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第10話 令嬢のおねだり


「よし、レーナ、次は私が相手しよう」


「えっ! 団長自ら相手もするのか」


「ええ、これでは我が騎士団が、入団後2か月も経っていない小娘にかなわない情弱者と、殿下に思われ

かねないですからな」


しかしリシューも、王都直轄騎士団が弱者だとはこれっぽっちも考えてはいない。本来は1人で並みの騎士

10人分ほどの実力がある、と言われているのだ。要は、レーナが規格外すぎるのである。


「団長、今日こそは勝ってみせますよ」


「そうはいかんなレーナ、オジサンの意地を見せてあげるよ」


バスクからも3本に1本は取れるようになったレーナが、まだ唯一勝てていないのが団長のベッカーだ。

二人は模擬戦とは思えない殺気を剥き出しにして対峙する。


「くっ! 前よりも鋭いな!」


初撃を加えたのはレーナだった。一気に間合いを詰めるとベッカーの首に一閃を放つ。かろうじて彼は

紙一重でそれをかわす。


”本当に躊躇なく首を狙ってくるねえ、、、まさしく戦場で鍛えられた剣技だな”


内心でそう戦慄するベッカー、一方、自信のあった一撃を避けられたレーナは不満そうな表情だ。


「今のを避けますか、、、」


「ははは、まだまだ”お嬢さん剣法”に負けるわけにはいかないからねえ」


その言葉に、レーナはプチンと切れてしまう。


「言ったな! もうお嬢さんなどと言わせぬぞ!」


敬語すら忘れて、ベッカーに怒涛の打ちこみを開始する。


「うおおおおおおおっ!」


「おー怖い怖い、、、女は怒らせちゃいけないねえ」


だが、怒りにまかせて打ちこんでくるレーナの剣を、ベッカーは余裕の表情でかわしていく。そんな一時の

感情で打ちこまれる剣など、最初の一撃よりも読みやすいからだ。


「はい、そこガラ空きよ」


「か、、、がはっ!」


ベッカーの剣がレーナの腹をえぐるように打ちこまれる。彼女はもんどりうって地面に倒れてしまう。口から

は嘔吐物があふれていた。


「レーナ、何度も言っただろう。感情に身を任せてしまったら格下の相手でもやられるぞ」


「ぐ、、、ぐふ、、、団長、、次はこうはいきませんよ、、、」


その言葉を最後に、レーナは意識を手放した。ベッカーは彼女を医務室に運ぶよう指示をする。


「はあ、全く負けず嫌いだねえ、、、」


「ベッカー団長、さすがに今のはやり過ぎでは、、、、」


「殿下、手加減していたら今頃医務室に運ばれていたのは、この自分ですよ」


リシューの咎めるような言葉に反論するベッカー、なおエリスは


「確かにレーナお姉さま、前世に比べると技のキレもスピードも半分以下ですね。ベッカー団長、どうか

お姉さまのご指導よろしくお願いいたします」


と、ベッカーに彼女の更なる指導をお願いするのだった。


「いや聖女様、あれで半分以下って、、、まあわかりました。これからみっちりと鍛えますよ」


エリスの言葉に、ベッカーは苦笑しながらそう答えた。


「はあ、、、また団長には勝てませんでしたか、、、、」


「先ほども言ったが、君は感情的になりすぎる。その点を直さんと戦場では命取りになるぞ」


「面目次第もございません、、、、」


医務室で目を覚ましたレーナは、ベッカーからのアドバイスに素直に耳を傾けた。どうも前世の記憶を

取り戻してからというのも、早く元の力を手に入れたいと焦り気味であったのだ。


「まあ、レーナお姉さまならすぐ元の力に戻りますよ。ところで、この世界の魔王の実力は、どれくらいかと

思われますか」


エリスの問いにレーナはしばし考えて答える。


「そうだな、残された記録から見るに、前回現れた魔王はドラコのやつに匹敵するな」


「ああ、、、ドラコさんと同等ですか」


「あやつも本気になれば、国の一つや二つ滅ぼせるくらいの力はあったからな」


レーナは前世因縁のあった魔王を引き合いに出す。しかし、それにエリスは方向違いの感想を持って

しまうのだ。


「ドラコさんといえば宝来軒、、、あの味が懐かしいですわ、、、、」


「そうだな、、、、もう二度とあれが味わえないのは残念だ、、、、」


「な、なあ、、、そのホーライケンというのは一体何なのだ、、、」


心底無念そうな表情の彼女達に、リシューが質問する。それにレーナはざっくりとその魔王が日本にやって

きて評判の飲食店を経営していたことを説明した。彼はこちらでいう平民向けの食堂に、その世界の要人

や高貴な御方がお忍びで訪れていたことに驚愕してしまう。


「いや、魔王が飲食店経営って、、、しかも高貴な方をも虜にするとは信じられないな。その魔王、料理に

魅了の術式でもかけていたんじゃないか」


「いえ、それはありません。そやつも先代の店主、普通の人族でしたがその味に惚れ込んで弟子になった

のですから」


「大体、ニホンにはマナがありませんでしたから、術式もほとんど発動できなかったのですわ」


「そ、そうなのか、、、」


リシューも完全にあっけに取られたような表情だ。だが、前世の味恋しさのあまり、彼女達は更に暴走

してしまうのだ。


「はあ、、またあの半チャンラーメンや餃子を食べてみたいものですわ、、、」


「大公家に覚えている限りのレシピは残してきたのだがな、我々の生きている間に宝来軒まで辿りつける

かどうか、、、そうだエリスよ、聖女の力を持ってドラコのやつをこちらに召喚できぬものか」


「それはいい考えですね! 早速召喚術の研究をやりましょう!」


「ちょっと待てええっ! なに魔王なんぞを召喚しようとしているんだああっ!」


ただでさえ近いうちに現れる魔王の対応にピリピリしている矢先、別の魔王を召喚しようとするパープーな

彼女達に、リシューは魂からの叫びを上げるのであった・・・・


「全く殿下ときたら、”召喚するなら勇者か剣士にしろ”なんて、そんなもの召喚してもラーメンや餃子が

作れるはずないじゃありませんか」


「いやレーナ君、殿下の意見は真っ当だと思うのだがね。ぼくはもう君や聖女様の思考が理解できないよ」


「団長、”美味しいは正義”ですよ」


「・・・・・・・・」


勇者など役に立たぬと言外に言い放つレーナに、さすがのベッカーも無言になってしまった。だんだん

彼女がどこか、実はこいつパープーなんじゃないかと感じてきたからだ。


「はあ、、、まだ我がままなご令嬢だった頃の君の方が、扱いやすかったかも知れないねえ、、、、」


「団長、何を言うのですか。あんな宝石やドレスばっかりおねだりしていた頃の自分が、もう恥ずかしくて

しょうがありませんよ」


その言葉を聞いたベッカーは内心、


”いや、今の君は食欲のために、魔王をおねだりしているだろう”


と思ったのだが、口に出すことはなかった・・・・


エリス達が帰った後、医務室でそんなとりとめのない話をしていたレーナとベッカーに、慌てた様子の騎士

が駆け込んできた。


「ベッカー団長、テオドル辺境伯領より緊急の魔信が入りました! 大規模な野盗の集団が辺境伯領を

襲撃、すでに3つの村が壊滅し領都も攻勢に晒されているとのことです!」


「なんだと!」


レーナに、今世初めての実戦が始まろうとしていた。


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