第17話 令嬢の恋愛指南
「はあ、、、予想通りの展開だな、、、」
「まあ、向こうもこう言い訳するしかないんでしょうが」
プリエール王国の王城では、先ほどラングレー王国の使者から届けられたダミドの親書を見て、ブレッド達
がため息をついていた。
曰く、”第一師団の侵攻は野盗の蜂起に乗じて師団長イレムの独断でやったもの、国は一切関わって
いない”という内容だった。
「賠償金も支払うとのことで、これ以上の追及はできないでしょうねえ」
「業腹だが仕方がない、今回はこれで矛を納めるしかあるまいな、、、だが、次は容赦せぬぞ!」
国王カルスも相当腹に据えかねている様子だが、相手が頭を下げてきた以上報復攻撃なぞすれば今度は
こちらが悪者になってしまう。まずは”大人の対応”をとることにしたのだった。
「ところで、レーナ嬢は魔法が使えるようになったそうだな」
「ええ、おかげで死ぬような目に遭いましたがね、、、、まさか訓練場を全壊させるとは思いませんでしたよ」
カルスの問いにブラッドは遠い目をしながら答える。ラングレー軍との戦闘での功績に加え、彼女の前世の
知識が有用であると判断したため、減給という軽い処分で済ませたのだ。
「ははは、、、まだ我がままご令嬢だった頃の彼女の方が、人畜無害だったかもしれませんよ」
「少なくとも、訓練場壊すことはなかったからな、、、」
二人は再び揃ってため息をつくのであった・・・・
「はあ~あ、、、、」
「スタック師匠、ずいぶん大きなため息ですね」
再建中の訓練場の横で、レーナに魔法の指導を行っていたスタックが大きなため息をつく。
「いやあ、グレイス様また私のことを苗字呼びになっちゃってさあ、、、」
「ああ、、、」
完全にベッカーの手の上で転がされているスタックであるが、さすがのレーナもそれには触れない。
「もういいの、、、私はあの時の事を糧に、ずっと独りで生きていくわ、、、」
とうとうグズグズと泣き始めたスタック、それにはレーナも同情の念が湧いてくる。色々残念なところのある
アラサーな彼女だが、ベッカーを想う気持ちは本物だ。同じ女性として、レーナも彼女のために何とか知恵
はないかと考え始める。
「スタック師匠、私も何かいい手はないか、考えてみましょう」
「え、レーナちゃん男を落とす方法とか知っているの」
「ははは、私は前世結婚してますからね。それなりの経験はありますよ」
そう胸を叩くレーナに、スタックはひざまづき両手を祈るように握り合わせる。
「お、おお、、、レーナちゃん、これからあなたのことを恋愛マスターと呼ばせていただきます!」
「師匠にはお世話になっておりますからね。大船に乗ったつもりで安心してください」
こうして、ワラにもすがる思いのスタックは、本当にワラにすがってしまうのだった・・・・
「地球世界では男をゲットするには、”胃袋をつかめ”と言われております。なぜなら、自分のために美味しい
料理を作ってくれる女性を、嫌いになる男性なぞまずいないからです」
「ふむふむ、、、確かにレーナちゃんの言う通りね、、、」
スタックの自宅でレーナは料理講座を始める。スタックが生まれてこのかた料理なぞしたことがないからだ。
「まずはニホンでも定番のお袋の味、”肉じゃが”からチャレンジしていきましょうか」
ちなみにこの”肉じゃが”は騎士団の食事メニューにも採用され、人気メニューの一つである。ベッカーも
お気に入りなので、これから始めようとしたのである。しかし・・・・
「スタック師匠、、、この暗黒物質は一体なんですか、、、」
「肉じゃがのつもりだったんだけど、、、」
数十分後、お鍋の中にはブクブクと泡立つ不気味な暗黒物質が出来上がっていた。どーみても肉じゃが
どころか魔女の調合した怪しげな薬のようだ。
「ま、まあ最初はうまくいかなくても仕方ないです。また作り直しましょう」
「そ、そうね、、、レーナちゃんまた指導お願いするわ」
気を取り直して再度肉じゃが作りを始める二人、だが、現実は非情だった・・・・
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
鍋の中身を見た二人は無言になってしまった。なぜなら、暗黒物質の中から”キシャアァァァッ!”という
鳴き声とともに、真ん中に目のついたヒトデのような謎生物が出現したからだ。スタックは無言のまま、
炎魔法で鍋ごとその謎生物を屠ったのであった・・・・
「スタック師匠、今、新たな魔物が誕生したような気がするのですが・・・・」
「お、おほほほほ、レーナちゃん、それはきっと気のせいよ」
ジト目で見つめるレーナに、笑ってごまかすスタックである。さすがのレーナもここまでくると、彼女が壊滅的
な料理センスの持ち主であると気づいてしまった。そして、難易度を下げたメニューを指導するのであった。
「スタック師匠、目玉焼きならフライパンに油敷いて卵落とすだけですから、なんとかなるでしょう」
目玉焼きはツーロンでも一般的なメニューである。レーナは焦がすくらいはしても、さすがに謎生物が生み
出されることはないだろうと考えていた。しかし、これは儚い希望だったのだ・・・・
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
レーナとスタックは、死んだ魚のような目でフライパンを見つめていた。なぜなら、”クケエエエッ!”という
奇妙な鳴き声とともに、蜘蛛のような脚がフライパンのフタを持ち上げようとしていたからだ。スタックは
またも無言でその謎生物を、炎魔法でフライパンごと屠ったのであった・・・・
「うん、、、そうですねスタック師匠、料理はやめて別の手を考えましょう!」
顔面に営業スマイルを貼り付け遠回しにダメ出しをするレーナ、スタックはキッチンの床にorz姿勢となって
しまうのであった・・・・