、武士として勝負をし、死ねるのだから本望じゃ。ささ、スパッとやってくれい』
これは、前の持ち主の記憶だった。そして、、、
『ふむ、、、、これからわしは、冥途の土産に敵の総大将の首ば、取りに行こうかと思っちょるんじゃが、
皆はどうすっかな』
圧倒的な物量の敵軍に、笑みを浮かべながら立ち向かっていった”最後の武士”の姿、レーナの頬に
一筋の涙がつたう。
「これは、村田殿の刀だったのか、、、、」
”そうじゃ、巫女さん、また逢えるとはのう”
その時、部屋に聞き慣れない男の声が響く。そして、シルクハットを被りフロックコート姿の偉丈夫がその
姿を現した。
「貴様、何者だっ!」
警戒し剣を抜こうとするベッカーをレーナは制止し、偉丈夫へと向き直る。
”ははは、その刀は巫女さんにあげよう”
「いいのか、私が頂いても」
”ああ、その方が刀も喜ぶ、存分に振るってくれい”
その瞬間、レーナと日本刀が光に包まれ、刀はまるで彼女の手に吸い込まれるようにして消えた。
「聖女様、今のは一体、、、、」
「おそらく、あの刀とレーナお姉さまの間に、”契約”が交わされたのでしょう」
驚く一同をよそに、レーナは偉丈夫に対して胸に手を当て、片膝をつく竜騎士の礼を執った。
「村田殿、このレーナ頂いた刀に恥じぬ働きをすること、竜騎士の名誉に賭けてここに誓おう」
”巫女さんに使われれば、刀もさぞかし本望じゃろう。後はまかせっど”
レーナの言葉を聞いた偉丈夫は、満足そうな笑顔を見せ消えていった。
「レーナ君、今の男は一体何者なんだ・・・・」
「己の信じる義に生きた、真の武士です」
「ブシ? 騎士のようなものなのか」
「ええ、命よりも名を惜しむ、そういう者たちです」
ベッカーの質問に、レーナは前世幕末で邂逅した村田のことをそう説明した。彼もあの偉丈夫が彼女の
前世で関わっていた相手だと直感していたのだ。
「そのムラタという者は、君の仲間だったのか」
「いえ、剣を交えた間柄です。自分の前世でも最も優れた剣士でした」
レーナはタイムスリップ云々は別にして、会津で彼と剣を交えた時のことを簡潔に説明した。そして、その後
西南戦争で西郷隆盛、いや時代の流れの中で消えゆく”武士”というものに殉じたことも・・・・
「そうか、実にうらやましい人生を送ったんだな。そのムラタという男は、、、私も騎士としてそうありたい
ものだ」
ベッカーも剣士として村田に共感するところがあるのだろう。本当にうらやましそうな口ぶりであった。
「ねえ、レーナお姉さま、、、今のお話しですと、幕末の会津で戦っていたということですけど、私達がいた
時代は21世紀ですよね、、、、」
ただ、前世も義理の家族として一緒に生活していたエリスは頭に疑問符が乗っかっていた。彼女の記憶
では、レーナが幕末の会津で戦った覚えなどなかったからだ。
「いやな、一緒に会津に出かけていったことがあるだろう。あの時、”龍神と巫女”の伝説の説明を受けた
のを覚えているか」
「はい、すごいロマンチックな伝説でしたわ」
「あの”龍神と巫女”な、実は私とヴィドのことだったのだ」
レーナの言葉にエリスは目を丸くしてしまう。
「はあ、、、もう何があっても驚かないつもりでいましたけど、訂正させていただきますわ」
「それはともかく、村田殿のおかげでいいものが手に入ったぞ。必ずや魔王の首を獲って、村田殿の恩に
応えねばなるまいな」
少し前までは宝石やドレスにしか関心が無かったレーナ、それが今や日本刀を手に入れて目をキラキラ
させている。その変わり様にベッカーやブラッドも苦笑するのであった。




