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第1話 令嬢、婚約破棄される


「レーナ・フローレス、そなたとの婚約を破棄する!」


豪華な王城での華やかな舞踏会、ここに何ともテンプレな婚約破棄の宣言が響き渡る。


「フローレス大公令嬢、そなたは親の権力を笠にきて、身分が下の者たちを虐げまくっていたことはすでに

調べがついておる。それだけではない! こともあろうに当代の聖女であるエリス嬢に対する数々の嫌がらせ、

更には階段から突き落として危害を加えようとは言語同断、もはや王妃にはふさわしくない。追って沙汰が

下るまで、この第一王子リシューの権限をもって謹慎を命ずる!」


そう断罪を告げるのは、この国の第一王子であるリシュー・ド・プリエール、次期国王にして傾国の美貌を

誇る貴公子だ。その横に佇むのはエリスという平民の少女、しかし彼女はただの平民ではない。女神の

お告げによって瘴気を浄化できる能力を持つ、聖女として認定されているのだ。その地位は王族とほぼ

同等なのである。


ここは地球とは異なるマナに満ち溢れた剣と魔法のテンプレな世界ツーロン、その中でも一、二を争う

大国、プリエール王国の王城で、このテンプレな婚約破棄騒動が巻き起こったのである。


その槍玉に上げられたのは王族に次ぐ地位を誇る大公フローレス家の長女レーナ、彼女は両親から蝶よ

花よと甘やかされて育ってしまい、自分より下の者を見下し取り巻きのおべっかに気を良くするという、

これまた典型的な”悪役令嬢”であったのだ。


特に、聖女であるエリスに嫉妬して危害を加えようとしたのはまずかった。聖女は来たるべき魔界との

戦争において重要な役割を果す”戦力”だ。それを害しようなど、国家に対する反乱と同じなのである。


「どうしたフローレス嬢、何も言えぬのか。そうだろう、己の悪行は全て王国府も把握している。身分はく奪

くらいではすまないぞ!」


「あ、あのー殿下、私は謝ってもらえて二度と危害を加えない、と約束していただければ結構ですから、、、」


「ふふ、さすが聖女殿はやさしいな。こんな悪女にまで情けをかけるとは」


リシューはエリスを愛おしそうに見つめるが、彼女は何だかいらんことをしてくれるな、という風情であった。


しかし、レーナはそれどころではなかったのだ。婚約破棄を告げられた瞬間、彼女の脳内には別の人間の

記憶が一気に流れ込んできたのだから。そう、彼女はいわゆる”前世の記憶”を思い出してしまったのだ。


「う、う~ん、、、、」


それに耐えられなくなったレーナは、そのままバタンと倒れてしまう。さすがに周囲も慌てて医務室へと

運んでいった。一方、リシューはそんな彼女を一瞥しようともせず、舞踏会の再会を告げるのであった。


「むっ、ここは、、、、」


1時間ほどして、レーナは運ばれた医務室でパチリと目を覚ました。起き上がり鏡を見て自分の容姿を

確認すると、縦巻きロールで吊り上がった目つきの、美人ではあるがテンプレな悪役令嬢がそこに存在

していた。


「確かに、今まで親の権力を笠にきて、とんでもないことをやっていたな」


彼女はこれまでレーナとして過ごしていた記憶も保持していた。ただし、その人格はすっかり前世のもの

にすり替わっている。そして今までレーナが行っていた振る舞いは、前世の自分からみてもとても看過

できるものではなかったのだ。


なぜなら、彼女の前世は常に民のため、そして弱き者のために尽くしてきた、最強の”竜騎士”であった

のだから・・・・


「これは、我が命をもってお詫びするほかあるまい、、、、」


レーナは起き上がりあたりを見回すと、ちょうどフルーツの皿の上にあったナイフが目についた。彼女は

それをもって再び舞踏会会場へと足を運んだのであった。


「エリス嬢、ぜひ私と一曲踊っていただけないか」


「いえ、でも殿下と踊りたがっているご令嬢が大勢いらっしゃいますので、そちらを優先されてはいかがですか」


「ははは、私が踊りたいのはエリス嬢、君だけだよ」


エリスがやんわり断っていることに、リシューは気がついてない。レーナの他にもエリスを疎んじている貴族

令嬢は多い。彼女は余計な恨みを買いたくないのだが、まだまだお子様な殿下はそこまで気が回らない

ようだ。


「フローレス様、一体何事ですか!」


そんな舞踏会会場に、衛兵の大声が響き渡る。皆が一斉に声のした方を振り返ると、そこにはナイフを

手にしたレ-ナがリシュー達の方に向かってきたのである。


「えっ、あれフローレス様なの、、、、」


「なにか、先ほどとは雰囲気が違いますわよ、、、、」


「ナイフなんて持って、一体何をする気なんだ」


ざわつく会場だが、誰もレーナを止めることはできない。なぜなら、彼女の出すオーラに完全に押されて

いるからだ。


「くっ、まさかエリス嬢に危害を加える気か! 衛兵、そいつを取り押さえろ!」


「「「「「ははっ!」」」」」


衛兵が取り押さえようとするが、彼女の一睨みでその動きを止めてしまった。それはとても貴族令嬢の

ものではない、まるで歴戦の武将のそれであったから・・・・


「ふむ、この程度の気で動きを止めるか、、、そなたら、少し練度を上げねば皆を守ることなぞできぬぞ」


「貴様、何を訳のわからないことを言っている。逆恨みして襲うつもりか!」


リシューの言葉にレーナは居住まいを正し、床に座る。それはこの世界にはない”正座”の姿勢だった。

更に彼女は皆が驚愕する行動にに出る。そのまま深々と土下座したのだった。


「な、なっ、、、」


「リシュー殿下、エリス嬢、それに皆の者、これまで私が行ってきた数々の非道な振る舞い、真に申し訳

なかった。ここに謝罪させていただきたい」


「フローレス嬢、言葉だけで許してもらえると思っているのか・・・・」


しかし彼女の謝罪にも、リシューは許しを与えようとはしない。


「殿下、私ももはや言葉で詫びて済むものとは思っておらぬ。だから、、、、」


「だから?」


この時、レーナはうららかな春の陽気のような穏やかな笑顔で、


「この腹かっさばき、我が命をもってお詫びさせていただくぞ」


と、のたまった。


「「「「「「はえっ!」」」」」」


一同、レーナの言葉に理解が追い付かない。しかし彼女は豪奢なドレスを引きちぎりその腹を露わにすると、

思いっきりナイフを振り下ろした。


「なっ、衛兵殿とめてくれるな!」


「フローレス様、お気を確かになさってください!」


だが、そのナイフは我に返った衛兵の手で、腹に1cmほど食い込んだだけで止められた。それでも彼女

の腹からは鮮血が流れ出し、それを目にした令嬢や貴婦人たちの何人かが気絶してしまう。


「生き恥を晒して生きようとは思わぬ! どうか腹を斬らせてくれい!」


「な、なにおっしゃられてるのですか! おおい! みんなも止めてくれえええ!」


前世の記憶を取り戻したといっても、その肉体は非力な貴族令嬢だ。数人の衛兵に取り押さえられた

レーナは出血も相まって、再び気を失い医務室へと逆戻りするのであった。


「な、なんだ一体、、、何が彼女に起きたんだ、、、」


いきなりの切腹騒ぎに呆然とするリシューたち、しかしエリスは内心で、


”あの人、前世は武士だったのかしら、、、、”


と思うのであった。こうして、舞踏会での椿事は幕を閉じた。そしてこれからレーナの新たな物語が始まった

のである。


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