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第12話 令嬢、実戦を迎える


「これより騎士団は王都郊外にて魔導部隊と合流、テオドル辺境伯領へと向かう。到着は明日の早朝だ。

諸君、我が王国を、民を蹂躙する不届きものに身の程を思い知らせてやれ!」


「「「「「「うおおおおおおっ!」」」」」」


ベッカーの檄に騎士達が雄叫びで応える。これから彼らは魔導部隊と合流、丸1日かけて辺境伯領都へと

馬を走らせ、そのまま戦闘に移る予定だ。元々精強を誇る第一部隊はこれくらいのことは朝飯前である。

総勢200人、一見少ない人数だがその実力は数千の軍団に匹敵する。ロクに訓練も受けていない野盗

ならば鎧袖一触できる戦力だ。


「よし、我々もいくぞ!」


「「「「「はいっ、姉御!」」」」」


レーナも鎧に身を固め馬にまたがった。舎弟たちも一緒だ。彼らはすでに独立した小隊扱いとなっていた。

隊長格はもちろんレーナである。


”ドラゴンに騎乗すればあっという間に着くのだが、やむを得ぬか、、、、”


前世竜騎士だったレーナはそう思うが、この世界の高位のドラゴンは数が少ないうえ、人族とは全く関わり

を持とうとしていなかった。昔ちょっかいを出した国がまるごと滅ぼされたこともある。まあない物ねだりを

しても仕方ないと、レーナは思考を切り替えた。


「これは、スタック部隊長自ら指揮を執られるとは、礼を申し上げますぞ」


「いや~ん、もうグレイスのためならリネイは例え火の中水の中でもついて参りますわ~」


王都郊外で騎士団を出迎えたのは、魔導部隊隊長のリネイ・スタックだった。いかにもなローブをはおった

アラサーの女性である。彼女はやたら甘ったるい声を出してベッカーを名前呼びしていたのだった。魔導

部隊の部下たちもそれを苦笑しながら眺めている。


「隊長、あの人やたら団長にベタベタしていますね、、、、」


「ああ、、、スタック部隊長は団長に惚れているからな。もっとも団長は何とも思っていないようだが、、、、」


そんな会話を交わすレーナとルミダスに気づいたスタックは、ツカツカと近寄ってきた。


「ねえ、アンタが最近騎士団に入った小娘なの」


「はあ、そうですが、、、、」


いきなり小娘呼ばわりするスタックに内心ムッとしながらも、立場上は上官のため大人の対応をするレーナ、

しかし、スタックは彼女をビシっと指差して


「アンタに団長は渡さないからね! 手を出すんじゃないわよ!」


とのたまった。


「隊長、、、この人大丈夫なんですかね、、、、」


「そう言うなレーナ、団長がらみ以外では優秀なんだ、、、」


そう腰を手に当ててフンスとしているスタックの横で、レーナとルミダスは嘆息するのであった、、、


「よし、全軍出撃だ。同胞の危機を救いにいくぞ!」


魔導部隊30人は馬車に分乗し、騎士団とともに移動を開始した。しかしスタックだけは馬に乗りベッカーの

横にピッタリとくっついている。彼を見つめる瞳は少女のようにキラキラと輝いていた。


「ああんっ! グレイス素敵、もうリネイはいっちゃいますうっ!」


「隊長、、、本当にあの人大丈夫なんですか。もうパープーとしか思えないのですが、、、」


「まあ、仕事はちゃんとするからそっとしておいてやってくれ、、、、」


レーナからパープー認定を受けてしまったスタック、そんなことがありながらも部隊は街道をひた走る。

その時、レーナの戦場で鍛えた感が警鐘を鳴らす。


「隊長、敵意を感じますが」


「お前も感じたか、、、結構いるな」


「全軍警戒! 敵がいるわ!」


レーナやルミダスが感づいたのと同時に、スタックが警戒を呼び掛ける。


「魔導部隊は障壁を展開! 団長は迎撃体勢を取ってください!」


「よし、騎士団は戦闘態勢に入れ!」


その言葉と同時に、街道の両側の茂みから雨あられと矢が降り注ぐ。しかしそれは魔導部隊の障壁に

阻まれた。そして、300人ほどの野盗が飛び出してくる。


「やっちまえっ!」


「ヒャッハアアアアアッ!」


野盗たちはレーナにも襲いかかった。


「女だ、女がいるぞ!」


「そいつから先にやるぞ!」


「甘くみるな!」


馬から飛び降りたレーナは、たちまち数人の野盗を切り伏せる。ベッカーやルミダス、他の騎士たちも

野盗を圧倒していく、だが、今回が初実戦のレーナの舎弟たちはすっかり腰が引けてしまっていた。


「死ねえっ!」


「ひいっ!」


敵を前に思わず目をつぶってしまった舎弟、その前にレーナが立ち塞がり、敵を斬って捨てた。


「おいルカ、敵を前に目をつぶるな!」


「あ、姉御、、、すみませんっす!」


「お前らもためらうな! 生き残りたければ躊躇なく殺せ!」


レーナの檄に落ち着きを取り戻した舎弟たちも、野盗を倒していく。30分ほどの戦闘で野盗たちはほぼ

全滅、生き残りはどこかへと逃げていった。騎士団と魔導部隊には数人の軽傷者が出ただけの圧勝だ。


「姉御、申し訳ありませんっす、あんな無様な姿を晒してしまって、、、」


「気にするな、初陣は誰もが怖いものだ。だが、戦場に慣れた頃が一番危ないからな。それだけはよく

覚えておけよ」


「「「「「はいっす!」」」」」


レーナも初陣なのだが、彼女に心酔している舎弟たちは何の疑問もなく素直に返事をしていた。一方、、、、


「スタック部隊長、障壁のおかげで矢を防ぐことができた。礼を言うよ」


「はい~、、、、グレイス様の剣技もとっても素敵でしたわ~、私も見てて感じまくりでした~」


魔導部隊を指揮していた凛々しい姿も雲散霧消し、顔を真っ赤にしてクネクネと体をくねらせる残念な

アラサーの姿があった、、、、


「隊長、、、さっきとはまるで別人ですね、、、、」


「レーナ、あれがスタック部隊長の通常営業だ。まあ慣れてくれ」


「わかりました、、、、」


足止めを喰らった彼らは遅れを取り戻すべく、以前よりも早いペースで移動を開始した。


「陛下、王都の影から報告が入りました。王都直轄騎士団と魔導部隊はテオドル辺境伯領へと向かいました。

陣容は団長のベッカー以下、約200名です」


「そうか、では第一師団を国境まで出撃させたまえ。やつらと野盗が戦闘に入ったら進攻させよ」


「御意に!」


ラングレー王国の王城、国王ダミド・ラングレーはそう軍務卿に指示を出した。


「ふふ、もうすぐあの豊かな土地が我らのものになるな」


「はい、さすれば我が国の国力もますます増大することでしょう。さすれば、魔王はもちろんあの忌々しい

ドラゴンどももさして脅威にはなりますまい」


「そうだな、あれがある限り、我が王国の繁栄は約束されたも同然だ」


ダミドは自分がこの世界の覇者になる未来を想像して、醜く笑うのであった・・・・


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