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第2話 令嬢の告白


「う、う~ん、、、、」


しばらくしてレーナが目を覚ますと、彼女を心配そうに見ている中年の男女の姿があった。レーナは2人が

今世の両親であることを確認すると、まだ腹の傷が痛むのにもかかわらずベッドの上で正座の姿勢をとった。


「父上、母上、此度はお見苦しいところを見せてしまい、真に申し訳ございません。この責はいかようにも

受ける覚悟でございます」


「「っ!」」


そう一礼するレーナに、両親はただただ絶句するしかなかった。昨日まで甘い声で宝石やドレスをおねだり

していた娘とは、まるで別人だったから・・・・


「姉上、だいぶ殊勝な態度じゃないか。演技にしては手が込み過ぎているんじゃないかい」


「フェルナンドか、、、、」


そう実の姉に冷たい声をかけるのは、レーナの弟でフローレス家の跡取りであるフェルナンド、勉強嫌い

のレーナとは違い、王国学園でも常にトップの成績を誇っていた。そして、贅沢にしか興味がなく、身分が

下の者を虐げる姉が大嫌いだったのである。


「フェルナンドよ、そなたにも迷惑をかけたな。こんな愚かな姉のことなぞ早々に忘れてくれ。よいか、民の

ために尽くせる人間になるのだぞ。それがこの愚か者の唯一の願いだ」


「姉上、、、、」


レーナの言葉にフェルナンドも沈黙してしまった。彼女が演技などではなく、心の底からそう思っている

ことがわかったからだ。


「姉上、なぜ今なのです。もう少し早く変わっていただければ、こんなことには、、、、」


「済まぬなフェルナンド、愚かな姉の分も、民のために尽くしてくれよ」


「姉上、姉上えぇ、、、、」


聖女のような微笑みを向けるレーナに、ついにフェルナンドも泣きだしてしまった。レーナがその命をもって

罪を償う覚悟であることを感じとったからだ。


「ごめんなさいレーナ、私たちも同罪です。あなたを甘やかさずしっかり育てていれば、こんなことには、、、」


「父上、母上、例え甘やかされようとも、歪んでしまったのは全て自分の責、お二人が気に病む必要は

ありませぬぞ」


「レーナ、、、すまん、すまん、、、、」


とうとう両親もおいおいと泣き始めた。その時、医務室にリシューが入室してきた。レーナも彼のことを

じっと見据える。


「殿下、これまでの罪状全てこの私が償います故、どうかお慈悲をもってフローレス家には責の及ばぬ

ようご配慮を願います」


「レーナ、何を言っているの! この母も同罪ですよ」


「そうだレーナ、殿下、どうかこの愚かな親を罰することで、せめてレーナの命だけはお救いください!」


「父上、母上、、、、」


レーナは両親の言葉に涙ぐむ。今世の両親も自分のことを愛してくれていることを実感したからだ。


「まあそう逸らないでくれ。その前に、フローレス嬢に色々と聞きたいことがあるからな」


「殿下、聞きたいこととは?」


「単刀直入に言うよ。レーナ・フローレス、君は一体何者なんだい」


リシューは、これまで思っていた疑問をストレートにぶつけたのだ。


「で、殿下、、、それは一体どういう意味で、、、」


「さようでございます。ここにいるのは間違いなく娘のレーナですよ!」


慌てふためく両親をよそに、リシューは更に疑問をぶつける。


「まずは衛兵の証言だが、君と対峙した時、まるで歴戦の武将を相手にしているようだったと話していたよ。

それからあの腹切りも本気でナイフを振り降ろしていたとね、、、、それに、言葉遣いも以前とはだいぶ

変わっている。まるで王族かそれに準ずる者と話しているようだった。最初は演技かと思っていたが、君に

そんな演技ができるはずがないからね」


「・・・・・・」


リシューの言葉にレーナは沈黙した。何と答えていいかわからなかったからだ。リシューの疑問は続く。


「今も、まだ傷に血が滲んでいるのに平然とした顔で居住まいを正しているだろう。以前の君なら考え

られなかったことだ。答えてくれレーナ、君は一体何者なんだ」


しばしの沈黙の後、レーナが口を開いた。


「殿下、これからお話しすることは荒唐無稽だと思われるかもしれません。気が触れたのかと思われるかも

しれません。それでもお聞きいただけますか」


リシューはうなづくことで許可を与えた。そしてレーナは語り出す。波乱にとんだ、しかし幸せだった前世の

人生を・・・・


「まさか、別の世界があるなんて、、、それもいくつも、、、、」


「皇女にして竜騎士団副団長、、、高位のドラゴンに騎乗していたなんて、まるでおとぎ話のような、、、、」


しかし、レーナの話は更に衝撃的だった。戦場での大規模攻撃魔法の余波で、元々いた世界とはまた別の

世界、ニホンという国ににドラゴンごと飛ばされたこと。そこでも自分を愛してくれる義理の家族と出会い、

警察という民を守る仕事に就き、最愛の男性と結ばれて子供や孫にも恵まれ、天寿を全うしたことなど、、、、


「以上が、今私がお話しできる全てのことです」


「婚約破棄を告げられた時、その記憶を思い出したと、、、、にわかには信じられんが、今の君の変わり様

はそうとしか説明がつかないな、、、、」


そこでレーナは家族に向き直る。


「父上、母上、フェルナンド、今の自分にはかつてのレーナの人格はありません。前世の人格になって

います。なので、処刑されようが悲しむ必要はありませんよ」


「そんなことありません! レーナはやっぱりレーナです! 殿下、レーナは生まれ変わったのです。

どうかお慈悲をもって命だけはお救いください!」


「私からもお願いいたします。どうかレーナにお慈悲を!」


「父上、母上、、、、ありがとうございます、、、、」


人格が変わっても変わらず自分を愛してくれる両親に、レーナの目にも涙が滲む。だが、自分の犯した

罪はしっかり償う決意は揺るがない。


「しかし父上、母上、人格が変わったからといって以前の罪まで不問にしてしまったら、被害を受けた者

たちは納得しないでしょう。国を揺るがす事態にもなりかねません。どうか殿下、自分は打ち首でも絞首刑

でも覚悟はできております。どうかこの身に断罪を」


「レ、レーナ、、、、」


「うう、、、、」


すっと頭を下げるレーナに、すでに命をもって償うのは本気だと知った両親やフェルナンドは、嗚咽して

しまう。そしてリシューも、本当にレーナの人格が変わったことを確信した。彼は悩んだ末に彼女にこう

告げた。


「確かに君の言う通り、何の罰も与えないという訳にはいかないな。レーナ・フローレス、君は身分はく奪

の上、大公家から追放処分とする。大公家はおとがめなしだ。君はすでに自分の罪を悔い、反省している。

命だけは奪わないでおこう。その命、今度は誰かの役に立つことを願っているよ」


「殿下、その罰謹んでお受けいたします。助けられたこの命、今度は民のために尽くすことを誓います」


レーナはベッドから降りると片膝をつき、右手を左胸に当てる騎士の礼を執った。彼女の前世であった、

竜騎士の礼だ。そのよどみない動作にリシューたちは、思わず目を奪われたのであった。


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